沖電グローバルシステムズ株式会社は沖縄電力の 100 %子会社で、1991 年に設立された。県内有数のシステムインテグレーターである同社では、2017 年から社内の管理業務に Claris FileMaker を導入。最初に作成したアプリは一部署のみで利用するものだったが、5 年を経て全社が活用するまでに拡大してきている。同社で Claris FileMaker がどのように広がったのか、現場を統括する電力システム本部・業務統括室課長の仲間 哲博 氏に聞いた。
表計算ソフトを使った社内管理業務に課題
沖電グローバルシステムズ株式会社は、沖縄県内におけるビジネスアプリケーションの設計・開発、ネットワーク基盤の設計・構築を柱とし、設計、製造・構築からテスト、検査、品質管理、運用保守までトータルなサービスを提供している。同社は、沖縄県内で初めてプライバシーマーク使用を許諾され、2012 年には ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を取得するなど信頼性、安全性を重視し、沖縄電力関連はもちろんのこと県庁・警察をはじめとした官公庁や、民間企業に至るまで沖縄のミッションクリティカルなシステム運用を支援している。
「お客様に対しては完成されたシステムを納品するが、一方で自社内のプロジェクト管理や採算管理業務には表計算ソフトを利用している」というのは、システム開発会社あるあるかもしれない。
しかし、表計算ソフトは、バージョン管理の困難さなど、複数人で同時作業するには難点も多い。それはかつての沖電グローバルシステムズも例外ではなかった。当時の状況を仲間氏は、「複数の部署で発生する工数を積み上げるような複雑な処理を表計算ソフトで行おうとすると、多大な時間と手間がかかります。入力規則の制限もできないので、間違いも起きやすかった」と語る。
開発も修正もスピーディーな Claris FileMaker を選択
そんなとき、沖縄県内のエンドユーザ企業の間で Claris FileMaker の導入が広がっていると耳にした仲間氏は Claris FileMaker のイベントに参加。当時沖縄でイベントを主導していたのが、Claris 社認定パートナーの 合同会社イボルブ 八木 省一郎 氏である。そこで八木氏を Claris FileMaker 開発に際してのアドバイザーに迎え、開発の相談やトレーニングを委託した。八木氏自身は Claris 認定パートナーとして日本郵船など複数の企業に対して開発支援をおこなってきている実績豊富なコンサルタントだ。
開発にあたっては、ルールづくりから学んだ。「長年にわたって利用するためには、メンテナンスし続けられることが重要です。そのために開発時に留意すべき『標準とルール』とは何かを学びました」(仲間氏)。最初に着手したのは、蓄積しているインシデントを分析し、傾向を探る品質管理アプリである。一通りの作成方法を八木氏から学び、開発は仲間氏が行った。困ったときには八木氏に相談するというスタイルである。
仲間氏自身は、Microsoft Access 、Java 、JavaScript などの開発経験があり、Claris FileMaker 開発プラットフォームでの開発に際しても大きな問題を感じなかった。それどころか、開発スピードの速さ、そして開発をしながらアプリを成長させていく手法に新たな発見もあったという。「業務は都度変わります。従来の開発言語ではその変化にスピーディーに追い付くことができません」(仲間氏)。
その後、共通 DB 管理(ポータル機能)、入退館記録管理、帳票出力数管理と次々にローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker を使って表計算ソフトからアプリを構築していった。
特に開発に時間をかけたのは、案件登録、工数設定、収支・稼働率計算の機能を有する工数管理プロジェクトである。システム開発会社における工数管理は、3 層構造になっている。一つのプロジェクトに対して、( 1 ) 業務分掌される管理組織の割当て ( 2 ) 各組織内の工数管理チーム割当 ( 3 ) 担当する個人の工数、となる。
同社のプロジェクトでは、業務中枢システムを担当する部署、ネットワークを含めたインフラ共通基盤を担当する部署、営業部門などがある。PM、PL、SE、PG のような役割それぞれに単価が割当られているが、スキルや立場でも単価は異なり、変動も多い。部署をまたぐ案件も多く、各部署の管理者が入力した見積工数が積算されて請求や売上計上に至る。プロジェクト単位の採算はもちろん、会社全体の年度・四半期・月次集計なども必要だ。その根幹となるのが各部署における工数管理システムへの入力である。従来、表計算ソフトを活用し、集計作業に数日かけていた作業を Claris FileMaker でアプリケーションとしてリリースする一大プロジェクトである。
工数管理で顕在化する現場の拒絶 3 要素
プロジェクト管理・タスク管理・工数管理ツールは、世の中に多く存在し、月額数百円のクラウドサービスで利用開始できるものも多い。しかしながら、導入しても現場の理解が得られずに運用に失敗したり、現場に大きな負担を強いて我慢している組織も多いといわれている。
仲間氏は、過去の経験から、現場で工数管理システム導入をするにあたり現場の協力が得られない 3 要素をあげている。
1. クリックする回数が多い
2. 入力する項目が多い
3. 入力選択肢が多く複雑
工数管理システムが汎用的に作られていると、現場から拒絶されて利用されなくなるため、現実的に継続して入力可能であるかを最も重視したという。そのため、仲間氏が Claris FileMaker 上で機能実装するにあたっては、過去のデータをそのまま流用できる点が多いという同社の業務特性を捉えて以下の点を重視した。
( 1 ) 一から入力するのではなく、前月の値をコピーしておき、その差分入力を基本とする。
( 2 ) 勤務システムから過去の工数実績データを一括連携し実績入力を省力化する。
( 3 ) 各個人が未来月に予定している案件は、個々の案件を登録するのではなく、グルーピングされた案件を登録することにより、入力を省力化する。
つまり、徹底的な入力負荷の削減にこだわった形だ。他にも、同じ入力フォームであってもログインする所属部署の担当者によって表示される選択肢を絞り込み、過剰な選択肢を表示させないなどの工夫もしている。これにより、上記の「システム導入をするにあたり現場の協力が得られない 3 要素」を排除した仕様を心掛けた。
表計算ソフトで 3 日かかった管理がわずか数秒に
工数管理の分析や役員へのレポート作成には表計算ソフトを使用。Claris FileMaker 側から社内の指定ファイルにデータを自動反映するようにした。本導入にあたっては、アドバイザーである八木氏より、米国の Claris Partner 360Works が Claris FileMaker Plugin として提供している Scribe (スクライブ) の導入支援を受けた。
Scribe は、Claris FileMaker のデータを文書作成ソフト、表計算ソフト、PDF 、HTML などに反映する仕組みを提供するもの。Web ブラウザでアプリケーションを実行できる Claris FileMaker WebDirect を主に利用する同社にとっては開発工数を削減できるプラグインだ。
工数管理システムのリリースまでは、最新のファイルを探したり確認する手間が発生していた。「今では FileMaker がリアルタイムに反映する最新データであり、ボタンをクリックするだけで常に最新情報を利用できるようになりました」(仲間氏)。
部署単位の総工数集計・原価率は毎月 3 日ほどかけて集計されていただけに、わずか数秒で最新データが入手できることは組織に Claris FileMaker を普及させる上で大きな助けになった。
開発は Claris FileMaker Pro、運用は Claris FileMaker WebDirect
過去に Microsoft Access で展開していた経験から、バージョンアップや不具合などの問題を回避するため、クライアント PC に Claris FileMaker Pro をインストールすることをは極力避けた。MacOS、Windows OS にインストールできる Claris FileMaker Pro だが、200 名以上の ユーザに配布することで発生するバージョン管理を一切なくしたかったという。帳票関係は前述の Scribe を利用するため、FileMaker WebDirect から 文書作成ソフト、表計算ソフト、PDF などに出力が可能である。多くのデータ集計が Claris FileMaker Server 上で処理されるが 現時点では Claris FileMaker Server 1 台で処理を賄っている。
多言語での開発経験がある仲間氏は Claris FileMaker での開発において Web アプリケーションがこんなに簡単に展開できることに時間的な魅力を感じると同時に、次なるアプリ展開のアイデアが生まれているという。仲間氏は、「 FileMaker はフィールド定義やスクリプトの名前を簡単に変えられます。直感的に UI 開発しながらも後々のメンテナンスを考慮して変更できるため、手戻りのない開発が柔軟に行えます」と高く評価している。
チーム開発を目指し若手の開発者育成に着手
仲間氏はこれまで基本的に 1 人で開発を行ってきたが、1 人ですべて管理することには限界もある。「継続性という面でも限界があります。何かあったとき助けてくれるチームを作りたいと思いました」(仲間氏)。そこで 3 名の若手に声をかけ、Claris FileMaker の教育がスタートした。その 1 人が入社 8 年目の電力システム本部 業務統括室 所属の町田氏である。町田氏はこれまで沖縄電力のシステムの運用保守を主に担当。利用者の権限管理などを担当しており、開発に関しては経験が無かった。それでも、「システムのデザインやフォントを自由に変えられることで自分の仕事が目に見えるので仕事をしていて楽しいです。これから FileMaker 開発を楽しく学んでいけそうです。アプリを展開するうえで、機能が重要なので FileMaker をがんばって学び続けたい」と意欲的だ。町田氏が仲間氏の片腕として活躍する日も近い。
また、企画総務部 情報システムグループ 係長 伊波氏も、現在学習中の 1 人。今後、資産管理に iPhone と Claris FileMaker Go を活用したいと考えている。「直感的に操作でき、みんなに入力してもらう必要があるような場合に役に立ちそうです。全員 iPhone を持っているので、いろいろな用途に使えそうです」(伊波氏)。
全社員が利用できるサイトライセンス契約へ
沖電グローバルシステムズは、2022 年に全社員が Claris FileMaker を利用できるサイトライセンス契約に切り替えた。これにより、Claris FileMaker Server の増強やアプリの構築においても追加ライセンスなく自由に展開できる。これを受けて、社内では全社的に利用できるアプリの開発プロジェクトが動き出している。
その 1 つが新入社員の教育管理システムである。これは、新入社員がどのような研修を受けて、どのように成長していくのか、そのベストプラクティスを目指すため、データ化して管理するもの。一人ひとりの人材育成に力を注ぐ同社では、日々多忙な現場に流されないよう、計画的な学びを実施。学習履歴や面談内容、資格取得目標とその進捗など、教育にとどまらない人材管理の仕組みを導入しようとしている。
変わった使い方としては、全社員参加型のイベントアプリがある。以前から行っていたウォーキングイベントでは歩数管理が大変で、社員の歩数を集計するだけでかなりの人的リソースが必要だった。今後は iPhone と Claris FileMaker Go を組み合わせることで、iPhone が取得した歩数データを Claris FileMaker Server へ簡単に送信できるので、集計も自動化できる。全員が iPhone と Claris FileMaker を利用する同社では このような企画も追加コストゼロで実現可能だ。
これまで沖電グローバルシステムズの取り組みをサポートしてきたイボルブの八木氏は、「知らない間にアプリケーションがずいぶん増えていて、トレーニングをさせてもらった甲斐がありました。若い人も加わって、非常にいいサイクルが回っています。さらなる活用に期待しています」と語った。
【編集後記】
工数管理向けには多数のクラウドアプリケーションがある。その一方で、パッケージは自社の運用をシステムに合わせる必要があったり、カスタマイズに限界がある。そのような中、沖電グローバルシステムズが選択したのは、現場の要望に応じて機動的に変化でき、拡張性が高い Claris FileMaker だ。システム内製化によって社内の改善が進めば、効率化により生み出された時間で人材への教育投資が充実し、結果として技術力を高め、常にお客様に信頼される会社になる。沖縄県の情報基盤の未来を支える同社の発展が楽しみだ。
【イベント情報】
合同会社イボルブが主催する IT ビジネスイベントが 10 月に沖縄で開催されます。
ビジネスにすぐに使える IT やサービス、導入事例やテクニックを紹介する IT ビジネスイベントで、DXをキーワードに、クラウド、iPad、ムービー、モバイルアプリ、オープンデータ、メディカル、Claris FileMaker など様々なジャンルに渡って最新の情報を学べます。
[開催概要]
- イベント名:沖縄ITビジネスフェス ’22
- 日時:2022 年 10 月 14 日(金)10:00 〜 17:00(予定)
- 場所:沖縄県教職員共済会館 八汐荘(沖縄県那覇市)