さまざまな分野でオンライン化が進む中、小売業界も大きな影響を受けています。店舗での売上は減少し、EC サイトやオンラインモールなどネット上での売上は毎年増加しています。アパレルでは、店舗を持たず自社 EC のみで販売を行うブランドも増えています。新型コロナウィルス感染症の影響で、購買体験のオンライン化は一層加速しています。
また、センサーや通信技術の発達により、店舗内を歩く顧客の動線やショーウィンドウを目にして立ち止まる人の量を計測・解析することができるようになっています。リアルな店舗も、インターネットと接続することで、根拠ある改善が可能になりました。
さらに、商品自体が通信機能を持っている場合、購入後の使われ方に関するデータまでとることができます。身近なものでいえば「スマート家電」や「スマートウォッチ」が挙げられます。アパレル業界でも「スマート衣服」の研究開発が進められています。
オンライン化はあらゆる分野でさらに進んでいくと考えられます。果たしてその先にあるのはどのような未来なのでしょうか。本記事では、きたる未来像へ歩む指針となる 4 冊の図書を紹介します。
① アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る
藤井 保文 (著), 尾原 和啓 (著) 日経 BP (出版)
すべての購買行動はオンラインデータとして ID に紐付けられ、 IoT やカメラをはじめとする様々なセンサーがリアルな接点に置かれることで、人のあらゆる行動がオンラインデータ化される。そんな「オフラインがなくなる」世界を想像できますか?
著者の藤井氏は、本書の前書きで、すべてがオンライン化された世界が確実に到来する、と断言しています。そして、これは単に著者が予想しているのではなく、実際に中国ですでに起こっているといいます。藤井氏は 2 年間、中国へデジタル環境視察合宿へ訪れています。本書はその時の経験をもとに書かれており、中国で目にした事実から、日本のデジタル化に向けた考察がなされています。その考察は決して悲観的なものではありません。むしろ、見えない未来へと歩む私たちがその道を楽しめるような、案内となる 1 冊ではないでしょうか。
② 2025 年、人は「買い物」をしなくなる
望月 智之 (著)、クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
かつて、百貨店は「なんでも揃う場所」であり、家族とともに休日に出かけていく「楽しい場所」でした。しかし、近年、百貨店の経営破たんや閉店が続いています。2020 年 1 月に、山形県唯一の老舗百貨店「大沼」が 1700 年の歴史に幕を閉じたニュースは業界を超えて大きく取り上げられていました。
著者の望月氏は百貨店衰退の要因について、「選べることに価値がなくなっている」と分析します。私達は買い物における意思決定の多くをスマートフォンに頼っています。何かがほしいとき、検索さえしないこともあります。Youtube におすすめされた音楽を聞き、Netflix のトップに表示される映画を見て、SNS で目にした服を買います。では、「選ぶ」行動をしなくなった消費者に買ってもらうためには、どうすればいいのでしょうか。これまでは、消費者の目に留めてもらうため、店舗の棚や広告枠を各メーカーが取り合っていました。しかしこれからは、IoT を使ってオフラインのどこに棚をつくりだすかが重要であると著者は指摘します。たとえば、Amazon が生活動線のなかにダッシュボタンの可能性を見出したように。プレイヤーのいない場所で新たな購買体験を生み出す戦略のためのヒントを、本書から得ることができます。
③ 市場を変えろ 既存産業で奇跡を起こす経営戦略
永井 俊輔 (著)、かんき出版(出版)
著者の永井氏が経営する株式会社クレストでは、IoT を導入したリアル店舗の看板・ディスプレイを販売しています。センサーやカメラを用い、リアルな場でも web と同様のデータを取得できるようにすることで、消費者の購買行動を見える化します。最先端技術を使ったテック企業に見える同社ですが、5 年ほど前まではごく一般的ないわゆる「看板屋」だったといいます。看板市場は小売店舗と同様、縮小傾向にあります。しかし、永井氏が経営する同社は、市場環境に合わせた軌道修正を行うことにより、見事に成功をおさめています。
クレスト社がいかにして、レガシーなマーケットからイノベーションを生み出したのか。看板業界に新たな市場を創造することができたのか。本書では、その軌跡を追い、日本の中小企業がイノベーションに成功した具体例を詳細に知ることができます。また、本書では、再現性のある形で方法論がまとめられているため、新たな戦略へ転換を望む経営者におすすめの 1 冊です。
④ ブロックチェーン、AI で先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来
小島 健志 (著), 孫 泰蔵 (監修)、ダイヤモンド社 (出版)
エストニアは人口わずか 130 万人程度の小さな国。日本で言えば、京都市や福岡市といった「市」と同等の規模感です。そんな小さな国が電子政府を実現し、世界中から注目を集めています。
本書は、著者の孫氏が現地取材で目にしたエストニアの現状を、政府・国民・産業・教育の 4 つの視点から伝えています。同時に、日本のデジタル化における各分野の課題についても言及されます。日本はなんて遅れているんだ。そんな気持ちになるかもしれません。しかし、本書は決して日本の現状を悲観するわけではなく、「ダントツに面白い未来」へと向かうためにはどうすべきかを、私たちに共有してくれています。