事例

トレーサビリティを確保したこだわり卵。入荷から在庫管理まで一連の業務を効率化

“ひと味違う卵”を販売するも、非効率なプロセスで現場は疲弊

株式会社マルフクは、1951 年創業。静岡県焼津市で鶏卵卸業を主体としながら、燻製卵などの卵加工品の卸も手がけている。設立以来、契約農家から鶏卵を仕入れ、洗卵、パック詰めをして県内の小売店や飲食店などに卸している。2010 年には富士山のふもと静岡県富士宮市の朝霧高原にて、自社の養鶏場「あさぎり宝山ファーム」を構え、養鶏に乗り出した。よりストレスの少ない環境でおいしく健康的な卵を産んでもらうため、15 万羽のニワトリを飼育し、昨年から EU 基準に対応した動物福祉型の放し飼い鶏舎を導入している。地元焼津の鰹節を加え旨み成分を高めるなど飼料にもこだわり、より品質の高い卵の生産に取り組んできた。

環境や飼料にこだわったマルフクの卵と卵製品

その卵への想いを代表取締役の福崎 正展 氏は、「卵は毎日のように食卓にのぼり、主役になることは少ないとはいえ、日本人の食生活には欠かせないものとなっております。そんな卵だからこそ、何よりも美味しさにこだわったマルフクだからできる卵作りに取り組んできました。」と語る。

3 代目社長の福崎氏がマルフクの代表取締役に就任したのは 2015 年。就任直後から、以前より課題と考えていた業務改革に乗り出した。

同社では鶏卵を 複数の契約農家から毎日仕入れ、洗浄・消毒、乾燥、検卵、サイズ選別、パック詰めを行い、県内のスーパー、ホテル・旅館、洋菓子店などに配送している。出荷先によって、S 玉・M 玉など卵のサイズや、6 個詰め・10 個詰めなどパックの種類が違い、ブランド高級卵に至っては一般の卵と分ける必要もあったりと、管理も複雑だ。

加えて出荷は毎日夕方だが、販売先からの注文を待って出荷作業にかかると間に合わないため、朝一番で工場長の予測に基づいて生産指示書を作成する。手書きで行うこの作業は、非常に手間がかかるうえ、ミスの原因ともなっていた。

生産現場では仕分け機が自動で卵をサイズごとにカウントし、その結果は紙で出力される。そのため製造が終わった後、改めて人の手によりシステムに入力する必要があった。納品された原卵の数も受発注システムで記録されてはいるものの、卵の破損などさまざまな要因によりシステム上の数と機械がカウントした卵の数が合わないことも多く、その調査にも時間がかかっていた。

卵は生ものなのでなるべく早く売り切る必要があるものの、同社では予測に基づいて生産するため、一定の在庫が残る。システム上の数と現物の在庫数が合っているか、毎日行う確認作業にも時間がかかっていた。このような非効率で正確性に欠ける業務プロセスが残業の一因ともなり、従業員を疲弊させていた。

さらに近年食品業界で求められるトレーサビリティの確保も問題だった。取引先からクレームがあった場合、仕入れ先に注意を促すことがあるが、以前はその仕入れ先を特定することができなかった。手作業が多いプロセスで仕入れ先の記録まですると、より一層業務負荷が高まってしまうからである。

これらの課題を解決するため、福崎氏は作業工程のシステム化の検討を始めた。

富士山のふもとの豊かな自然のなか、養鶏を営んでいるマルフク

柔軟性が高い Claris FileMaker で アジャイル開発を選択

システム化にあたって、まずは市販の在庫管理システムなどを比較検討した。しかし、卵は日々の入出荷量が多く、種類も多岐にわたり、そのうえ破損することもある。このような業務に対応できるシステムがなく、自社で内製することを考え始めた。そのとき思い浮かんだのが、Claris FileMaker だった。福崎氏は、「元々 FileMaker の存在は知っており、柔軟性が高いこともわかっていました。FileMaker ならやりたいことができるかもしれないと思いました」と語る。

2018 年 3 月、福崎氏は Claris が主催し、無料でアプリ開発を体験できるハンズオンセミナーに参加した。参加の意図について、「”自分で作る”というよりも、すべてをベンダーに任せるのではなく、自分でも理解して一緒に作っていきたいと考えていました」と福崎氏。

セミナー会場で Claris に相談したところ、紹介されたのが Claris パートナーの株式会社アイ・アンド・シーである。アイ・アンド・シーは、1983 年の創業当初から AS/400 などオフコンなどの基幹システム開発を数多く手がけていた。2014 年からは Claris 認定パートナーとなり、Claris FileMaker による開発についても多くの実績を持つ。本社は幕張 (千葉市) にあるが、マルフクに近い静岡市にも支店があり、円滑なコミュニケーションが期待できた。

開発は 2018 年にスタート。まず 1 日の業務の起点となる見込の製造指示書の作成と、締めとなる在庫管理部分から着手した。開発中はアイ・アンド・シーの担当者である徳浪 則夫 氏が 2 週間ごとにマルフクを来訪し、課題や要望をヒアリング。次のミーティングで FileMaker で作成したアプリ画面を提示。フィードバックを聞いてまた次のミーティングで修正版をリリースする、というアジャイル開発を進めた。「実際の画面で動作確認できたので、わかりやすくスムーズに進みました」(福崎氏)。

iPad と QR コードを活用し入出力を効率化

新システムでは見込みの製造指示を入力する際、手間を省き、打ち込み間違いを最小化するため、基本的にマウスを使った入力インターフェースにした。入力が終わると工場で QR コードが生成される。QR コードを iPad でスキャンすると指示内容が出力され、それに従い作業を行う。工場には外国人も多いため、日本語キーボードを使って間違いが発生しないよう、操作は QR コードをスキャンするか、ボタンをタップするだけで完了するようにしている。工場には固定した iPad が 3 台。iPad は工場長も利用するが、現場を動き回るため手のひらサイズでポータブルな iPad mini を携帯している。

マルフクでは iPad と FileMaker Go を活用しペーパーレスに取り組む

アプリの改善を通してアジャイルで課題を解決

マルフクの業務支援アプリは、一通り完成し活用しているが、その後もいくつかの課題をアジャイルで 1 つずつ解決している。

例えば、機械による卵の選別や洗浄はスピードが極めて速く、当初はそれにシステムが追いつかなかった。というのも、QR コードをスキャンするとプリンタが指示書を出力するが、出力完了までに時間がかかっており、作業待ちが発生していた。「当初何が原因かわからずいろいろ調べた結果、プリンタが遅いということがわかり、入れ替えることで問題を解決しました」(徳浪氏)

現在は、日々の手書き作業から解放され、効率化はさらに加速している。製造ラインに流れる原卵の仕入先を指定できるようになり、トレーサビリティの確保も実現した。「できれば今年度中にも、残る課題を解決し、次のステップに進みたいと考えています」(福崎氏)

IoT を使った飼育管理も計画

マルフクの EC サイトでは「富士の名月」などの卵のほか、プリンや卵焼きなどの卵加工品も販売しているが、現在の製造システムが扱っているのは卵のみ。今後は卵とそれらの加工品を一括管理できるようにしたいと考えている。

さらに、カメラやセンサーなど IoT を使ったニワトリの飼育管理も計画している。これまでニワトリの体調管理は担当者が目視で行っていたが、それを IoT によりデータ化することで、労力を省きながらよりきめ細かい管理が可能になる。

「ニワトリの様子を鶏舎に行かなくても確認できるようになります。さらに (お客様に) Web サイトで周囲の自然やフリーケージのニワトリの様子を見ていただくことで、商品に興味を持ってもらえるかもしれません」(福崎氏)

最後に Claris FileMaker について福崎氏は、「システムは一度作っても、時間が経てばやりたいことが変わります。その点 FileMaker は柔軟に修正できるので、長く使い続けることができます」と語った。

福崎 正展 氏 (株式会社マルフク 代表取締役:写真左)と徳浪 則夫 氏(株式会社アイ・アンド・シー:写真右)

【編集後記】

近年消費者の健康意識が高まり、食べ物の生産工程を気にする人が増えている。マルフクはそのようなトレンドをいち早く捉え、ブランド卵の生産・販売に力を入れてきた。なかでもコクの深い特産卵「富士の名月」は、2020 年「日経MJ 全国うまいもの100選」に選出されている。保存料などは一切使わず、焼津産の鰹出汁をふんだんに使った厚焼玉子や、5 日間燻した後食品添加物不使用の調味液に 20 時間漬け込んだ濃厚な くんせい卵など、こだわりの卵加工品の製造にも取り組み、百貨店や高級食材店、自社のオンラインショップなどで販売している。今や鶏卵を中核としながら卸業にとどまらないビジネスを展開し、誰もがなじみ深い卵の魅力を高めている。

なお、マルフクでは TwitterInstagram でも製品情報・イベント案内・暮らしに役立つ卵の情報などを発信している。おしゃれでおいしそうな卵料理の写真も満載で、「今日の晩御飯、明日のランチにでも卵を食べようかしら」とつい思わせてしまうような楽しいアカウントだ。

富士山の雪解け天然バナジウム水と焼津産の鰹節入りの飼料で、丹精込めて一羽ずつ手餌給餌で育てたニワトリが産んだ特別なこだわりの卵「富士の名月」でいただく TKG (たまごかけごはん)は、濃いオレンジ色の黄身のコクと甘みがあり格別の味わいだ。ぜひ、お試しあれ。

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