近年、ローコード開発が目覚ましい普及を見せていますが、いまいち展開イメージが湧かない方も多いかもしれません。そこで本記事では、業務のデジタル化やビジネスモデルの変革のために、ローコード開発の導入に成功した企業の事例を 5 つ紹介します。松波総合病院、信州ハム株式会社、大阪市高速電気軌道株式会社、全日本ピアノ指導者協会、神戸製鋼グループです。ローコード開発でどのようにビジネスを成功させたのか、ぜひご覧ください。
iPhone とローコードの組み合わせで DX 加速
岐阜県羽島郡笠松町にある松波総合病院は昭和 8 年に開業した歴史のある病院でありながら、ローコード開発を活用して DX を加速させている先進的な病院でもあります。
岐阜県でも最大規模の民間病院であり、敷地面積 2.4 万㎡、延床面積 4 万㎡ もの広大な敷地を有しています。これは東京ドーム約 1 個分の大きさにも相当し、病床数は 501 床、職員数は 1,200 名、診療科は 36 にも上ります 。
これだけの大病院ですから、扱う情報の量も膨大になります。例に漏れず、同院でも院内での情報共有や情報の整理に苦慮していました。
かつて松波総合病院では社内連絡に PHS を使用していましたが、PHS サービスの縮小に伴い、2021 年にすべての PHS を iPhone に切り替えました。合わせてローコード開発環境 Claris FileMaker で開発した CSS（Clinical Support System）と iPhone を連携させ、大幅な情報共有の効率化に成功しました。
また情報共有の質が向上したことにより、診断の質も向上しました。今までのアナログなカルテでは、患部の情報を文字で共有していましたが、iPhone や iPad を導入したことにより、患部の画像やリハビリ中の動画などといった情報量の多い視覚的なデータを共有できるようになりました。文字による記録とは比較にならないほど情報共有の効率化が進み、診断の質も向上したのです。
松波総合病院
生産管理システムをローコードで内製化
長野県上田市にある創業 70 年の信州ハム株式会社は Claris FileMaker を使って生産管理システムの DX を推進しました。
ローコード開発を取り入れた理由はレガシーシステムです。20 年以上前に導入された古いタイプの基幹システムは、サポート期間の終了やイレギュラーな生産への対応が難しいなどの問題を抱えていました。
紙に鉛筆やペンで書かれた日報の数字を、事務員 2 人が丸 1 日かけて Excel に入力し、さらに必要に応じて基幹システムにも入力していたため、かなりの時間がかかっていました。そのため、歩留まりやコスト、生産量などを正確に把握するのは大変な作業であり、それにもかかわらず得られるデータは不正確なものでした。
ネックだったのは、レガシーシステムの刷新にあまりコストがかけられなかったという点です。システム開発業者に外注するとなると大きなコストがかかります。また、システム開発業者は同社の業務プロセスに精通しているわけではなかったため、その業務プロセスに合ったシステムにするには、開発の過程で要件変更や手戻りが何回も発生する可能性がありました。そのようなことをしていては、余計にコストがかかります。
そこで「小さく導入して大きく育てる」の理念の下、FileMaker を使ってシステムを自社開発することにしたのです。
その結果、歩留まりのデータ蓄積やトレーサビリティの確保など、多くの効果が得られました。また、従業員のモチベーションにも良い影響を与えているそうです。それまで事務員まかせだったデータの入力を、現場で従業員が自ら重要な数値を入力するという形になったため、数値に対する意識が高まりました。
生産管理現場でローコード開発のシステム導入が成功したことを受け、現在では他の工程や部門にも展開しています。「小さく導入して大きく育てる」が実現したのです。
信州ハム株式会社
1,150 台の iPad を利用した大規模システムをローコードで開発
大阪市高速電気軌道株式会社（Osaka Metro）が設立されたのは 2018 年ですが、同社は設立当初からローコード開発に注目していました。同社では運転士や車掌など全従業員に iPad を配り、始業点呼、運行情報の通知、eラーニング、ヒヤリハットの管理、アルコールチェックなどさまざまな業務をデジタルで行っています。
この先進的な業務システムの開発に利用されたのが、Claris が開発したローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」でした。
1,150 台の iPad を同時接続 200 ライセンスの FileMaker プラットフォームにつなげ、1,500 人が使用できるアプリを自社で開発したのです。IT 開発専門業者のフルスクラッチ開発でなくても、ローコードでこれだけの規模のシステムが開発できるのです。
同社が FileMaker を選んだ決め手の 1 つは、社内ポリシー上、自社サーバーへの iPad からアクセスは禁止されているものの、FileMaker ならクラウド上で動かせるのでポリシーに抵触しないということでした。もう 1 つの決め手は日本航空の運転乗務員が FileMaker を利用しているという情報を得ていたことです。同じ運輸関係の大手企業が利用していたため、信頼できると感じたのだそうです。
FileMaker を使った社内システムの開発は軌道に乗り、今では同様のカスタムアプリを 8 つ開発・運用するまでになりました。
大阪市高速電気軌道株式会社 (Osaka Metro)
ローコードで内製化したアプリを 30 年間運用
1966 年に設立された全日本ピアノ指導者協会は、設立当初から会員数を大幅に増やし、現在では 16,000 人を超える会員を擁しています。
1992 年、データベースシステムの選定にあたり、同協会は、さまざまなデータ管理ツールを検討し、評価を行いました。その結果、使い勝手の良さとバージョンアップ時のデータ移行の容易さから、FileMaker を選びました。
現在では FileMaker のカスタムアプリを活用して、あらゆる事業活動で生産性とサービスの質を高めています。たとえば、主催コンクールのデータ管理、決済システムとの連携、QR コードを活用したチケットシステム、電話システム（CTI）などです。
FileMaker で開発するカスタムアプリは、すべて内製です。同協会は「『システムに業務を合わせる』のではなく『業務にシステムを合わせる』のは FileMaker にしかできないことで、他を圧倒していると思います」とコメントしています。自社で作ることで、現場の業務に合ったシステムを、素早く、低コストで開発できるのです。
日々の業務のなかで創意工夫して実地で知識を得るほかにも、同協会では「より良いシステム作りを全員で進めるために、足場を固めて底力を付ける」という指針の下、「FileMaker ワークショップ」という研究会を定期的に開催し、職員たちはシステム開発の知識や技術を身につけています。
全日本ピアノ指導者協会
ローコード連携でコストを 10 分の 1 に圧縮
神戸製鋼グループの株式会社コベルコ科研は、グループ内外の企業から素材や部品の研究や試験業務を受託しています。以前は、その業務のうちの 1 つ、腐食試験の結果の計測において、さまざまなメーカー・文字盤の計測器が混在しているという課題がありました。パソコンへの出力機能がない機器の数値は、メモ書きだったりプリントアウトしたりした計測値を手作業でスプレッドシートに入力する必要があり、非常に非効率なものでした。デジタルでデータを出力できない測定器の存在が、頭を悩ませる課題だったのです。
そこで海外からの接続テストも踏まえて検証した結果、AI で画像解析するソリューション「hakaru.aibyGMO」を採用することにしました。hakaru.ai ならばメーターの写真を読み取れば AI が画像を解析し、自動で数値をデータ化してくれるのです。
しかし、hakaru.ai はカスタマイズ性の面で不十分な点があり、自社の業務に合わせられないという課題が持ち上がりました。そこで、hakaru.ai の API を利用し、FileMaker でカスタムアプリケーションを作成することにしました。
開発に要した期間はわずか 4 か月。しかも、すべての計測器をデジタル出力可能なものに刷新する場合の10 分の 1 以下のコストで実現できました。FileMaker を他社製品と連携させることで、非常に困難だと思われていた課題を解決し、コスト面でも大きな成果を上げられたのです。
神戸製鋼グループ
まとめ
これら 5 つの事例は、企業が自社の課題を解決してビジネスモデルを変革するのに、ローコード開発が有用であることを示しています。松波総合病院、信州ハム株式会社、大阪市高速電気軌道株式会社、全日本ピアノ指導者協会、神戸製鋼グループはいずれも FileMaker によって業務のデジタル化に成功し、情報管理を容易にし、コストを削減し、生産性を向上させました。コロナ禍を受けての働き方の転換、AIの実用化による技術の革新が現在進行形で起こっている昨今、DX の重要性はますます高まっています。ローコード開発は DX との相性も良く、今後も彼らのようにローコード開発によって DX を推進する企業は増えていくことでしょう。
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