事例

北九州市の環境行政を 20 年以上にわたりサポート、住民サービス向上に欠かせないツールとは

目次

  1. 環境法令遵守の管理・監督業務をサポート
  2. 環境・公害に関する多様な情報をデータベース化
  3. 立ち入り検査の準備から報告書作成までの業務を大幅に効率化
  4. スキルアップをしてより使いやすく便利な機能を

1. 環境法令遵守の管理・監督業務をサポート

九州の北の玄関口である北九州市は、本州と隣接する交通の要衝であり、古くから工業地帯として栄えてきた。現在でも多くの工場が稼働しており、これら一定の設備を持つ工場は、大気や水質、土壌、騒音といった環境規制に従うことが法律で義務づけられている。このような環境活動において企業を指導・監督するのが、北九州市環境局 環境監視課である。

環境監視課は、大気や水質、土壌といった環境の汚染の監視や、アスベストやダイオキシンといった汚染物質の監視・管理を行う。具体的には一定の要件の設備を持つ事業者の登録や立ち入り検査、苦情処理対応などだ。

これらの業務において環境監視課が活用しているのが、Claris FileMaker で作成したアプリケーション「環境監視情報システム」である。また、産業廃棄物処理業者の管理・監督、不法投棄防止や指導などを行う産業廃棄物対策課でも同システムを利用。事業者の登録、確認、立ち入り検査の記録、市民から寄せられる苦情の記録など、多くの業務に欠かせない存在となっている。

両課が現在も活用している環境監視情報システムが FileMaker で作成されたのは、2000 年頃のこと。北九州市の職員は多くが数年程度で異動するため当時の状況は不明だが、「おそらく当時の担当者が、複数人で情報を共有するソフトウェアとして FileMaker が最適と考えたのではないかと思います」と北九州市環境局 環境監視部 環境監視課 石綿騒音係 簑原伸二氏は語る。

簑原 伸二 氏 (北九州市環境局 環境監視部 環境監視課 石綿騒音係)

簑原氏は化学業界の民間企業などを経て 6 年前に北九州市の職員になった。はじめの 3 年間は産業廃棄物対策課に在籍し、3 年前からは現在の環境監視課に勤務している。FileMaker に関しては、産業廃棄物対策課時代はエンドユーザであったが、3 年前から管理者を務めている。

2. 環境・公害に関する多様な情報をデータベース化

環境監視情報システムでは「環境影響評価法」「大気汚染防止法」「騒音規制法」といった環境関連の各種法律に基づく事業所の届出情報、産業廃棄物処理業者の認可情報、各事業に対する立ち入り検査の記録、市民から寄せられる公害に関する苦情などをデータベース化している。2024 年現在、管理する事業所データは約 7,000 件にのぼる。

「環境監視情報システム」のメイン画面

環境規制の対象事業所と産業廃棄物処理業者については、それぞれトップ画面でコード番号か事業所名を入力すると、該当する事業所の住所や名称などの基本情報などが表示されるようになっている。大気、水質といった関係する分野ごとに該当する法令のコードが表示され、コードが入っていない分野に関しては、それらに該当しないということがすぐにわかる。さらにドリルダウンしていくと、該当する法令の規制対象となる施設の一覧表が表示され、どの施設がいくつあるかが確認できる。その他、設置年月日や都市計画法に係る用途地域 (工業地域、商業地域など) なども表示されるようになっている。

届出事業者には、定期的に立ち入り検査を行う。その際規制の対象となる保有設備の数量やスペック、それに対する規制値、過去の測定結果などが必要となるが、それらを網羅した立入検査記録簿は簡単に出力可能だ。出力したデータを現地に持参し、実測値と比較できる。検査後の報告書もテンプレートがあるため、作成が容易だ。なお北九州市ではセキュリティーの観点から外出先でのモバイル PC の使用が制限されているため、検査自体は現在、紙で運用している。

また寄せられた苦情・要望は、大気、水質、騒音、廃棄物などで分類し、発生源情報や内容などを記録している。もし同じ苦情が再度寄せられた場合でも、以前の記録を検索できるため、異動などで市の担当者が変わっても記録を見て対応ができる。簑原氏は、「長年同じ問題が続いている場合、相談者は同じ方ですが、対応する市役所の職員は変わっていきます。相談者にとっては深刻な問題を役所が把握していないとなると、さらに問題がこじれかねません。役所が継続して状況を把握していることが重要です」と語る。

実際、市民から寄せられた相談を調べると 10 年前にも同様の苦情があったことがわかり、その事実を踏まえた対応ができた実績もあるという。もしこれが紙の記録であれば 10 年前までさかのぼって探すことは実質不可能だったであろう。

3. 立ち入り検査の準備から報告書作成までの業務を大幅に効率化

環境監視情報システムを FileMaker で運用する最大のメリットは、一度データを入力すれば、必要な時に関連情報を含む正確なデータを容易に呼び出せる点だ。例えば、立ち入り検査に必要な各施設の出力や規制値などの情報も簡単に入手可能だ。検査前の準備時間が短縮され、報告書もテンプレートを使って的確な内容を簡単に作成。準備から報告書作成までの一連の業務を大幅に効率化できている。

「例えば表計算ソフトで作成し、フォルダで管理していると、どのフォルダに何があるかデータを探すところから始める必要があり、手間と時間がかかります。その点 FileMaker はアプリケーションを起動してメニューからたどっていけばよいので、探す必要がありません。

また 1 つのファイルを共有して使っていると、他の人が使っているから今は使えないといった問題も発生します。しかし FileMaker は複数人での並行処理が可能です。必要な情報を網羅した帳票もボタン 1 つで作成できます。ソフトウェアの歴史も 1985 年からと長く、厳しい競争のなかで生き残っており、実際に攻撃を受けたこともないということで、セキュリティーの観点からも安心感があります」と簑原氏は高く評価している。

立ち入り検査後に作成する「立入検査報告書」の画面

4. スキルアップをしてより使いやすく便利な機能を

現在は、FileMaker からデータを抽出して他のツールでグラフ化したり、軽微な修正にも時間がかかってしまっているが、今後はスキルアップして、もっと使いやすいものにしたい、と簑原氏。

同市では他のローコードツールを導入している部署もある。しかし、そのツールでは現在 FileMaker で実装できている部署特有の業務に必要な機能を実装できないことが判明しており、今後も環境局では FileMaker の使用を続けたいという考えだ。そして FileMaker の利用価値を高めることで、周囲の理解を得たいとも考えている。「自分たちに必要な機能を自前で作成できるところがローコードツールの良いところなので、その良さを享受できるようにしていきたい」と簑原氏は今後の活用への意気込みを語ってくれた。

【編集後記】

北九州市は、古くは北九州工業地帯から続く多くの環境監視対象施設があり、環境局の業務は市民の安全な暮らしを守るために重要な意味を持つ。また市民から相談が寄せられた時、相談を受ける側が事情を把握してくれているということは、市民の安心の度合いも違ってくることだろう。人を相手にする業務において、データの蓄積と活用がいかに大切であるかを物語るものだ。そのデータをさらに有効に使うために FileMaker のスキルアップを図りたいと意気込みを見せてくれた簑原氏。その取り組みがどのように職員の仕事の仕方を変え、市民に還元されるのか、今後も注視していきたいところだ。