
(Apple Image Playground で作成)
昨年 2024 年 6 月にリリースされた Claris FileMaker 2024(バージョン 21.0.1)から、新しい AI 関連のスクリプトステップおよび関数が追加されました。
本ブログでは、FileMaker ビギナーズ & ジュニアズのみなさんに、FileMaker で「AI」を使うとはどういうことなのか、何ができるのか、どうやって使うのかなどについて、 FileMaker 2024 の発表前後から、Claris パートナーの先達のみなさんが惜しげもなく公開してくださっている知識と技の数々を改めてご紹介します。
また、本ブログ・シリーズの次回以降では、Claris エンジニアリングブログで公開されている方法に沿って、実際に FileMaker カスタム App に AI 機能を取り込んでみます。(はてさて、どうなることやら)
今回の旅路:
- Claris FileMaker と AI
- Claris FileMaker の AI 連携機能
- Claris FileMaker での AI の利用方法
1. Claris FileMaker と AI
聞くところによると、今は「第 3 次 AI ブーム」なのだそうです。歴史はともあれ、昨今すっかり身近な存在となった AI サービスは、ふと思いついただけの疑問に事細かに答えてくれたり、会議の議事録を自動生成してくれたり、誰よりも親身に人生相談に乗ってくれたり、その他いろいろと、もはや生活の一部になっている方も多いでしょう。
「AI(人工知能)」と一言で言ってもできることはさまざまで、炊飯器や掃除機、自動車、自動翻訳ソフト、チャットサービス、不正アクセス検知、工業機械などなど、まさに枚挙にいとまなく利用分野が広がっています。
このようななかで我らが FileMaker では今、「AI 」で何ができるのでしょうか?
「FileMaker × AI 」って何だろう?
FileMaker 自身は AI 機能を持っていません。ですので、FileMaker カスタム App で AI 機能を利用するには外部の AI サービスと連携するか、外部の AI 機能を取り込むかする必要があります。
FileMaker ビギナーズ & ジュニアズのみなさんの中でもご存知の方はいらっしゃるかもしれませんが、FileMaker Pro はバージョン 12 からスクリプトで外部の API サービスと連携する機能を備えています。この API 連携を利用して外部 AI サービスの機能をカスタム App に取り込んだ事例としては、次のものがあります。
- 「hakaru.ai by GMO」を利用したアナログメーター自動読み取り(大阪ガスリキッド株式会社、鴻池運輸株式会社、株式会社ジュッポーワークス)
- 「hakaru.ai by GMO」を利用した測定器計測数値の自動読み取り(株式会社コベルコ科研、有限会社パットシステムソリューションズ)
Apple の Core ML と FileMaker の連携
2021 年にリリースされた FileMaker バージョン 19 では、Apple の Core ML を使った機械学習を利用するための機能が提供されました。
AI 技術の 1 つである機械学習は、大量のデータから「パターン」を学習し、それを基に新しいデータに対して分類や予測をすることができます。Apple の無料の統合開発環境 Xcode に付属している Create ML を利用すれば、自分のデータベース中のデータだけを使って Core ML モデルをノーコードで簡単に生成することができます。
FileMaker では Core ML モデルを FileMaker カスタム App の中に取り込むことにより、機械学習機能を利用する際に外部とアクセスすることなく、外の世界とは独立したアプリケーション(カスタム App)として利用できるようになっています。詳しくは以前の Claris ブログなどを覗いてみてください。
最近では、FileMaker で Core ML を利用した次のような事例が紹介されています。
- 支笏湖(しこつこ)の鏡面現象予測(公立千歳科学技術大学、株式会社 DBPowers)(動画)
- お米(ゆめぴりか)の出穂期とアミロース含有率予測(動画)(地方独立行政法人 北海道立総合研究機構、株式会社 DBPowers)
カスタム App 内のデータを「意味的に」検索する
そして FileMaker 2024 では、生成 AI を利用した「セマンティック検索」ができるようになりました 。セマンティック検索を利用することにより、言葉の「意味」を汲んだ検索をしたり、言葉で画像を検索したり、画像を使って意味的に類似した画像を検索したりすることなどが可能になります。
例えばテキストによるセマンティック検索は、「あなた自身の言葉で」カスタム App 内のデータを検索することができます。これまでのテキスト検索は、例えば検索キーワード「ローコード開発」で検索を実行したとき、「ローコード開発」が含まれていない文書はヒットしませんでした。セマンティック検索を使うと、「ローコード開発」というキーワードが含まれていなくても「Claris FileMaker」に関する文書がヒットする、そういうイメージです。
FileMaker のセマンティック検索はまだバージョンを追うごとに機能強化されている段階なので活用事例はそれほど報告されていませんが、Claris の Web サイトでは次の活用例(英語)が紹介されています。
- 入荷した植物の検品支援(Codence)
- 履歴書の内容から求人案件に対する候補者を発掘(Beezwax)
- 製品に対する顧客レビューの分類と要対応レビューの抽出(Transforming Digital Limited)
2. Claris FileMaker の AI 連携機能
FileMaker で AI 機能(Core ML 連携を除く)を利用するには、大きく分けて 3 つの方法があります。FileMaker Pro の AI 関連スクリプトステップと AI 関数を使用する方法、Claris Connect を利用する方法、そして従来のスクリプトステップを使用する方法です。これらについて順にご紹介します。
FileMaker Pro の AI 関連スクリプトステップ / 関数を使う
本ブログ執筆時点で最新バージョン、FileMaker バージョン 21.1.1(2024 年 11 月リリース)では、AI に関連するスクリプトステップが 6 つ提供されています。そのうちセマンティック検索に関係するものは次の 5 つです(残りの 1 つは機械学習用です)。
- 使用する AI モデルの宣言
- データの埋め込みベクトルをフィールドに挿入
- セマンティック検索の実行
- AI 呼び出しのログを制御(オン/オフ)
また、AI 関連の関数は 9 つ提供されていますが、そのうちセマンティック検索関係の関数は 7 つあります(残りの 2 つは機械学習用です)。
- 処理対象テキストのトークン数の概算
- 直近の AI 関連スクリプトステップで使用されたトークン情報を取得
- テーブル情報をデータ定義言語(DDL)形式で取得
上記 AI 関連スクリプトステップおよび AI 関数の具体的な使い方だけでなく、そもそもの生成 AI の概要やセマンティック検索の仕組みなどについては、次の動画などを参考にしてください。
- Claris FileMaker 2024 では、AI と連携することが可能になりました。(株式会社ジェネコム)
- AI & FileMaker : セマンティック検索(Claris Academy : Basic concepts of semantic search for Claris FileMaker)(日本語字幕有り)
- 今日から踏み出す生成 AI の世界:初心者のための基礎知識と Claris FileMaker との連携 (株式会社ジェネコム)
上記の一番最後の動画は、いろいろな動画や記事で散々情報収集した後で「詰め込み過ぎてわかんなくなったなー」という方の復習にもお勧めです。
Claris Connect を使う
Claris Connect には、本ブログ執筆時点で次の AI 関連コネクタが提供されています。これらを用いて FileMaker カスタム App から LLM モデルプロバイダの自然言語処理サービスを利用することができます。
- OpenAI コネクタ
- Anthropic コネクタ
Claris Connect を利用する場合については次の動画などを参照してください。
- Claris FileMaker と Claris Connect を用いた ChatGPT 活用講座(株式会社データファーム)
- Claris FileMaker と生成 AI 〜 Caris Connect でつなぐ GPT-4 〜(株式会社テクニカル・ユニオン)
FileMaker Pro の従来のスクリプトステップを使う
冒頭でもご紹介しているように、FileMaker Pro で以前から提供されているスクリプトステップを使って、カスタム App において AI 機能と連携することができます。この他、JavaScript を利用して独自の AI モデルを利用した処理を実行する方法もあります。これらのアプローチでは、次のスクリプトステップを使用します。
JavaScript ではいくつかの AI フレームワークが利用でき、高度なアプリケーションを構築することができます。次の動画なども参考にしてください。
- FileMaker 2024 機械学習用 JavaScript ライブラリ ml5.js を使ってみよう(株式会社ジェネコム)
- MediaPipe と Create ML を使用したアクション分類器による、カスタム App の構築(株式会社ジェネコム)
3. Claris FileMaker での AI の利用方法
FileMaker カスタム App で AI 機能を利用する
前のセクションでは、カスタム App で AI 機能を利用する方法をご紹介しました。なお、FileMaker バージョン 21.1.1(2024 年 11 月リリース)では、テキストに対するセマンティック検索に加え、画像に対するセマンティック検索が可能となっています。画像に対するセマンティック検索は、与えられたテキストに関連する画像を検索したり、与えられた画像と意味的に類似した画像を検索することができます。
Claris パートナーのみなさんはこのような Claris プラットフォームのネイティブな機能を利用しつつ、生成 AI のより高度で自由度が高い機能を利用する工夫をされています。下記のリンク先をぜひ参考にしてください。
- AI 時代の Claris FileMaker セマンティック検索実践講座(株式会社寿商会)
- Claris FileMaker と OpenAI/API 連携 〜Function Calling を利用する〜(株式会社 DBPowers)
- RAG と Claris FileMaker で実現する AI 統合の最前線(株式会社寿商会)
- Claris FileMaker と Core ML で実現するスマートな業務自動化(株式会社イエスウィキャン)
FileMaker カスタム App の開発に AI 機能を利用する
FileMaker で AI 機能を利用するのはカスタム App だけではありません。私たちがカスタム App を開発する過程でも AI 機能がとても有用であることがわかってきています。
この試みは、FileMaker 2024 がリリースされる前から Claris パートナーさんたちの間で行われてきました。その範囲は、要件定義書や設計書、仕様書の作成、カスタム関数やスクリプト、SQL クエリの作成、テストデータ生成など、多岐にわたっています。具体的な内容は、次の動画などを参照してください。
- 生成 AI ChatGPT による Claris FileMaker 開発の高速化と高度化(株式会社寿商会)
- Claris FileMaker の開発における ChatGPT 利用(株式会社キー・プランニング)
- 生成 AI 実践活用術:データ生成・分析テクニック(株式会社キー・プランニング)
なお、Claris からも最近、OpenAI を使って FileMaker の計算式を自動生成するサンプル App「CalcWriter」についての Claris ブログを公開しています。CalcWriter はブログ最後のリンクから無料でダウンロードできますので、ブログを読みながらぜひ試してみてください。
それではやってみましょう!
FileMaker 2024 でどのような AI 機能を利用できるか、ざっくりおわかりいただけたでしょうか?
本ブログ・シリーズでは、次回から実際に AI 関連スクリプトステップと AI 関数を使って簡単な AI 連携カスタム App を作ってみます。元ネタは、以下の Claris エンジニアリングブログです。
「2024」という数字が並んでいますが、もう 2025 年なのでちゃっちゃとやってしまいましょう! 次回は、「FileMaker で AI やってみた (1) - 準備編」です。お楽しみに!
なお、このブログ・シリーズでご紹介する AI 機能は、FileMaker 2024(バージョン 21.1.1)以降でご利用いただけます。バージョン 21.1.1 よりも前のバージョンをお使いの方は、最新の無料評価版をダウンロードしてご利用ください。