事例

小さな一流企業が選んだのは、既成概念やカタチにとらわれないアプリ開発

株式会社レニアス(広島県三原市)の主力製品は、高性能ポリカーボネート樹脂「 RENCRAFT® 」を使った樹脂窓である。特に国内の建設機械におけるシェアは 90% 以上と極めて高く、他の追随を許さない。2020年には、経済産業省から地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手企業として、「地域未来牽引企業」の認定を受けている。同社では Claris FileMaker を活用し、さまざまな課題解決を実現してきた。この取り組みを主導する株式会社レニアス 経営企画本部 総務企画部 システム課 課長 佐藤 吉朗 氏に話を聞いた。

1 ライセンスから開始した Claris FileMaker アプリ開発

株式会社レニアスが提供する高性能ポリカーボネート樹脂 RENCRAFT® は透明度が高く、ガラスより軽くて丈夫なことから建設機械・農業機械のキャビンや、高速鉄道やバスの窓、ゴルフカート、さらには防犯関連製品などにも使用されている。窓用途向けにアルミ製の窓枠も手掛けており、要望に応じてセットでも提供する。週休 3 日制を目指すなど、生産性向上に取り組む働き方改革先進企業でもある。社員 140 名ながら、CATERPILLAR 社の評価制度 SQEP(Supplier Quality Excellence Process)において最高位であるプラチナ認証を取得しているほか、米国・欧州からも素材メーカーとして技術・品質面で高く評価されている「小さな一流企業」だ。

最高性能の PC 樹脂製品が採用されたバス(エアロクィーン)

レニアスで Claris FileMaker が利用され始めたのは、2019 年に SE として佐藤氏が入社してからである。以前同社では基幹系システムでカバーできない管理や処理に Microsoft Access を利用していた。しかし、佐藤氏は同社の経営理念にも掲げられている “既成概念やカタチにとらわれない” 一流を目指して取り組みを決意。新たに Claris FileMaker の導入を決断した。Claris FileMaker はスクリプトの作成などが直感的にでき、何をするにも早いことから、早速アプリ開発に着手した。

多様な受注データを人を介さず自動入力へ

同社は、Web EDI やメールなど、取引先ごとに異なる形態で受注を処理している。受領するデータ形式は、テキスト、表計算ソフト、csv などが混在し、従来の手動入力は、かなりの手間がかかっていた。そこで、佐藤氏は、Claris FileMaker と Microsoft Power Automate を組み合わせて自動化に着手。受注をトリガーに ClarisFileMaker 経由でデータをインポートし、基幹システムにデータを取り込める csv 形式に自動変換。処理後のフローで基幹システムにインポートする。佐藤氏は、「データの経路や形式が各社ごとに異なるため、1 社ずつプロセスを指定して作成しました。現在ほとんどの取引先を網羅する 70 社からの受注について、社内システムへの自動入力が実現しています」と語る。

佐藤 吉朗 氏 (レニアス 経営企画本部 総務企画部 システム課 課長)

また、新規取引先などマスターにないデータが来た場合は、自動的に営業に差し戻す。営業に登録を促し、一定時間後に自動登録するなど、ほとんど人手がかからない仕組みとなっている。さらに受注データを自動集計し、メールや Web コラボレーションシステムに自動配信する仕組みも構築。迅速な情報共有を実現させた。他にも、弁当の注文や受付といった単純なシステムから、AI による需要予測など、さまざまなシステムで Claris FileMaker プラットフォームを活用している。

Claris FileMaker を活用して作成した受付システム(iPad用)

AI による需要予測アプリ

専任の担当が 2 日かかっていた生産計画を 2 時間で

生産現場での Claris FileMaker の活用も進んでいる。2020 年度に取り組んだのが、樹脂にコーティングを施すハードコート工程の計画策定である。ハードコート工程は、コーティングの種類によって加工条件が異なる。条件が大きく変わると時間を空ける必要があるため、稼働がストップしてしまう。効率化と時間短縮には、できるだけ同じ条件帯の製品を並べることが重要だ。一方、コーティングが完了したパーツを吊るす治具はいくつか種類があり、その数に上限もある。そのため、治具の数を超えての製造はできない。当然それぞれの製品には納期があり、次工程に引き渡す締め切りは順守しなければならない。

このような複雑な条件を勘案しながら、基幹システムから出てきた生産計画を並べ替える必要があり、従来専任の担当者が 2 日間かけて並び替えていた。また、このような人的運用では、長期の計画を立てることが難しいという課題もあった。この課題を解決しようと、佐藤氏が担当者にどのように並び替えているかをヒアリング。Claris FileMaker で、ボタン 1 つで工程のスケジューリングが完了する専用アプリを現場と一緒にアジャイル開発した。その結果、約 8 割の並べ替えが自動出力されるようになったという。

「年間にすれば数百時間の効率化が実現したと思います。計画も 2 か月くらい先まで立てられるようになり、属人化も解消できました」(佐藤氏)

生産現場で活用されているハードコート工程並び替え画面

iPad を活用し、生産計画に基づく工程表を可視化へ

現在、さらなる開発に取り組んでいるのが、現場で各工程を確認するシステムだという。生産計画は基幹システムで作成されるが、生産現場ではその画面を見ることができない。そのため、工程ごとに表計算ソフトで生産計画に基づく工程表を作成し展開しており、非常に手間がかかっていた。そこで、基幹システムから Claris FileMaker Server にデータを移行し工程表を自動作成。Claris FileMaker Go を使って iPad から現場で簡単に工程を確認できるようにしている。「まず、1 つの工程について作成し、現場の担当者に使い勝手を確認してもらっています。FileMaker はプロトタイプの作成が簡単にできるので、現場を巻き込んだアジャイル開発に向いています」(佐藤氏)。さらに今後は要望に合わせてブラッシュアップを行いつつ、他の工程にも横展開する予定だ。

拡がるアジャイル開発。世界を見据えるローコード開発。

同社の製品の多くは特注品のため、仕様がそれぞれ細かく異なる。そのため見積書を出すためには、営業担当が設計部門に見積もりを依頼し、設計が計算した原価を元に営業担当者が作成している。佐藤氏は、「お客様に見積書を提出するまでかなり時間がかかっていました。また、設計部門ではひたすら原価計算を行っている担当者が 2 人おり、なんとか負担を軽減したいと考えました」と語る。

製品の種類や仕様を入力すれば見積もりの数値が出てくる仕組みならなんとかなると考え、開発に着手。しかし、問題があった。現在の原価計算は表計算ソフトのマクロを駆使してつくり込まれており、計算結果だけが見えるようなものだった。具体的に何をどのように作ったかは不明で設計データがとれないため、データ移行しての開発を断念。「現在同様の仕組みを FileMaker で作り直し、データを蓄積するためのデータベースを作成しました。これでデータがたまれば、統計解析なり、AI なりを使って、見積ソフトの開発に着手したいと考えています」(佐藤氏)

レニアスでは、現在 ERP パッケージの導入を進めている。佐藤氏は、「現在要件定義を行っており、2022 年 10 月に本稼働の予定です。おそらく多くのサブシステムが必要になると思うので、それらを FileMaker で開発する予定です」と語る。

さまざまな業務に Claris FileMaker を活用し、徹底的な自動化を進めているレニアス。RENIAS AMERICA, INC. を設立し、本格的な海外展開に乗り出しており、これからアジャイル開発でも一流企業としてどう取り組んでいくのかが楽しみだ。

【編集後記】

佐藤氏は入社後まもなく働き方改革を実現するため、Microsoft 365 や VDI の導入を会社に提案。その後コロナ禍が起き、これらが大いに活躍することとなった。その後、受注や工程計画作成の自動化などさまざまな部門の課題解決を実現している。レニアスは、Reactive 、Easy 、New 、Intelligent 、Attractive 、Special という 6つの行動がとれる次世代のリーダー育成に力を入れており、新たな発想で組織に新風を吹き込んだ佐藤氏は、まさに同社の社風にマッチした存在と言えるだろう。同社はコロナ禍においても安定した売上と利益計上が継続しており、その原動力は、佐藤氏を始めとした一流にこだわる人材と、アジャイル開発を受け入れる風通しの良い組織に秘密がありそうだ。