小学校受験に特化した体操教室「自信を育む体操教室」は、その優れた指導と実績が評判を呼び、年々生徒が増加している。一方で業務量の増加により手作業に頼る管理業務が難しくなり、システム化を決断した。同社のシステム化の取り組みと経緯、成果などについて、一般社団法人 小学校受験体操専門 自信を育む体操教室 代表 福井 秀明 氏と同社の管理業務とシステム開発を担う株式会社 Tcube 代表取締役 徐 伯昇 氏に話を聞いた。
成長に比例して増大する管理業務
近年小学校受験は大きく変化している。有名私立小学校の入試では、ペーパー試験以外に「指示行動」「集団行動」などを実施。具体的には試験官の指示を理解して指示通りに行動するよう努力をするか、他の受験者と一緒にゲームや運動をする中で運動能力や他者とどう関わるかなどが考査され、その結果が合否を大きく左右するようになっている。
自信を育む体操教室は、そのような小学校受験に特化した体操指導を行っている。「子どもたちの諦めない力、集中する力、最後まで粘り強くやり抜く力、他者といい意味で競争する力、人と関わる力といった非認知能力を身に付けることで、将来の基盤をつくることを目指しています。そして、まさにこれらが小学校受験の試験官の評価ポイントとなっています」(福井氏)
同教室はマンツーマン指導を含む少人数指導に特徴があり、少人数の利点を活かして運動技能と指示行動を完璧に習得するまで粘り強く指導。子どもの興味とやる気を引き出す指導力は広く保護者に支持されており、多くの子どもたちを有名私立小学校に合格させた実績を誇る。
同教室は 2016 年の開校以来、質の高い指導が評判を呼び、受講生は右肩上がりで増えていった。当初は入会申し込みの対応から入金管理、受講者管理、レッスンまでほぼ 1 人で、しかも手作業で行っており、徐々に対応が難しくなっていったという。
開発が速く OS を選ばない。 iPhone で業務を完結できる点を評価
一方、Tcube は、経理代行などのビジネスアウトソーシングサービスを手掛けており、初期段階から自信を育む体操教室の経理および業務管理を請け負っていた。教室は先生や事務スタッフも徐々に増えていたが、同時に生徒数も増加しており、手作業の限界が見え始めていた。徐氏は元々会計分野が専門だがシステムにも造詣が深く、2018 年、福井氏に対してシステム開発を提案し、開発に着手した。「手作業では何をするにも時間がかかり、ミスも排除できません。スタッフが少人数だからこそ、システムの力が必要と提案しました」(Tcube 徐氏)
このとき、システム開発のプラットフォームとして徐氏が提案したのが、 Claris FileMaker だ。その理由を徐氏は次のように語る。「福井先生からすべての業務を iPhone で完結させたいというご要望がありました。それを実現するには FileMaker が最適です。また FileMaker は Mac でも Windows でも動作し、開発にかかるスピードも速い。他の選択肢はありませんでした」。
2018 年末ごろから開発に着手し、約半年後の 2019 年 5 月、最初の教室管理システム「 Minsche (ミンスケ)」が稼働。ある程度の自動化は実現したが、運用するうちに残る課題も見えてきたため、2021 年にステージ 2 の開発に着手した。2021 年 12 月にまず会員向けアプリをリリースし、その後 2022 年 3 月までにすべてのバージョンアップを完了させる予定だ。
Tcube のサポートについて福井氏は、「最初のシステムを作ってから、様々な課題が発生しましたが、それらを話し合いながら解決すべく一緒に取り組んできました。頼もしいパートナーです」と語っている。
申し込みから決済までを自動化。会員管理のペーパーレスも実現
入会の第一歩は体験クラスの申し込みから始まる。従来はホームページのフォームから申し込まれた内容が各クラスの先生にメールで送られ、メールで返信していた。これでは返信までに時間がかかるうえ、教室や日時の間違いを完全になくすことはできない。間違えないために何度も見直すなど、教員に精神的な負担をかけていることも問題だった。
さらに決済機能がなかったことで、体験クラス参加料金のやり取りは実際に申し込み者が教室に現れてから対応していた。そのため、申し込んだ顧客が無断キャンセルで教室に現れなかった場合の料金回収ができなかった。「少人数制なので、1 名いらっしゃらない場合でもかなりの損害です。その方のために他の方が体験クラスを予約するのをお断りする場合もあり、大きな課題となっていました」(福井氏)
元々の決済方法も口座引き落としを原則としており、口座振替の申請手続きが非常に煩雑だった。徐氏は、「書き間違いや印鑑が薄いなどの理由で申込書が戻ってくるケースも少なからずありましたが、口座振替・引落代行会社からその理由が説明されないので何が悪かったのかわかりません。いつから引き落としが始まるかもわからず、保護者には入会時に 3 か月先まで入金していただく必要があり、教室・保護者双方に大きな負担がかかっていました」と説明する。
こうした問題を解決するために、新しい Minsche では、体験クラス希望者がホームページから会員登録をすると、申込用の URL 、ID 、パスワードを記載したメールが自動で返信される。決済方法はクレジットカードに統一し、体験クラスに申し込むと、SB ペイメントサービスの API 連携により、顧客登録を行う。教員は iPhone の FileMaker Go で、体験クラスの申し込み内容を確認し、承認すると、 Minsche からSBペイメントサービスの API 連携により、Minsche でクレジットカード番号を登録しなくても、クレジットカード決済ができる仕組みだ。体験クラス開催時には既に決済が終わっているため、申し込み者が来なかった場合でも取りこぼしがない。
また、自動返信する保護者宛のメール文面にも工夫を凝らした。教室が広尾教室・駒沢教室と 2 つあるため以前は教室を打ち間違えるケースがあった。そのため、文面に教室名を繰り返し表示し、間違いなく来てもらえるよう促している。
従来は紙で行っていた会員管理についても、スケジュール管理画面のクラスをクリックすると、参加者の一覧が表示されるようになった。日程の振り替えは、保護者本人でも教員でも簡単に行うことができる。「日程の振り替えは、年末年始や受験直前を中心にかなり頻繁にあります。教室側も把握が大変ですし、保護者の勘違いもありました。会員専用サイトで予約しているクラスを確認できるようになり、間違い防止に役立っています」(福井氏)
経理業務の大幅な効率化と“あるべき経理”を実現
経理処理も大きく変化した。経理業務には、請求内容を確認して決済代行サービスに送る作業と、確定した売上の仕訳作業がある。前者の課題について福井氏は、「繁忙期には生徒が 100 人を超えるので、決済サービスにデータを送る前の最後の確認作業だけで 2 時間程度かかっていました。その前に経理担当が自分で確認する時間もあります。間違いがあってはならないので注意深く何度も確認しており、精神的にも負担でした」と語る。後者については、全明細を確認して仕訳を行う必要があり、毎月 2 ~ 3 日かかっていた。口座振替ゆえに残高不足で引き落としができないケースもあり、引き落としがされなかった顧客に連絡して入金を促す手間もあったという。
また徐氏は経理を預かる立場から、本来の“あるべき経理”にしたいと考えていたと次のように語っている。「年間クラスの場合、前月に請求するので、その時点では前受け金として処理します。その後翌月に役務を提供したら売り上げをたてるというあるべき経理が、システム化によって可能になります」。
新しい Minsche(ミンスケ)では、経理処理すべき明細が一覧で表示される。月謝の場合は「継続」、それ以外は「都度」と表示され、値引き設定なども可能だ。一覧を確認し問題がなければ一括で実行でき、決済データは決済代行サービスに送られる。「一覧が自動的に表示され一括実行できるので、大幅な効率化が期待できます」(福井氏)
自動仕訳された決済データは CSV ファイルとして抽出し、会計システムに一括入力。これにより経理業務が大幅に効率化。請求、入金、役務提供のタイミングが明確になり、前受金、売上高、入金を分けて計上でき、仕訳作成されるようになり、徐氏が目指す経理が実現する。
システム活用により経営とレッスンの質を向上
開発にあたっては、複雑な制御やシステム連携のため、他のプログラミング言語を組み合わせて構築した。1 つは時間割の制御である。 FileMaker は JavaScript の呼び出しができるので、JavaScript を使いながら時間割の作成、クラスの振り替えといった複雑な制御を可能にしている。「時間割はスケジュールではありますが、別の角度から見ると予算でもあります。教室別、講師別の予算がカレンダーに表されている必要があるため、時間割の仕組みにはこだわりました」(徐氏)
今後は、経営分析ツールも開発する予定だ。生徒数遷移の分析や、クラス別・教室別の収益性などが翌年度の時間割につながり、その成否が経営に直結するからだ。時間割作成に手間暇をかけたのも、分析可能なデータベース構造にすることで経営分析を可能にし、最適な時間割を作成するためだ。実装にあたっては、FileMaker と Excel をデータ連携し、 ピポットテーブルを使って分析をする予定。徐氏は、「システムは業務を改善するだけでなく、効果測定や新たな意思決定に役立つデータを提供できなければならないと考えているので、しっかりと取り組んでいきたい」と語っている。
教室としては、業務が大きく改善することで、顧客サービス向上につながるという。福井氏は、
「効率化することで、スタッフの育成により多くの時間をかけられるようになることが重要です。私たちの使命は質の高いレッスンに全力を尽くし、子どもたちの可能性を最大限に伸ばすことです。そのためにはレッスンの自己研鑽を惜しまないことが重要で、そこにもっと時間が使えるようになると期待しています」と語っている。
Tcube は今回開発した Minsche(ミンスケ)を、同社のラインナップの 1 つとして他社にも展開していく予定だ。
【編集後記】
少子化により、教育業界の競争が激化している。そのなかで自信を育む体操教室は、年々生徒数を増やし続けている。少人数制による質の高いレッスンを行うことで、第一志望に合格した生徒の保護者が新たな生徒を紹介するという好循環のスパイラルが実現しているのだ。このスパイラルを陰で支えているのが、Tcube が FileMaker で構築した Minsche である。先生たちが雑務から解放されることで、その時間を教育に費やし、さらなるレッスンの質の向上を目指す。
自信を育む体操教室 の Web サイト:https://fukui-taiso.com/