コントロールできない状況を少しでも制御するために
2015 年、スティーブン・コーディン氏(通称:ステフ)は、ルー・ゲーリック病とも呼ばれる筋萎縮性側索硬化症( ALS )と診断され、ステフと彼の家族は失意のどん底に突き落とされました。
この病気は、歩行、会話、嚥下、呼吸といった身体機能をゆっくりと奪う進行性の神経変性疾患で、診断から 5 年後の生存率はわずか 20 %、その患者数は米国で 約 3 万人、世界では 約 25 万人といわれています。
診断を受けた後、エンジニアとして活用していたステフは、患者研究におけるデータ収集プロセスが非効率的であることを知り、解決策を模索しました。
ステフは家族と共に、ALS の病気の進行データを分析するための、患者中心のアウトカム研究( PCOR )ツールの開発に取り組みました。こうして、NPO組織「 ALS Never Surrender Foundation 」が誕生しました。その後 3 か月も経たないうちにFileMakerプラットフォームを使って、患者 1 人あたり毎日 80 を超えるデータポイントを収集できるカスタム App「 ALS eNGAGE / iNVOLVE」が完成しました。
このアプリとステフの活躍は2017年にFileMaker ユーザ事例として公開されました。
さらなる進展
残念ながら ステフは 2019 年 3 月 26 日に他界しました。しかし、治療法を見つけるという彼のミッションはその後も引き継がれています。 2019 年 7 月 「ALS Never Surrender Foundation」 は ALS 協会から 300,000 ドルの助成金を受け、ハーバード大学の関連医療機関であるマサチューセッツ総合病院、デューク大学、バロウ神経学研究所、カリフォルニア大学サンディエゴ校、コロラド大学デンバー校の 5 つの臨床研究試験に高精度な技術を導入しました。
「 ALS は不治の病ではありません、資金が不足しているのです」と、ステフの義理の息子であり、ALS Never Surrender Foundation の現在の CEO であるニック・フリードマン氏は述べています。「テクノロジーによって患者に歩み寄ったプラットフォームを作ることができました。ALS に苦しむ人々がこのアプリに進行状況をリモートで記録できるようになったため、この潜行性発病の研究に使用する患者の病状進行データベースは飛躍的に充実してきています。」
医師だけでなくアプリ開発エンジニアが支援
ALS という病気を抱えながら生きるということは、進行し続ける症状に対処することを意味します。が、ほとんどの ALS患者は臨床支援に関わる診察を 3 か月に 1 度しか受けていません。 これはつまり、病状の変化を年に 4 回しか追跡していないということです。ALS 患者の平均生存率は診断後 2 〜 5 年なので、従来の方法で記録されるのはわずか 8 〜 20回 の診察に過ぎません。
「現在進行している病状の調査は主観的な評価で、前向きでいたいという患者や、家族に苦痛や症状の進行を隠したい、といった意図から運動機能の変化を正確に報告しないことがあります」と CEO ニック・フリードマン氏は語ります。「今回の助成金によって、このアプリが患者自身のモニタリングに利用されることになります。また、モバイルアプリを使用すれば、臨床支援チームは患者の症状の変化にあわせて積極的な介入補助ができるようになります。 さらに、 ALSを含めた運動ニューロン疾患 (MND) の新しい治療の影響を評価するために、治療成績を評価しようとしている研究者に重要なデータを提供できます。」
以前は診断から死亡まで患者1人あたりわずか 240 のデータポイントしか収集できませんでしたが、現在は 「eNGAGE / iNVOLVE」 アプリを使用することで、同じ期間に 116,000 ものデータポイントを収集することができます。
ローコード開発プラットフォームとして FileMaker を評価
Claris の ワークプレイス・イノベーション・プラットフォーム 上で動作するこのモバイルアプリは、Google AI、IBM Watson、Apple、Aural Analytics などの主要なテクノロジーエキスパートと提携して、可動範囲、筋肉制御、敏捷性、呼吸、発話、など 80 以上の重要な評価指標をリモートで追跡し、ユニバーサルプラットフォーム上にある患者の病状進行データベースへ蓄積されるので、その豊富なデータを研究に使用できるようになります。
「開発者が貴重なリソースを割かないで済むように、低コストで強力なプラットフォームの導入が必要でした」とフリードマン氏は語ります。「 Claris FileMaker ならモバイルアプリを設計、構築、テストしてからクラウドに展開することができます。導入しやすく価格も手ごろな上、新しいコーディング言語を学ぶ必要はありませんでした。このカスタム App は、iPhone、Web、Mac、そして最終的には Android も加わり、どのデバイスからもシームレスに動作します。」
次のステップに向けて
「今後 3 年間はデータの収集と分析に専念し、その後このアプリを医療機器として使用するための FDA(アメリカ食品医薬品局) の承認を取得して、3 万人の米国 ALS 患者がアクセスできるようにし、そして最終的には世界の約 25 万人の ALS 患者がアクセスできるようにするのが目標です。」 と述べるフリードマン氏は、この次のステップのために ALS Never Surrender Foundation の全資金をモバイルアプリの開発、テスト、およびデバッグに費やしているとのことでした。
アプリの詳細、寄付、または調査へのご参加については、 www.alsneversurrender.org (英語)を参照してください。