事例

ありがとう、蜷川晋さん。心からの敬意と感謝を込めて。

2020 年 12 月 28 日、株式会社スプラッシュの創業者/代表 であり、長年にわたり Claris パートナーとして FileMaker 界を牽引された蜷川晋さんが逝去されました。蜷川さんは、日本だけでなく、世界の Claris コミュニティになくてはならない存在であり、蜷川さんと親交のあった世界中の人々が早すぎるお別れを惜しみました。

先日、蜷川さんが積極的に関わっていた米国の非営利団体「Women Innovating Together - FileMaker(WITfm)」が、蜷川さんの功績を称え、記念の奨学金基金「Shin's Memorial Scholarship」を設立しました。そこであらためて、蜷川さんに感謝と敬意を込めて、Claris コミュニティにとって蜷川さんがどのような存在だったのか振り返ってみたいと思います。

蜷川さんとかけがえのない多くの時間を共に過ごしてきた株式会社スプラッシュの与座さつきさんに、上司であり、メンターであり、大切な友人であった蜷川さんについてお話をうかがいました。

技術面での惜しみないサポート

与座さんは、初めて参加した Claris FileMaker のワークショップで蜷川さんに出会い、その後、株式会社スプラッシュに入社します。

「晋さんとの思い出は、数えきれないほど思い浮かびます。面倒見が良くてチャーミング。仕事中も、いつもみんなを笑わせていました。いつも笑顔をたたえ、独特のユーモアで人を笑わせて、その場の雰囲気を明るくしてくれる人でした。頭の回転が速く、好奇心旺盛で、いつもアクティブに動き回っていました。

私がスプラッシュに入社したばかりの頃、早くプログラミングに慣れるよう、晋さんは週末返上でマンツーマンの FileMaker トレーニングを行なってくれました。当時は、晋さんが有名なトレーナーだとは知りませんでした。今思えば、とても恵まれていましたね。」

可能性を見出し、背中を押してくれた

数年後、蜷川さんは与座さんに FileMaker カンファレンス(現 Claris Engage Japan)で、セッションスピーカーを目指してみないか、と勧めます。与座さんの可能性を見出して背中を押し、十分な準備をした上で臨めるように仕事のスケジュールを調整してくれました。

「晋さんは素晴らしい上司でした。技術的な指導だけでなく、私の特性をうまく伸ばせるよう惜しみなくアドバイスや挑戦の機会を提供してくれました。スプラッシュの全プロジェクトに関わり、いつも周りの人を助け、刺激を与えてくれる、頼れる社長でした。いつも元気に動き回っていて、いつ睡眠を取っているんだろう、と思っていました。」

小さな身体に大きな好奇心

蜷川さんは、小柄な身体で大型車をスマートに運転し、スキー、ゴルフ、ボルダリングなど、スポーツも大好きでした。頭の回転が速く、人を笑わせるのも大好き。それに猫が大好きで、捨て猫の保護にも積極的に参加し、保護団体に定期的に寄付をしていたほか、自分自身も家と会社の両方で保護猫を飼っていました。

「とにかく好奇心の塊のような人でした。また、デジタルとアナログを使い分けられる人で、iPhone のデジタルなメモだけでなく、紙と万年筆も愛用していました。」

日本と世界をつなぐ架け橋

Claris Engage(米国、日本ほか世界各地で開催される FileMaker の年次カンファレンス)のような大きなイベントでも、FileMaker ユーザが集まるミーティングやコミュニティでも、蜷川さんの周りには自然と人が集まってきたと言います。

「晋さんは、大好きな FileMaker の楽しさをみんなに伝えたいと考えていました。日本と世界の FileMaker デベロッパーの架け橋のような人でした。」

与座さんは蜷川さんのことを “FileMaker の妖精さん” と呼んでいました。

「すごいスピードで魔法のように cool なスクリプトを書き、英語と日本語と関西弁を自在に操って相手をあっという間に魅了し、ウィットに富んだいたずらをしかけてはいつもくすくす笑っていました。まるでティンカーベルみたいだなあと思って。」

世界中の人々が蜷川さんへのメッセージや思い出を共有できるよう、スプラッシュの社員が FileMaker を使ったオンライン追悼イベントを開催しました。蜷川さんが大好きだったオフィスに祭壇が設けられ、新しいメッセージが FileMaker を通して追加されるたびにキャンドルとお香が灯されました。キャンドルは 161 回も灯され、その様子はリアルタイムで配信されました。

「晋さんは、今は透明な ”FileMakerの妖精さん” になって、いつでもそこにいると思います。」

「Women Innovating Together - FileMaker(WITfm)」が設立した奨学金基金「Shin's Memorial Scholarship」は、テクノロジー分野の女性の大使としての蜷川さんの遺志を継ぎ、アジア太平洋地域(APAC)の女性が今後の Claris Engage カンファレンスに参加する際に役立てられます。

Shin's Memorial Scholarship について、詳しくはこちらをご覧ください。


あとがき

インタビューの後、スプラッシュのみなさんがどのような想いを込めてオンライン追悼イベントを開催されたのか、与座さんからコメントをいただきました。あとがきにかえて、ご紹介します。

訃報の発表後、多くの皆様から弔問の可否やお別れ会の開催について問い合わせをいただきましたが、ちょうど 2 回目の緊急事態宣言が発令されたタイミングでもあり、当面は多くの方をお招きしてのイベント開催は計画できない状況でした。私たち同僚にとってもそうでしたが、多くの方にとって突然の訃報であり、1 年後、2 年後ではなく「今」こそ彼女の思い出を語り合ったり、最後のお別れを伝える機会が必要でした。そこで、FileMaker を使ったオンライン開催を模索しました。彼女が人生を捧げた FileMaker に皆様からのメッセージを書いていただくことは、とても意味のあるだと考えました。何より、彼女には日本中、世界中に多くの友人がいましたから、オンラインで開催することで、遠方の方からもメッセージを寄せていただけると思ったのです。

幸い私たちのチームには、すぐにやりたいことを実現する技術とアイデアがありました。みなさんに書き込んでいただくカスタム App を開発し、FileMaker Go と FileMaker WebDirect で公開しました。海外からのアクセスも考慮して、英語表記に切り替わるように配慮しました。メッセージを書き込むだけではセレモニーに参加している実感が薄いので、オフィスに設けた祭壇の様子を YouTube Live で中継することにしました。中継に際しては Claris パートナーの有限会社ファクトリーの社長で蜷川さんの長年の友人でもある西村さんに相談して、アドバイスをいただきました。カスタム App に新しいメッセージが書き込まれると、祭壇の iPad にメッセージが表示され、同時に LED キャンドルと LED お線香が灯るようにプログラムしました。実際に火を灯すわけではないので安全に長時間のセレモニーを開催することができます。

そのようにして、告知期間も含めて企画開始から 2 週間後、私たちは「オンライン焼香会」を開催しました。海外の方には馴染みが薄いであろう「お焼香」というセレモニーに果たしてどのくらい人が集まるかと心配しましたが、国内外から多くの追悼メッセージが書き込まれました。オンライン開催への感謝のメッセージもたくさん届きました。中には Live 中継されたセレモニーをずっと見ていたという方や、数人でビデオチャットをしながら思い出を語り合っていた方々もいらしたようです。

みなさんからいただいたメッセージは後日出力して蜷川さんのご家族にもお送りしましたが、とても喜んでいただきました。このイベントを開催したことは、スプラッシュのスタッフにとっても気持ちを整理して前向きに業務に取り組むきっかけになったと思います。

2021 年 4 月 28 日 株式会社スプラッシュ 与座さつき