事例

老朽化した原木市場の運営システムを刷新し、事務工数 1/2 へ

目次

  1. 原木市場運営に必要な多岐にわたる「事務作業」が課題に
  2. スピーディーで使いやすいシステムを安価に構築
  3. FileMaker で大幅に改善した「操作性」で業務効率化を実現
  4. システムの刷新で、従来の事務工数が半分以下に

1. 原木市場運営に必要な多岐にわたる「事務作業」が課題に

福島県内で最も古い製材協同組合である東白製材協同組合は、福島県の南端、茨城県と栃木県に隣接する東白川郡で地元の製材業者により 1961 年に設立された。最盛期は 38 社が参加していたが、2024 年現在の組合員は 10 社。直営山林での植林、製材、などの事業も行っていたが、現在は原木市場の運営のみに業務を集中している。木材の市場には山から切り出した丸太を扱う「原木市場」と、原木から柱や板などに加工した木材を扱う「木材市場(製品市場)」があり、同組合が扱うのは主にスギ、ヒノキ、アカマツなどの原木である。

競り市は毎月 12 日と 28 日に開催され、1 回の取り扱い木材量は、繁忙期でおよそ 1500 ㎥ 。太さや長さにもよるが、原木約 12,000 本相当の量になる。出荷者数は平均 25 社、入札者は平均 20社である。約 35 の山林から伐採・搬入された原木を樹種や用途、太さ、長さ、生産された山林などによって分類し、運送しやすい数量にまとめて販売する。購入された原木は、主として住宅建築用途で加工されるが、一部小曲りや節が多いものなどはバイオマス用のチップにもなるという。

同組合が競り市に合わせて行う業務は多岐にわたる。まず、山林から切り出した木材は組合の材木置き場に持ち込まれ、木の種類や出荷者名、山林名、太さや長さなどを登録し、市日までに売払明細(出品カタログ)を作成。作成した売払明細を入札予定者に FAX で事前に送付し、購入希望者は当日現物を確認して入札を行う。

入札を締め切ると組合で開票し、市況結果表を作成。再度入札参加者全員に FAX を送付する。その後各落札者に対し、個別に請求書を作成し送付。売れ残った木材に関しては、次回価格を下げるなどして繰り越し、次の競り市に向けた準備が始まる。

組合設立当初はこれらの事務処理をすべて紙で管理し手作業で処理していたが、1990 年代に国産データベースソフトでシステム構築した。その後、長らくそのシステムを利用してきたものの、使用していたソフトウェアが既に販売を中止していたことから、システムのリプレースを検討し始めた。

2. スピーディーで使いやすいシステムを安価に構築

リプレースを検討した際のことを、東白製材協同組合 総務部 坂本陽子氏は次のように語る。

「木材市場特有の仕組みが必要なことから、他の市場に事情を話してどのようなシステムを導入しているのか聞きました。そして他市場が利用している会社に見積もりを取ってみると、想像以上に高額でした。また、見積を頂いた会社は距離的にも遠く、問題が発生して業務が止まってしまったらどうしたものかと困っていたとき、知人が “福島県内にあるプリマックスなら同じような仕組みが構築できると思う”と紹介してくれました」

プリマックス株式会社は、福島県郡山市でソフトウェア販売やハードウェア保守、システム開発などを行う Claris パートナーである。同社でシステム開発を担当する 鈴木睦氏は 2021 年 5 月に同組合を初めて訪問し、現状についての説明を受けた。検討の結果、「ローコード開発ツールの FileMaker を使えば、従来以上に使いやすいシステムがスピーディーに構築できると判断しました」と鈴木氏。坂本氏も、「何か起きたときに直接会って相談できるので、安心感があります。コスト面でも良心的な価格だったのでお願いしました」と語る。

FileMaker による 新システムは 6 か月後の 2021 年 11 月に完成。さらに半年間ほど旧システムと並行運用した上で、完全移行を果たした。利用環境はオンプレミスで Mac mini に Claris FileMaker Server をインストールし、Claris FileMaker Pro クライアント 3 台という小規模な構成で費用を押さえた。

3. FileMaker で大幅に改善した「操作性」で業務効率化を実現

出荷者から持ち込まれた材木は選木機に投入され、自動で太さや長さが計測される。選木機にはあらかじめ出荷者や山林のデータが登録されているので、計測された数値データと紐づけて選木機側でデータが自動作成される。選木機は USB にデータ出力される仕様になっており、FileMaker Pro で CSV ファイルを取り込んで FileMaker Server 側に反映する。選木機で判別できない大きさのものについては担当者が実際に計測し、FileMaker のカスタム App に入力する。

選木機運用の様子。取得した原木データを CSV ファイルで保存した後、 FileMaker へ取り込む

入札者に送付する売払明細は、この出品データを基に作成する。入札後に入札者全員に送付する市況結果表と落札者ごとの請求書作成、次回の競り市に繰り越す売れ残った木材のデータ処理も FileMaker のカスタム App で行っている。

坂本氏が旧システムに比較して便利になったと大きく評価しているのが FileMaker の操作性だ。坂本氏は、「以前のシステムは階層が深く、目的の画面に到達するための手順が長い上に、戻る時は同じ手順を踏まないと戻れませんでした。それが FileMaker では一覧表示されるようになり、1 回か 2 回のクリックで目的の画面に到達できますので業務が効率化しました」と語っている。

売払明細書の作成画面。以前と比べ見やすく、情報にたどりつきやすいレイアウトになったことで操作性が格段に向上した

もう 1 つ坂本氏が高く評価しているのが、出荷者と山林、運送方法を区別するコードが統一されたことである。

現在の選木機から出力されるのは 7 桁の連結コード(共通コード 3 桁/山林コード 2 桁/運送コード 2 桁)なのに対し、旧システムは 3 桁コードを使用していた。「選木機のデータをシステムに取り込む際、以前は 人間が 7 桁のコードをマッチング表と照らし合わせて 3 桁のコードに置き換え、手入力していました。その点、FileMaker では、選木機 7 桁の連結コードと連動しているので、とてもスムーズに業務を進められるようになりました」(坂本氏)。

山林情報入力画面。画面左側 7 桁のコードにすべて統一されたことで、手間と工数が削減された

4. システムの刷新で、従来の事務工数が半分以下に

新しいシステムは国の制度変更などにも柔軟に対応できるようになっている。同組合は基本的に買い上げはせず販売の仲介を行うだけだが、インボイス制度が始まった際には、個人事業主など免税事業者に関しては購入者側が消費税を負担しなければならなくなったため組合側で運用方法を見直し、システム改修を行った。免税事業者の木材が売れた場合は、一度同組合が購入して組合が消費税を負担する仕組みに変更し、その場合の差額などを自動計算し、売値に反映する仕組みを FileMaker で自動計算するよう実装した。旧システムであれば、システムに現場の運用を合わせるしかなかったが、FileMaker だからこそ、現場でベストな運用を選択し、システムがそれに寄り添う形で調整できるようになった。

原木市場運営に関する業務が一般的ではないことから、坂本氏は新システムについて「複雑で特殊な業務なので、プリマックスさんに業務フローを理解いただくにも大変だったと思います。旧システムは、使いにくいところが多く、業務をする上での不満が色々とありました。今回それらがすべて解決したので業務の生産性も大きく向上しています。 事務の工数は半分くらいになりました」と高く評価する。

またペーパーレスを実現し、過去の書類を簡単に検索できるようになったことで、さらなる効果を感じている。「以前は過去の書類を検索しようとすると、紙ファイルを引っ張り出して探す必要があり、とても大変でした。FileMaker を導入して データ検索も PDF 保存も簡単になりました。紙の書類を探すことがなくなったことを考えると、工数削減は半分どころではないと感じています」(坂本氏)。

東白製材協同組合のみなさん。左から 2 人目が坂本陽子氏。

【編集後記】

情報システム担当者が存在しない規模の小さい会社においては、要件定義・基本設計・詳細設計などを一気に決めるウオーターフォール型のシステム導入は費用面や運用開始後の仕様変更の面からも難しい。今回の原木市場のシステムのように特殊で複雑な業務システムは、現場のユーザと開発者が密なコミュニケーションを取りながら必要な機能を追加していくアジャイル型の開発が理想的だ。

クラウド全盛の時代であっても、第一次産業ではオンプレミスのニーズは高い。低コストのシステム運用は経営上の意思決定の重要な基準にもなる。今回のプロジェクトは、それらの需要を満たしたローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker を選択したこと、また開発を担うプリマックス社が現場に出向いて “アナログ”なコミュニケーションを重ねてシステムを作り上げていったこと、この二つが成功のカギとなったことに間違いない。

2024 年 11 月 13 日(水)〜 15 日(金)開催の Claris カンファレンスに、東白製材協同組合の坂本氏、プリマックス株式会社の鈴木氏が登壇し、本事例について詳しくご紹介くださいます。
11 月 15 日(金)13 : 30 〜 14 : 15
インボイス制度への対応から見えてきた一次産業の DX 化:木材市売システムの成功事例
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