事例

毎日 300 件の家電修理の複雑な業務を一元化したのは「従業員満足度に大きく貢献できるツール」

目次

  1. 新事業開始時に作ったシステムと業務に食い違いが発生
  2. 「幹」の部分は開発会社に任せ、改修や機能追加の「枝葉」は内製を選択
  3. システム導入で業務時間の大幅な適正化を実現
  4. 初期開発と改善の役割分担で満足度の高いシステムを実現

1. 新事業開始時に作ったシステムと業務に食い違いが発生

リード株式会社は、主に生活家電や日用品の企画製造および販売を行うデンキョーグループの一員として、家電製品の修理アフターサービスやコールセンター業務などを行っている。本社は京都にあり、従業員は 90 名(パート、出向従業員など含む)ほど。社名のリード(LEAD)は、Lively (活き活きと)、Evolution (進化)、Adapt (順応する)、Dependence (信頼)を表す。パートナーとしてお客様と出会えることに感謝しつつ、従業員が能力を発揮できる環境づくりによって安全性を高め、成長力を持続し、信頼される企業を目指している。

同社は 2012 年に家電の修理とコールセンター事業をスタート。その際、開発会社に依頼して修理サービス業務の管理システムを構築したものの、徐々に不都合が生じるようになった。その経緯をリード株式会社 サービス事業部 兼 システムサポート シニアマネージャー 平等路 恭典氏は次のように説明する。「事業を進めるなかで、日々の業務にシステムに合わない例外事項がいろいろと出てくるようになりました。そのため対応できない部分は紙や表計算ソフトで補完するしかなく、担当者は連日それらの作業に時間を要していました」(平等路氏)。

この課題を解決するためシステム改修も検討したが、当初依頼した開発会社との契約が終了となり、システム改修の継続が難しくなった。

リード株式会社 サービス事業部 兼 システムサポート シニアマネージャー 平等路 恭典氏

2.「幹」の部分は開発会社に任せ、改修や機能追加の「枝葉」は内製を選択

解決策を模索していたとき、社内の修理技術者から Claris FileMaker を使ってみたらどうかと提案され、平等路氏は早速購入し試してみた。FileMaker 12 の頃である。「使ってみたところ、その手軽さと柔軟性が気に入りました」と平等路氏は語る。

次は実務で使ってみようと、機能を拡張して修理部品の在庫管理や、紙や表計算ソフトで対応していた補助業務に対応するシステムを作成した。実際に使ってみて手応えを感じた平等路氏は、新たに FileMaker で修理サービスの管理システムを構築しようと考えた。その計画を親会社の電響社(当時)に相談した際、グループとしての品質基準を考慮し、専門的な開発パートナーとの協業を推奨された。

そこで開発パートナーを探し始めたところ、東京で開催されていた Claris カンファレンス(当時は FileMaker カンファレンス)のブースで Claris パートナー、トップオフィスシステム株式会社 代表取締役 池田 栄司氏と出会う。

トップオフィスシステムは、Claris FileMaker のシステムを開発するだけでなく、内製開発を行う企業の支援も行っている。リード側も社内でシステムを開発する力があり、旧システム運用の反省から、業務が変わればシステムの改修が必要だと理解し、その対応は社内で行いたいという意向を持っていた。双方の考え方が一致していたことから、両社による開発がスタートした。

池田氏は、開発の基本コンセプトを次のように語る。「システムの幹にあたる部分を当社が担当し、枝葉はリード様が作るという方針でしたので、引き継ぎしやすいように構築しました。そのため、UI もスクリプトもできるだけシンプルにしました」。

アプリのトップ画面。コーポレートカラーの赤を基調に、シンプルな UI を意識

こうして、2017 年 7 月から修理サービス業務を一元管理するシステムが稼働した。

利用環境は次の通り。サーバーはグループのデータセンターに設置。クライアントは基本的に Windows PC だが、一部希望者は Mac を利用している。ちなみに開発者である平等路氏と リード株式会社 システムサポート 片桐 健登氏は Mac ユーザだ。倉庫などでは iPad を 4 台利用。棚卸し業務用に iPhone も 2 台利用している。利用者は、入力担当、修理担当、コールセンター担当など 50 名以上にのぼる。

3. システム導入で業務時間の大幅な適正化を実現

リードとトップオフィスシステムが協働して作った修理管理システムは、顧客・ユーザの管理から修理案件の進捗管理までをトータルで行えるものだ。

リードの一次顧客は、家電メーカーや家電の卸商社である。その先に家電量販店やホームセンターなどの販売店があり、さらにエンドユーザがいる。

メーカーが顧客の場合は、製品の取扱説明書などのサポート連絡先として、リードの電話番号が記載されているため、修理依頼はエンドユーザから直接届く。一方、卸商社が顧客の場合は、エンドユーザから販売店に持ち込まれ、そこを経由して送られてくるケースが多い。そのため、取引先である一次顧客(家電メーカーや卸商社)だけでなく、販売店、店舗、エンドユーザの情報の管理も必要になる。

修理依頼が来ると、まず専任の入力担当者が情報を入力する。その情報は多くの場合、店舗から修理製品と一緒に送られてくる紙の伝票に記載されている。修理案件は、直近の年間受付数が 5 万件以上、1 日の修理件数は約 300 件にものぼる。保守期限が切れている場合は修理金額を見積もり、ユーザに修理を行うか確認してもらう。修理をすることになれば修理部門で修理を行い、ユーザに返送して終了するという流れだ。

各案件について、このプロセスに従って故障の状態や作業内容、見積金額、請求金額、部品入荷予定日、完了予定日などをシステムに細かく記録していく。製品の受領から発送までのすべてのやり取りと作業内容が時系列で記録されており、現在のステータスの確認やトラブル時の経過確認などが容易に行えるようになっている。

修理案件リストは、案件数・情報量が多いためシンプルな UI が生きている

入力項目が多いため、管理画面はタブで「修理受付入力」「見積内容」「完了入力」など切り替えられるようになっていて、それぞれのステータスで入力すべき情報が明確になっている。片桐氏は、「管理すべき情報が非常に多いのですが、タブで切り替えることで、作業項目ごとに表示・入力できるようになっているのでわかりやすい。こちらに引き継いだ今でも、池田さんに作ってもらったこの UI を参考にしています」と語る。

各案件の詳細データ。修理状況が時系列で表示され、表示項目も充実

この新たなシステムの導入により、リードの修理部門は大幅な業務効率化を実現した。その効果を平等路氏は、「紙や表計算ソフトによるアナログな業務が大幅に減りました。その結果、以前は業務時間が長時間に及ぶことがありましたが、毎日定時の 18 時に終業できるようになりました。残業代の削減はもちろん、従業員のワークライフバランスという面でも大きな成果が出ています」と語り、FileMaker を”従業員満足度に大きく貢献できるツール”と評価する。

4. 初期開発と改善の役割分担で満足度の高いシステムを実現

リードでは、トップオフィスシステムが幹を構築したシステムに、現在も新たな機能を付加し続けている。その開発を担うのが、平等路氏と片桐氏だ。片桐氏は入社して初めて FileMaker を知り、勉強を始めた。

「最初は本で勉強し、触りながら覚えました。直感的に操作ができ、わかりやすかったです。特に役に立ったのがユーザが集うインターネット上のコミュニティです。FileMaker はコミュニティが盛んで、大抵の情報はそこにあり勉強の役に立ちました」(片桐氏)

Claris FileMaker について片桐氏は、「社内で要望が出るとすぐに改善して使ってもらうことができます。すぐに結果が出るので従業員の満足度も高い」と語る。またトップオフィスシステムの池田氏は、「一般的なシステム開発は、開発会社に 100% 作ってもらうか、100% 内製する、の 2 択しかありません。しかし FileMaker は今回のように、幹を当社が作り、枝葉をリード様が自社で開発するといったことが容易にできます。これは FileMaker ならではの優れた点です」と語っている。

修理管理システムの機能を充実させるだけでなく、新たなシステムも開発している。例えば、初期不良などで返品された商品の管理システムだ。これは、返品商品や日時、返品理由などを記録しデータを蓄積するものだ。このシステムのチャレンジを片桐氏は次のように語る。「現場からは、できるだけキーボード入力なしに操作という要望がありました。そこで修理管理システムの UI を参考に、入力時には必要な項目だけを表示して確認すべきことを明確にした上で、バーコードやプルダウンメニューを使って基本的にタップだけで入力できるようにしています」(片桐氏)。

勤怠管理システムも内製で開発した。オフィスの入口に iPad を置き、従業員は出退勤時にタップ操作、従業員証の QRコードをかざす。随時、時刻が記録され、そのデータは給与計算に活用されている。

iPad の勤怠管理画面

リードでは目下、在庫管理システムの開発を検討中だ。現在、在庫管理は各部門で個別に行われており、部門間の情報連携を強化することで、限られた倉庫スペースのさらなる効率化を目指している。自社開発も検討しているが、かなりハードルが高そうだという。「修理管理システム同様、トップオフィスシステムに頼んだ方がいいかもしれません」と平等路氏。頼るところは頼り、できるものは自分たちで。FileMaker を介し、役割分担を明確にした 2 社の協働は、リードの進化に貢献し続けることだろう。

(左から)片桐氏、平等路氏

【編集後記】

トップオフィスシステムは多くの会社のシステム内製をサポートしている。顧客が内製し、開発会社がその手伝いをするというスタイルはいまの時代に合っている、との考え方からだ。しかし、顧客にシステムを引き継いでしばらくすると、上手くいかないと助けを求められることも少なくないという。その中にあってリードは、大きな問題もなく内製開発を進めている成功例だ。風通しのよい社風により、現場から日々寄せられる改善要求に、開発者が内製で迅速に応えることでシステムが進化。現場の業務負荷が軽減され喜ばれることで、さらに開発者も学びを深めるというサイクルが、非常に上手く回っているようだ。