事例

家具メーカーの業務のすべてを担う基幹システムを FileMaker で運用

2015 年から FileMaker ベースの基幹システムを使用

家具インテリア用品の企画・デザイン、製造、卸売を主な事業とする市場(いちば)株式会社では、2015 年から営業・受注・製造・物流・売上とすべての基幹業務を FileMaker のカスタム App で管理している。

製品が入荷すると、倉庫担当者が iPad 上のカスタム App を使って入荷処理と検品をする。販売では、注文を事務所でカスタム App に入力し、倉庫担当者が iPad でその内容を見ながら製品をピッキングして発送する。売上も連動して処理される。約 60 人の社員全員が、営業や事務担当者はコンピュータで、倉庫担当者は iPad で、FileMaker を使用している。

市場株式会社ショールーム

企業の成長に旧基幹システムが追いつけなくなった

2015 年の FileMaker 導入以前に使用していた SQL ベースの基幹システムは、2002 年に使い始めたものだった。ところが会社が成長するに従ってその基幹システムが業務に追いつかなくなってしまった。

最大の問題はシステムの動作が遅くなったことだった。情報システム課 課長の中嶋未知子氏によれば、一例として、月次処理(重い処理:例えば請求締め処理)を実行している間は、業務ができなくなるので、帰る間際に処理実行ボタンを押下しておき、翌朝からプリントを開始するといった運用をせざるを得なかった。業務に使用する紙の書類が多すぎるのも問題だった。たとえば受注内容をプリントし、倉庫担当者はその書類を見ながら出庫する製品をピッキングする。イレギュラーな事態が発生したら紙にメモをとる。倉庫と事務所の間を社員が何度も行き来していた。紙の出荷指示書を持って事務所から倉庫に行ったり、コンピュータに入力するために倉庫で手書きしたメモを持って事務所に戻ったりしていた。人の記憶や熟練度に頼らざるを得ない。書類の管理が煩雑で、作業履歴も追えない。

データの一元化や連動も不十分で、在庫数が合わない、出荷数の変更に対応するのが難しいなどの問題も発生していた。しかし、より多くの顧客ニーズに対応するため、様々な事業を開始し、ネット販売では小ロット多品種を特長としたビジネス戦略をとっている。商品の改廃、新製品の追加や旧製品の廃番も多く、管理は困難を極めていた。

市場株式会社 情報システム課 課長 中嶋 未知子 氏

情報共有とコミュニケーションを目指した FileMaker のシステムをコンペで採用

そこで市場㈱では 2012 年に新しい基幹システム導入のコンペを実施した。採用されたのは、FileMaker Business Alliance パートナーであるパットシステムソリューションズ有限会社(以下、パットシステムと表記)が提案した、FileMaker ベースのシステムである。採用の理由を中嶋氏は「費用が安価だったことと、コミュニケーションツールの機能が盛り込まれていたことです」と語る。「コミュニケーションツール」とは、パットシステム代表取締役の中村孝仁氏によれば「各部門ごとの業務を管理する縦割り型ではなく、部門をつなげて部門間で伝えたい情報の共有もできる横断型の基幹システムを FileMaker なら作れる」として提案したものだった。

パットシステムソリューションズ有限会社 代表取締役 中村 孝仁 氏

コンペから FileMaker のシステムが稼働し始めるまで、3 年あまり。この間、市場㈱とパットシステムは、業務や仕様を徹底的に話し合った。基幹システムの切り替えは、ビジネスやワークフローを見直す機会である。コンペの数年前から付き合いのあった両社だが、この過程を経てさらに良好な関係を築き、FileMaker ベースの基幹システムの導入に成功した。もちろん導入後も、パットシステムは改修やメンテナンスを続けている。また、中嶋氏と情報システム課 リーダーの深田尚史氏も、パットシステムのメンバーと相談しながら FileMaker のスキルを磨き、基幹システムの運用と改修や、新しいカスタム App の開発に取り組んでいる。

稼働し始めた FileMaker のシステム

全社の基幹システムを週末に一気に切り替えた

基幹システムは業務に不可欠で運用を止めることはできない。基幹システムを切り替える際、一定の期間は新旧のシステムを併用する方法もあるが、市場㈱では「大量のデータ入力が二度手間になるのは無理ですし、それ以外にも業務にさまざまな支障が出るのは明らか」(中嶋氏)と考え、週末に一気に切り替えることにした。

金曜の終業後から土日にかけて、旧基幹システムから 100 万件規模のデータをエクスポートし、FileMaker のシステムにインポート。最終調整とテストを実施して、月曜の朝から稼働させた。稼働初日にはパットシステムのメンバーが市場㈱社内に待機した。中村氏が「待機している部屋のドアが開くたびにドキッとした」と振り返るほどの緊張感だったが、新しいシステムはトラブルなく滑り出した。

この大がかりで短時間の切り替えが成功した陰に周到な準備があったことは言うまでもない。人員配置まで含めた 6 回のリハーサルと運用テストの結果、可能と判断して実行に踏み切ったという。リハーサル期間で旧システムから新システムにデータを移行するテストを行い、データの入った新システムを利用して、市場㈱社内では試用や社員研修を切り替え前に実施した。

切り替えにあたり、「事務担当の社員には、画面構成や入力操作が変わることへの戸惑いがありました。」この対策として、事務用のコンピュータでは抵抗なく移行できて入力の効率が下がらないように、キー操作をカスタマイズして旧基幹システムと似た操作にした。倉庫担当者は iPad を使うのは初めてで、当初は『紙の方が早いのではないか』という声もありました」と深田氏は言う。だが、倉庫担当者もすぐに慣れ、現在では「紙の書類より iPad の方がずっといいですね。倉庫内の在庫の状況もわかるし、誰がいつ何をしたかの記録も残る。紙の処理を気にする必要もありません」と語っている。

市場株式会社 情報システム課 リーダー 深田 尚史 氏

基幹システムに求められる信頼性を他社製品との組み合わせで実現

基幹システムは業務に不可欠で、生産性を上げるものでなくてはならない。そして止めるわけにはいかない。これを実現するために市場㈱のシステムは、FileMaker のさまざまな機能に加えて他社製品も活用して作られている。

まず重要なのは、運用を止めないこととデータを失わないことである。そのために FileMaker Server と CLUSTERPRO を組みわせて二重化する方法をとっている。ファイルのミラーリングと、サーバーに障害が発生したときに自動で正常なサーバーに切り替えることにより業務を継続できる。また、FileMaker Server の機能を利用してバックアップをおこなっている。さらに、そのバックアップされたシステムを Dropbox を利用してクラウドにも毎日バックアップをするという、ニ重のバックアップを実施している。

エラーのチェックや生産性向上のための仕組みにも配慮

正確で効率の良い業務遂行やシステムのメンテナンスと向上のための機能も随所に組み込んでいる。たとえばデータの整合性を毎晩スクリプトでチェックし、翌朝には関係者にフィードバックする。また、スクリプトの実行時刻や処理にかかった時間をログとして残し、システムの最適化や改修に活かしている。こうしたログをとる仕組みは独自に開発していて、そのログを一望して分析するためのレイアウトも作成してある。メンテナンス担当者はそのレイアウトを閲覧することで、システムに問題が発生していないか、迅速に調査できるようになっている。

生産性向上のためには、社員がストレスなく使えることも重要である。前述したキー入力のカスタマイズもその一例である。倉庫で使用する iPad では、一部の複雑な処理にサーバーサイドスクリプトを利用することで動作をスムーズにしている。

生産性向上の仕組みも取り入れられている

運用を止めずにメンテナンスや改修ができる分離モデルでシステムを構築

運用を止めないために、そしてメンテナンスや改修を容易にするために、このシステムは分離モデルで構築されている。

レイアウトにあたるインターフェース層と、スクリプトやリレーションで構成されるビジネスロジック層、データが格納されるデータベース層の 3 階層を同じファイルに収めることができるのが FileMaker の特徴の一つであり、IT のプロフェッショナルでないユーザーが直感的にカスタム App を作ったり改修したりできる理由の一つでもある。しかし、パットシステムの中村氏は、今回の基幹システムに関しては、導入後もクライアントの変更要望に対応して柔軟に機能の変更や追加をおこなえて、重要かつ大量のデータを安全に保持することを両立するために、インターフェースとビジネスロジックの 2 階層部分と、データベースの 1 階層部分とを、別々のファイルにわける分離モデルを採用した。改修やバグフィックスは、予備システム上のインターフェース & ビジネスロジック側のファイルにおこない、検証をする。その後、基幹システムを社員が利用していない時間帯にファイルを入れ替えるだけなので、安全かつ短時間で完了する。このシステムではアカウント設定もファイル化してあり、IT 担当者が FileMaker のレイアウト上で操作できるため、ミスなく簡単に社員のアカウントを設定できる。

FileMaker Server の場合、実際に使われているファイルがそのままバックアップされるのも利点だ。その利点を生かし、バックアップを予備のシステム上で動かして、業務と同じ環境で開発、テスト、検証、分析に役立てている。

情報共有により日常業務を効率化。棚卸や会計にも FileMaker の効果が及ぶ

FileMaker の基幹システムにより、市場㈱では多くの効果が得られている。

この基幹システムでは、在庫はリアルタイムで管理され、商品マスターにはサイズや重量が登録されていて送料などは自動計算される。「専用シール添付が必要」と入力しておけば倉庫担当者に確実に伝わる。倉庫担当者は、iPad から基幹システムにアクセスでき、ピッキングの指示を確認して効率よく作業を行える。各部署の進捗状況もシステム上でわかる。このように多くの部署が情報を共有して連携しながら業務を遂行できる。紙の書類はほとんど使われなくなっているという。日常業務の効率化だけでなく、「以前は紙ベースで 2 日かかっていた棚卸も、1 日弱でできるようになりました」と中嶋氏は効果を語る。

財務会計は、FileMaker のシステムからデータを CSV でエクスポートして専用の会計システムにインポートしている。「以前は会計システムに再入力していたので、これもたいへん省力化されました」(中嶋氏)。数字の分析のためにスプレッドシートなどを併用することもあるが「分析用のデータのエクスポートがしやすいのも FileMaker の利点ですね」と深田氏は言う。

未来を予測しての業務管理も可能に。さらに活用の幅を広げたい

さらに、現状把握だけでなく先々を予測する業務改善も実現している。入荷予定製品の配送ステータスを共有して納期の予測を正確に立てたり、入荷予定に備えて倉庫の場所を空けたりすることができる。およそ 6 か月先までの販売予測によって未来にわたる在庫管理も可能となった。

今後も、営業日報や上長からの承認をシステム上で得るワークフロー、外部データとの連携など、FileMaker で実現したいことはまだまだあると、中嶋氏、深田氏、中村氏は口をそろえる。FileMaker でできることや情報共有と活用による利点を社内にもっと伝えて、用途を広げていきたいとも語る。止まることなく業務改善に寄与する基幹システムを FileMaker で構築したが、これで完成ではなく、さらに進化を続けていく。

下の段左から市場株式会社の中嶋 未知子 氏、深田 尚史 氏、中段左からパットシステムソリューションズ有限会社の藤原 吾一 氏、中村 孝仁 氏と、上段左から山 富士男 氏、堀井 才次郎 氏。

市場株式会社

本社所在地:兵庫県加西市中野町 1309 番地の 3

業種:家具インテリア用品の企画・デザイン、売り場プランニング、家具インテリア用品の製造・卸売業

概要:家具インテリアメーカーの市場(いちば)株式会社は、旧基幹システムの処理性能の問題や紙ベースの業務フロー、入力の二度手間などを解消するために、2015 年に FileMaker ベースの新しい基幹システムを導入した。運用を止めないために、システムの予備構成を展開する二重化やバックアップ、インターフェースとビジネスロジックの階層とデータベースの階層を分ける分離モデルによる構築などを取り入れている。システムのメンテナンスや改修のしやすさ、業務の生産性向上に役立つ配慮も随所にある。新旧システムの入れ替えは週末 2 日間だけで完了した。

導入成果:FileMaker による基幹システムの導入以降、情報共有による様々な業務改善や、戦略的な予測と管理などの効果を上げている。全部署が情報をリアルタイムで共有できる基幹システムになり、生産性と業務の精度が大幅に向上した。

ペーパーレス化が劇的に進み、入力の二度手間も削減されて、業務にかかる時間が飛躍的に短縮した。予測に基づく正確な在庫管理は経営戦略と意思決定の迅速化の手助けになっている。