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充実したおもてなしの秘訣は脱アナログ。「あったかい」サービスを支える業務システムとは

目次

  1. アナログの予約や顧客管理が大きな負担に
  2. 相談から 2 週間で提案されたサンプルシステムを見て採用を即決
  3. LINE 連携でコスト削減とユーザビリティを両立
  4. ホスピタリティあふれるサービスを効率的に提供
  5. 紙と受電を大幅に削減。新人スタッフでも高レベルのサービスが提供可能に

1. アナログの予約や顧客管理が大きな負担に

Mellow Tea House は、株式会社成社が運営する福井県敦賀市の紅茶専門店である。同社は福井県内でカレーチェーンのフランチャイズ店を 4 店舗運営。2022 年には、新業態の飲食店として、スリランカの最高級茶葉ムレスナティーの専門店 Mellow Tea House を立ち上げた。

同店には 100 種類以上のフレーバーティーが並び、多彩な紅茶を楽しめる。そのサービスは独特で、基本となるのは 2 時間で 8 杯程度の紅茶を楽しんでもらうというコースである。このビジネスモデルについて株式会社成社 代表取締役 三谷 成人氏は、「100 種類以上の紅茶を、お友達や家族とおしゃべりをしながらたっぷり楽しんでいただきたい。そのときにカップが空になっているのは嫌なので、違うフレーバーの紅茶を次々に提供したいと思いました」と語る。

同店が最も大切にしているのが顧客へのホスピタリティだが、その裏側で予約管理に苦労していた。来店客の多くが予約をして訪れるが、その管理方法はアナログであったため、対応に手間がかかっていた。以前の状況を三谷氏は、「紙のカレンダーに時間と名前や人数をメモしていましたが、予約が増えてくると受付の可否がとっさに判断できませんでした。予約の 9 割は電話だったので、すぐにわからないと折り返す必要があります。店が忙しい時の電話対応も大変で、困っていました」と説明する。

またリピート客からは「前回最後に飲んだ紅茶を今回も飲みたい」といったリクエストもある。三谷氏自身もいろいろなフレーバーの紅茶を楽しんでもらうため、以前飲んだものとは違う紅茶もさまざまに提供したいと考えている。そのような要望や方針に応えるためにはメニューの記録も必要だ。「伝票にすべて手書きして、次回はそれを参考にしながらコースを組み立てるため、その作業も大変でした」(三谷氏)。

株式会社成社 代表取締役 三谷 成人氏

2. 相談から 2 週間で提案されたサンプルシステムを見て採用を即決

三谷氏が課題解決の相談先として思いついたのが、Claris パートナーであるパットシステムソリューションズ有限会社 特別顧問 河村 将博氏である。河村氏は長く Claris FileMaker の開発やトレーニングに携わっており、現在はパットシステムソリューションズの特別顧問として活動をしている。同社は神戸市にオフィスを構えるが、河村氏は敦賀市の近隣に在住しているため完全リモートワークで勤務している。

実は 2 人は 10 年ほど前からの知り合いだ。「システムの仕事をしているとは聞いていましたが、たぶん仕事での接点はないと思っていました」と三谷氏は言う。しかしアナログの作業に限界を感じていた三谷氏は、気心が知れている河村氏に頼みたいと考え、相談することにした。パットシステムソリューションズの河村氏はその経緯を、「ある日、三谷さんが運営しているカレー屋に昼ご飯を食べに行ったら三谷さんが居て、話があると言われ Mellow Tea House に連れて行かれました」と笑う。

パットシステムソリューションズ有限会社 特別顧問 河村 将博氏(左)と三谷氏(右)。気心知れた二人は取材中も笑顔が絶えない

河村氏はその場で三谷氏の困りごとや現状を確認。2 週間後には FileMaker で簡単なサンプルを作成した。サンプルを見た三谷氏は採用を即決。FileMaker によるシステムの開発を河村氏に依頼することにした。しかし河村氏にはひとつ大きな問題があった。当時、ある大きなプロジェクトにかかわっており、それが終わらないと新たなプロジェクトに取りかかれない状態だったのだ。そう話したところ、三谷氏は「待つ」と回答。河村氏の別プロジェクトの終結を待って、約 1 年後の 2023 年夏に開発がスタートした。

3. LINE 連携でコスト削減とユーザビリティを両立

開発にあたっては、まず三谷氏のやりたいことをヒアリング。その基本的なアイデアに従って、実装はパットシステムソリューションズの河村氏が行った。その中心となる考え方は、やはりホスピタリティだ。Mellow Tea House はチェーン店のように不特定多数の人に平等のサービスを提供するのではなく、足繁く通う常連客を手厚いサービスでもてなすホスピタリティにチャレンジする店だ。河村氏自身もサービス業のキャリアが長く、その経験から思いついた機能も提案している。

今回のシステムでは顧客側のインターフェースとして LINE を選択した。その理由を河村氏は次のように語る。「来店や飲食の履歴を記録するには、個人の特定が必要です。その手段として独自のアプリケーションを開発するケースもありますが、開発に多額の費用がかかるうえ、多くの場合お客様はインストールを躊躇されます。忙しい時間帯にお客様のアプリのインストールから登録までを店舗でサポートするのも現実的ではありません。一方 Mellow Tea House のお客様はほとんどが女性で、多くの場合 LINE を使っています。誰もが使う LINE を活用することで、イニシャルコストがぐっと下がります。お客様にとっても面倒なインストールや登録作業が不要なので使いやすい」。

顧客管理の手順は次の通り。来店客が QRコードから Mellow Tea House の LINE 公式アカウントに友だち申請をすると、Claris Connect を介して FileMaker にデータが送信される。顧客の LINE にはリンクが返信され、そのリンクから名前と誕生日を送信すると個人情報の登録が完了する。

予約は LINE 公式アカウントから行う。「ご予約受付」ボタンをタップし日時と人数を入力すると、個人情報の登録時同様 FileMaker にデータが送信される。FileMaker 側の管理画面ではメニューの文字が赤く変わり、新着メッセージがあるとすぐにわかる。予約内容を確認して席を決め、予約を受け付けた旨の返信をする。その際は定型メッセージのほか、個別にコメントを追加することもできる。

Claris FileMaker 側の管理画面(左)と来店客の LINE 画面(右)

顧客とのやり取りとしては、この他に前日の予約確認と来店当日の夜 8 時に送信するサンクスメールがある。後者はパットシステムソリューションズの河村氏の考案で、来店への感謝と共にその日頼んだメニューがリストアップして送られる。「お客様が驚いて『こんなメールが届きました』と、スクリーンショットを送ってきてくださることもあり、喜ばれています」(三谷氏)。

システム構成は、サーバーが Claris FileMaker Cloud で、クライアントが Claris FileMaker Go をインストールした iPad が 3 台である。利用シーンは店舗とキッチンなので iPad が最適だった。「LINE 連携と FileMaker Go だけの仕組みはいずれも初めてで、iPad の操作性にもこだわったぶん苦労しました。ですが多くの飲食店が大変な思いをされていたコロナ禍に新たなチャレンジをされることに心意気を感じ、私も挑戦しました」(パットシステムソリューションズ 河村氏)。

4. ホスピタリティあふれるサービスを効率的に提供

顧客のアクションへの対応はしっかり行うが、基本的に Mellow Tea House 側から顧客に対して、キャンペーンやセールといった一斉メッセージを送ることはない。LINE 登録ですら、来店客の方から「また来たいから登録したい」と申し出られて初めて QRコードを見せる。あくまでも常連顧客に特別なサービスを提供するためのシステムなのだ。

来店時は LINE 公式アカウントから、顧客が自分自身でタップ。スタッフに合い言葉を告げるよう促すメッセージを返信し、顔と名前が一致していなくても個人が特定できるようにしている。

紅茶の種類はそれまで三谷氏が考えていたが、現在は食べ物や季節に合わせた複数のコースをあらかじめ用意。紅茶の注文に合わせてコースを選択し、さらに会話の中で得た顧客のリクエストなどからカスタマイズできるようにした。

オーダーが決まるとキッチンにデータが送られる。キッチンでは壁面に掛けた iPad に紅茶の順番と食べ物のオーダーリストを表示。紅茶は 2 時間で 8 杯提供することを目安としており、15 分に 1 杯の割合が目標だ。

紅茶にはタイマーが設定されており、提供してから 10 分経つと枠が青に、15 分を超えると赤になる

5. 紙と受電を大幅に削減。新人スタッフでも高レベルのサービスが提供可能に

本システムを利用することで、予約記録用のカレンダーや伝票などの紙が大幅に減少した。またリピーターによる予約の多くが LINE 経由になったことで、店舗での電話対応が減少。現在電話経由の予約は、約 3 割にまで減った。予約が電話で来た場合も、現在はすぐに予約状況がわかるため可否が即答できる。

紅茶のコースの組み立てや記録も簡単になり、スタッフの負荷が大きく軽減している。三谷氏は、「これまで予約の前日から、お客様の以前の記録を見てコースの順番を考える必要がありましたが、それがなくなりました。新人スタッフでもレベルの高いサービスが提供できるようになり助かっています」(三谷氏)。

来店客の注文履歴が日付ごとに確認でき、コースの組み立てもしやすくなった

効率化以外の効果もある。顧客の過去の注文を記録できるようになったことで、好みの把握が容易になった。今後このデータを活用して、一定回以上来店した顧客に対し、例えば誕生月に好みの茶葉をプレゼントしたり、AI を使って個人専用コースを作成するといったことも検討中だ。

FileMaker について河村氏は、「FileMaker は小さく始めることができ、現場のニーズに合わせて柔軟に変更できます。飲食業界の課題は山積みですが、できることを一つずつ行っていくしかありません。課題解決にはデジタルツールが必須であり、ツールをまったく知らなかった三谷さんがそのシンプルさ、柔軟さから FileMaker のファンになったように、FileMaker が課題解決の役に立つはずです」と語る。

最後に三谷氏は、「小さい企業が生き残るには、自社の強みをより高める必要があります。しかしそのためには既存のシステムでは当てはまらないことが多い。強みを生かすには、業務に合わせてシステムを構築でき、柔軟に変更できる FileMaker が役に立つと感じています」と語った。

【編集後記】

壁掛けカレンダーに予約を書き留めるといったスタイルで業務をこなしていた三谷氏は、「アナログ人間」を自認する。しかしあまりの煩雑な業務にシステム化を決断した。「ログインって何?」というレベルからのスタートであり、使いこなすまでには相当苦労したという。その苦労を経てシステムが定着した現在は、大きな効果を実感している。業務が行き詰まったときはそれまでのやり方に固執せず、まずは踏み出してみることの大切さを痛感した。