一般貨物自動車運送事業を主業とし倉庫事業も手がけるダイワ運輸株式会社(兵庫県神戸市)は、長年悩んでいたドライバーの勤怠管理を Claris FileMaker で解決。課題から効果までダイワ運輸の木村 溶徹 専務執行役員とシステム開発を担当した Office GRAND LINE 代表 柴田 浩継氏にお話をうかがった。
複雑なドライバーの勤怠管理
一般貨物自動車運送事業を主業とし倉庫事業も手がけるダイワ運輸株式会社は、平成3年(1991年)に運輸業許可を取得し事業を開始、幹線輸送を主軸にとした一般貨物自動車運送事業のほか、倉庫業も手がけており、現在、関西だけでなく関東から九州にかけて 13 拠点を置く企業として発展し、多くの地域の物流を支えている。幹線輸送においては東京〜大阪間を中心に高速道路を利用した 10 トン車による大型輸送をおこなっているほか、精密機械輸送・食料品輸送・産業廃棄物収集運搬などを手掛けている。保有する車両の中には、加湿・冷蔵機能を持つエアコン装備車両、全輪エアサスペンションを装備した専用車両で精密機械輸送を担うなど、日本の工業物流を担っている。
ダイワ運輸株式会社が所有する全車両には、デジタルタコグラフ(デジタル式運行記録計:略称 デジタコ)とセーフティーレコーダーが導入されている。睡眠時無呼吸症候群への対応など、乗務員の安全運転の徹底を図ると同時にドライバーの勤怠管理も FileMaker で一括管理しており、ISO9001 や ISO39001、グリーン経営認証などを取得するなど、品質・人材・環境に配慮した一体経営をおこなうことで取引先企業から厚い信頼を獲得し、安定した経営を続けている。
現在、厚生労働省労働基準局では、「自動車運転者の労働時間等の改善の基準」を設けており、トラックドライバーの拘束時間は 1 日 13 時間が基準(上限 16 時間まで)となっており、休憩時間は 4 時間ごとに 30 分以上取得するよう示されている。つまり、ドライバーが連続して運転できるのは最大 4 時間までであり、4 時間走った場合は必ず 30 分以上の休憩時間を設けなければならない。また、休憩時間の他に休息期間についての基準も設けられており、勤務から解放されて、次の勤務につくまでの時間を休息期間として、休息期間は 1 日8 時間以上必要としている。さらに、拘束時間(労働時間+休憩時間)も管理しなければならない。
同社の経営を担う 木村 溶徹(ようてつ)専務は、ドライバーの安全運転と労務管理について次のように語る。
「車両運行は、デジタコによって管理されており、走行時の速度・時間・距離の情報のほか、急加速や急減速、ドアの開閉、アイドリング情報なども取得され、労務管理にも活用が可能ですが、ドライバーには、拘束時間と労働時間という考え方があります。
- 拘束時間 = 労働時間+休憩時間 で、始業から終業までとなります。
- 労働時間 = 拘束時間ー休憩時間 です。休憩時間には、昼食・夜食・仮眠時間などが含まれます。
定時が決まっている事務職種と異なり、ドライバー勤務体系は特殊です。例えば、午前中に荷物を下ろして次の集荷場の近くまで一旦移動し、近くについたら 4 時間ぐらい仮眠をとってから夕方に仕事を再開、夜中にパーキングエリアで明け方まで仮眠を取る場合もあります。このような形で一日に複数回労働が発生するケースもあります。また、労働と労働の間の時間が 8 時間以上空いた場合は別の労働日として捉え、8 時間未満なら長い休憩時間を取った後に労働が継続した状態としてカウントします。これらの労務時間の管理もしっかりと実施してドライバーの過労防止、お客様の荷物の安全、交通の安全に努めています。」
デジタコだけでは労務管理に限界
現在、ダイワ運輸ではグループ全体で約 700 台の車両を有しており、ドライバーも多い。出勤後のアルコールチェッカーや配送準備など、運行外の業務があれば、デジタコから取得したデータをそのまま労働時間として使うことはできない。
「過去、勤怠についてはドライバーがデジタコ情報をもとに手動で入力しなければならない状況でしたので、過去に何度も入力ミスが発生したことがあります。さらに、デジタコから出力されるデータは、事業所別やドライバー別に分類されているわけではありません。そのため総務担当者が各事業所やドライバーに確認して、表計算ソフトに入力し直し、給与計算システムにデータ送信する状況でした。給与計算ひとつとっても、出力したデータをもとに再入力、データ加工、修正やドライバーへの確認作業など煩雑な業務になっていました。」
勤怠管理の煩雑さを解消しようと木村専務が相談したのが、テクニカルアドバイザーの柴田 浩継氏だった。
「ご相談をいただいた際に気をつけないといけないと感じたのが、導入するシステムのユーザビリティです。どんなに良いシステムで便利なものだとしても、使い勝手が悪いとかえって作業負担が大きくなり、余計に時間がかかってしまうため、現場に受け入れてもらえません。そうなっては意味がないので、利便性と使い勝手のバランスに最も重点を置きました。」
今回の導入にあたり、プログラミング言語の使用経験のある柴田氏がいくつかのツールやプラットフォームから、最終的に選択したのは、Claris FileMaker だった。今回の案件にはポイントが 2 つあったという。一つは、将来的に内製も可能であること。2つ目は、他システム連携が可能であることだった。
「将来的に、私が現場から離れてもそのままダイワ運輸様だけで運用できるように、内製可能なプラットフォームを探していました。開発者しかわからないシステムのブラックボックス化が起きてしまうと、いずれ誰もシステムを改修できなくなってしまいます。少なくとも、内部構造は理解していただけるようにする必要がありました。また、当初からデジタコや、給与計算システムを現場で使用していましたので、それらシステムともデータ連携が可能なプラットフォームで最適だと感じたのが FileMaker でした。」
開発期間 4 か月のスピード導入
2020 年 10 月に開発をスタートし、4 か月後の 2021 年 2 月には現場にシステム導入したというスピーディーな開発期間も FileMaker ならではだったと語る柴田氏。導入後は、デジタコから取得したデータは FileMaker を介して、営業所別・ドライバー別に自動分類され、表計算ソフトで加工可能な状態に自動処理される。FileMaker 上で表計算ソフトにパスワードを自動設定し、各営業所へメール送信機能で配布、給与計算システムに入れ込むという自動化を実現している。表計算ソフトにパスワードを自動設定するのはセキュリティ上の理由だけではなく、同じ月のデータを再送するケースが発生した場合に最後に書き出したデータかどうかを再確認する意味もあるという。
手動でおこなっていたデータの分類・加工が自動化され、データ修正の確認作業などはこれまでと比べてスムーズになり、残業時間も軽減したそうだ。木村専務はシステム導入後についても次のように語る。
「導入後は、手作業での編集がなくなったため、ヒューマンエラーによる時間の集計ミスが確実になくなりました。 また、FileMaker が各システムを中継するハブのような役割を果たしているため、データの滞りがなくなりました。 FileMaker プラットフォームを採用したシステムのおかげで、総務部門の労働時間の短縮にもつながり、年間 200 万円以上ものコスト削減を達成しました。現場も、業務量は減って全体の仕事に余裕が出てきた気がします。改めて数字で見ると効果は大きいです。」
社会インフラを支えつづける、誇りある実輸送集団
運送業は価格で選ばれる時代から、“安定した高品質の輸送サービスで選ばれる物流” へと変化している。
ダイワ運輸グループは、『高品質の輸送サービスを顧客に提供し、持続可能で豊かな社会の実現のために貢献します』という企業理念の下、品質・人材・環境に配慮した経営で、IT 投資も積極的におこなわれている。今後の抱負を木村専務は次のように語る。
「働いた時間に対しては、正当な報酬を支払うという大切な業務が正確におこなわれるということは、当たり前のようでいて実は難しいことです。今回のシステムの開発は、私たちが大切にしているドライバーの環境をより良い方向に進められました。
FileMaker の活用により、さまざまな効果を実感することができたので、今後は別の業務にも拡張して活かすことができないか検討しています。運輸業界は、アナログな部分がまだまだあり、紙の書類や FAX も多く残っています。それでも、ロボットの導入や、法律の改正などで確実に業界は変化していますので、その流れに遅れないように、継続的に取り組んでお客様に選ばれる高品質の輸送サービスを提供していきたいです。」
【編集後記】
業務効率化を進めるためだけではなく、ドライバーの労働環境を守るためにもシステムを導入を決めた木村専務。倉庫事業では防湿・防塵・結露対策が施され、LED 照明を採用した省エネ対応の最新の物流倉庫が稼働しています。アナログな運用が多い運送事業者において、ダイワ運輸はさらにデジタル化と積極投資を加速し、受注増加が期待される。その改善に FileMaker が一助となっていることを嬉しく思います。