新型コロナウイルス感染症の影響で在宅勤務が増えたここ数か月で、スタッフがリモートワークに慣れていない、事務所に行かないとできない業務があるなど、組織の課題も浮き彫りになりました。
そんな中、京都大学複合原子力科学研究所の山村研究室は、非常にスムーズにテレワークに移行できたといいます。
そこで、同研究所の山村 朝雄教授にお話を伺いました。山村教授は原子力の研究をしながら、研究プロジェクトのデータ管理のためのシステムを Claris FileMaker で自ら構築、運用管理されています。
システム開発の背景やテレワークへの移行にも寄与している活用方法、導入のポイントなどについてご紹介します。
属人性を排する情報管理で、「教えてもらわなくても動ける」環境づくり。
FileMaker はバージョン 2 のころから、個人的に活用し、トラブルを生じない高い信頼性を感じていました。共有機能がかなり強化された FileMaker 11 がリリースされたことがきっかけとなり、研究プロジェクトデータ管理システムの開発をスタートさせました。
当時、所属していた東北大学の研究室では放射性物質や施設の管理といった非常に気の抜けない業務に加え、大規模なプロジェクトが進んでおり、1 つ 1 つの業務を早く完結させることが切実な課題でした。
FileMaker を導入するまでは、共有フォルダ、案件ごとに整理されたリングファイルや、メールベースで仕事をしていました。管理でも研究でも、常に新しい状況が生じます。
そのため毎週、管理や研究ごと多数の案件について会議が必要となります。案件数が多いので、項目毎に1週間の対応事項とそのフォローアップをすると打ち合わせが 5〜6 時間かかることも。
この準備を人力で行うと、非常に優秀な秘書の方でも、必要なメールを印刷等してのアジェンダの準備で 1 日、終わった後でも議事録をまとめに更に1 日と、実働時間の内、 3 日間は会議のためだけに時間を使ってしまうような状況でした。そこで、 1 週間にいくつもの会議で数時間ずつかかっていた自分自身の状況も改善するために、FileMaker システムを導入しました。
FileMaker を導入してからは、情報管理や検索が非常にシンプルになり、会議開催がかなり自動化されました。その鍵は、会議毎にアクションを付した KB というアプリにあります。
KB 内には、プロジェクトに関わる情報が全て管理されています。そのため会議が始まるまでに各人が 1 週間に行ったアクションを KBで確認ができるようになりました。
結果、次に対応すべきことを話し合ったり、フォローすることだけに注力でき、短時間で生産性の高い会議の実施が実現。また、KB は属人性を排することを考えてつくられているため、研究室に加わった新しい方でも、全ての情報を把握することができます。
情報の欠落によって締め切り間際に未対応のことに気付くようなことや、塩漬けになって放置されるという心配もなくなりました。
プロジェクトに関わる様々な立場の方にとって win-win のシステムですが、それが実感できる程度のメンバー数というと 10 名以内くらいでしょうか。
普段の業務は KB という司令塔アプリのみ使っていればミーティングはもとより、過去の経緯や関連する情報が手に入ります。
メンバー間ではメールは使わず、「見てね!」という機能で案件のアクションに記載して質問します。経緯、付帯情報など含めての質問となるので、相互に情報格差などの問題なく明確になります。また、問題となる箇所があると、リンクで別のアプリの問題の画面にすぐに飛べるのでシームレスに打ち合わせできます。
研究室の運営では、メンバーの様々なアクティビティを支える大小様々なコミュニケーションやルール作りが必要です。この部分を丁寧に行うには時間がかかるので、往々にしてメンバーのコアタイムを長くして対処したくなります。この部分を「見てね!」に基づく案件のアクションで、趣旨を記載したスライドで説明する等で、対面で議論を尽くすというより、スッと受け入れて進んでいける感じです。
京大に来てからまだ二年ですので、「研究室文化」も醸成途上となりますが、各人のコアタイムを短くしながら、各人のサポートとアクティビティを最大化できればと考えています。
このようにチームの共同作業に必要なプロジェクト情報の全てが FileMaker 一か所で管理されているおかげで、今回のようにテレワークが必須となった状況でも、何の問題もなくスムーズにテレワークへ移行できました。テレワークで重要となる機密情報の扱いも、京大内での指定に従って情報格付けを行い対応しています。
小さく導入し、大きく育てる。大きな鍵は、成果を見せること。
FileMaker は、小規模なグループから使い始めると、導入しやすいのではないでしょうか。新しいシステム導入において最も大切なことは、周囲を巻き込んでいけるかどうかです。
東北大学在籍時に FileMaker のシステムを導入した際は、先に成果を見せることで巻き込みに成功しました。FileMaker を使ってスムーズに会議が進んでいる、という様子が外から見えると、システムが「上手く動いている」という印象が醸成されます。本格導入が決まる頃には、周囲もうまく業務が回るイメージができているので、順調に運用を進められました。
導入のしやすさ、という意味でも、小さくつくって、大きく育てていける点はとても強みですね。基本機能は軽微につくり、現場の業務状況を見ながら、必要に応じて機能を拡充していくことができます。
また、職場によって、環境は千差万別です。大学は事務機構がありますが、全てをしてもらえるわけではないので、教育・研究・管理・産学連携に関する事務を研究室内でスムーズに分担し進める必要があります。
私がつくった FileMaker も、今の職場では役に立っていますが、他の職場でそのまま活用できるとは限りません。メンバーのちょっとした違いによって、がらりと変えなければいけないこともあるでしょう。
私の場合は、ワークフローをどうしたらシンプルにできるかを考えています。しかし、メンバーとのなにげない会話から、自分では見えていなかった課題に気づかされることも多いです。FileMaker なら、課題に合わせて随時アップデートしていくこともできるため、コミュニケーションをとりながら、アイデアを出しながらよりよいシステムに育てていくことができます。
人が担っていた部分をシステムが肩代わりする、という意味では、組織・グループを運営していく人が関わってこそ業務のワークフローを変えていけるものになります。その際に、メンバーにメリットを実感してもらえることで、アプリが使われ、業務量の軽減、そしてワークライフバランスの実現につながっていけばと願っています。
[編集後記]
属人性のないデータ管理の仕組みを FileMaker で構築できた背景には、山村教授の徹底的な現状分析がありました。非属人化によるスムーズな業務進行は、勤務時間の短縮や人件費の削減といった成果にとどまらず、本来もっとも重要なこと=「研究」により多くの時間とエネルギーを費やすために欠かせない仕組みとなっています。ノウハウの共有、データ管理、コミュニケーション、タスク管理などを1 つのアプリの中で実現できるソリューション。さらに詳しくは、山村教授の研究室のホームページでぜひご確認ください。