事例

「この指、と〜まれ!」授業だけが学校ではない

「高校生にとって大学受験合格が唯一のゴール!」… ではない学校が千葉県船橋市にある。

学校にトップレベルのバリスタである同市内のコーヒー店の店長を招く企画、東葉高校に勤務する外国人教師との個人レッスン、成田空港に乗り入れるスカイライナーでおなじみの京成電鉄車両基地の見学ツアーなど、大人も羨む企画が次々に掲示板に貼られる。定員はいずれも 10 名〜20 名程度で、まさに「この指、と〜まれ」である。ただし、とまる指は、単なる指ではない。校長の指である。参加するためには校長室に足を踏み入れて、校長先生に直接参加を申し込むことが求められる。

社会に出て一番求められるのは、学力ではない。

社会人生活では、誰もが上司に対して臆してしまう。ましてや相手が役員クラスともなると別格である。我々日本人は、いつからそんな潜在意識を持ってしまっているのだろうか?おそらく、学校生活が始まった時から、先生や先輩との立場関係により、そのような意識を持ち始めているのだろう。一方で欧米では役職付きの名字ではなく、社長でも上司でもファーストネームで呼ぶのが一般的だ。新入社員であっても自由に発言し、プロジェクトに参加して即戦力として働くことが求められる。年齢・性別・出身大学に関係なく、組織で活躍する人の多くに共通するのは、オプトイン:自己参加型のマインドを持っていることである。

東葉高校の学生が数年後には間違いなくこのオプトイン型の人材として企業で活躍するであろうことは、西村桂校長をはじめとした教師陣の学校改革から感じ取ることができる。

東葉高校は 2017 年以降、毎年受験生が増え続け、学生数も 400名ほど増えている。少子化の影響で私立学校が生徒の募集に苦戦する中で、東葉高校は、偏差値・学生数ともに右肩上がりとなっている。

東葉高等学校が導入している 教務システム

レガシーシステムからの脱却

東葉高校では、1 年生から進路・学力に合わせた特進クラス・選抜クラスを設けており、学年が変わるごとにクラス替えを行っている。受験を控えた学年では、受験科目の組み合わせだけで 21 通りの科目選択がある柔軟なカリキュラムが自慢である。さらに奨学金制度を設けて、成績優秀者には授業料が減免・返金される制度もある。全ては生徒のため、とはいっても、このようなカリキュラムを構成するには、教員側や事務管理側の負担はかなり大きい。そのうえ、数年間で約 400 名の生徒が増えているのだ。それでも事務職の職員数は以前からあまり変わっていない。大きな増員なくこなせているのは、柔軟なカスタマイズが可能な IT システムによるオペレーションに理由があった。

2017 年まで、東葉高校では長年、某大手 IT ベンダーによって開発された専用の校務システムが使われていた。ベンダーロックインされたシステムはカスタマイズ性に乏しく、柔軟な変更が実現できないうえ、改修の度にお金と時間がかかったため、現場ではベンダーを呼ぶことにすら遠慮があった。そのため、毎年少なからず生じる変化への対応や、システム外との入出力部分に応用が効かず、多くの時間を費やしていたという。システムに合わせて教育現場が動いており、轍から抜け出せない状況にあった。

学校改革を推し進めるにあたり、栗林教頭を筆頭に「次期教務システム検討委員会」が立ち上がり、あるべき理想のシステムのための検討が始まった。また、情報管理部が学校内に組織され、情報化担当に高井進吾教諭が任命された。過去の教訓から、ベンダーロックインされるシステムの導入にならないよう慎重にベンダー選定を行い、最終的に校務システムに実績のある 4 ベンダーが候補として選出された。その中から、以下 4 つの評価軸で選考を行った。

  1. カスタマイズの可能性
  2. セキュリティー
  3. デザインと使いやすさ
  4. マルチデバイス対応

見読性が高く、関連帳票の出力も簡単にできるようになった

2017 年に東京ビックサイトにて開かれた教育関連の EXPO でも複数のベンダー製品を比較し、大手ベンダー製品の一律的なパッケージの導入も検討したが、最終的に選択したのは、ウェルダンシステム株式会社(https://welldone.co.jp) が提供する「スクールマスターZeus」であった。学校改革をする上でシステムが重要な役割を担うことを委員会としては重要視しており、改革の方向性に沿った「自己成長」可能なシステムであるという条件にマッチしたためである。

西村校長の学校作りの信念は、「東葉高校は単なる進学校にするつもりはない。生徒が自己成長できるよう、自分の頭で考える力をつけ、生徒が 3 年間で自分が成長できたと感じることを重視する」ということ。そのために必要なシステムは、やりたい事ができるシステムでなければならないという事であった。「スクールマスターZeus」は、FileMaker プラットフォームをベースに開発されており、Apple 社の子会社がゆえのセキュリティー面での安心感と、iPad や Mac でも利用できる マルチデバイス対応であったことも評価された。

さらに栗林教頭は、次期教務システム検討委員会のリーダーを務めながらも、「実は IT 苦手なんですよ。でも、 ウェルダンシステム さんには、元教員の方々が働いていらっしゃるでしょ。教育として現場をわかってくれている人が、東葉高校の改革に対する熱意を理解して下さっていることも採択理由の一つですよ。」と 異なる視点での会社評価の理由を笑顔で付け加えた。

長く使用することで利便性があがる

「スクールマスターZeus」導入後、すでに 3 年目に入ったが、事務局次長を務める 堀江耕平氏は「ここまで学校の運用に合わせてシステムが日々進化するとは想定していなかった」と語る。システムには実務担当者の要望がうまく反映されており、学納金に関連する作業時間は従来の 1/3 に短縮された。

就学支援金(国の制度) は 年度の区切りが 7 月~翌年 6 月であるため、年度途中には金額変更が発生する場合もあるが、それも「スクールマスターZeus」で 一元管理されているため、事務手続きが以前より軽減された。

教務部で教務システムを主に担当する村田教幸教諭は、「多岐にわたる成績に関する資料の作成にはすべての教職員が関わり、かつすべて生徒の指導の合間に作成しているため、これを職場全体で正確に進めていくことは業務負荷がとても大きい。そのため、”スクールマスターZeus”の分かりやすい画面は成績入力の手順を説明しやすかったり、人的ミスも発見しやすいものだと感じている」と評価する。帳票などアウトプットの拡張性に優れており、独自性の高いコース設定にも柔軟に対応することが出来た。生徒1人1人の進路希望実現に向けた、特色ある学習体制の維持と改良を続けていく基盤となっている。

左から 村田教諭・栗林教頭・西村校長・高井教諭・堀江事務局次長

【編集後記】

新型コロナウイルスで多くの学校で休校措置となる中、学校によって大きく対応が異なっていたようです。今後の感染拡大の波が押し寄せる可能性も捨てきれない中で、どこまで学校側で情報を把握して対応していくべきなのかが求められています。休校時にも円滑な対応をするために、スマートフォンやパソコンを使った情報共有プラットフォームの整備は、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

コロナ禍においても円滑な学校運営を継続するために、各生徒の実態把握と船橋市などの地域ネットワーク構築が求められています。東葉高校が選択した 「スクールマスターZeus」は、進化し続ける FileMaker プラットフォーム上に構築されており、学校運営のベースとなる ICT インフラとして今後も発展していくのではないでしょうか。