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「感動」を創出するイベント総合企業
コロナ禍で、飲食業・旅行業など様々な業種業態で大きな影響を受けているなか、特にイベント関連企業の業績への影響は計り知れない。学会やイベントなど映像音響機材のレンタルを手掛けるヒビノメディアテクニカル株式会社は、MICE 領域のトップランナーとして、映像・音響・IT を駆使したイベント&コンベンションで重要な役割を担ってきた。
MICE とは、会議・研修(Meeting)、表彰式・報奨旅行(Incentive)、学会・国際会議 (Convention)、展示会・イベント(Exhibition/Event)を総称したビジネスイベントを総称する言葉である。この MICE の場面で、ヒビノメディアテクニカルは、プロ用の映像・音響機器を貸し出すだけでなく、株主総会、医療系学会、表彰式など目的別の違い、アリーナやホテルなどの会場の条件の違いを判断し、最適な機器をコーディネートして提案。東証 JASDAQ 市場に上場するヒビノのグループの一員としてイベントプロデュース、人材派遣、映像システム構築といった事業も手掛けている。特に医療系の学会運営にノウハウをもち、日本国内で年間 200 以上の学会を同社が支えている。
同社の前身は、1965年に設立された 「有限会社アート写真」。35mm フィルムに発表スライドを焼き付けする仕事からスタートした。Apple Master の資格をもち、大学病院に Mac を納品するとともにフィルムの制作を請け負っていた。
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イベントでは多種多様な機材を管理・運用する
コロナ禍によって一瞬で蒸発した MICE ニーズ
まさに日本の MICE イベントの成功はヒビノメディアテクニカルなしに実現しない、といえるほど貴重な存在であるが、このようなイベントは新型コロナウイルス感染症に伴うイベントの自粛によって壊滅的な打撃を受けた。大きな企業イベントは続々と中止され、株主総会や入社式もオンラインが中心となり、 2020 年 3 月には多くのイベントでキャンセル連絡が相次ぐ事態となった。大型のイベントは緊急事態宣言の発令とともに中止に追い込まれ、機材のレンタルニーズも無くなってしまった。
そのような中で、生き残りをかけて取り組んだのが IT を活用したイベント運営であった。特に、医療系の学会はオンライン開催に舵を切ることが多く、もともと映像配信を含めた IT 機材のレンタルも手掛けていたヒビノメディアテクニカル。オンライン開催や、学会会場を維持しながらのオンライン配信(ハイブリット開催)の要請が徐々に増えていった。
医療系学会では従来、学会などへの参加証を事前に郵送するのが一般的だが、ヒビノメディアテクニカルでは以前より参加証や、参加者が会場で受け取るランチョンセミナー整理券などを、FileMaker を使って現地で自動発行する仕組みを整えていた。そのことが、ハイブリッド開催が増えるコロナ禍において功を奏する結果となった。
FileMaker を使った参加証の現地発行のきっかけは、コロナ以前に開催された 3,000 名ほどの学会で運営事務局からの相談だった。
医療系の学会の抄録(プログラム集)と参加証を事前郵送しても当日忘れてきたり、勤務する病院が変わって届かない参加者がいたりするほか、当日の参加受付で名前を確認する作業にも時間がかかっており、当日の運営事務局の負担が大きな課題となっていたのだ。同社 EC事業部 システム開発課 課長 田中 洋 氏は、この課題の解決に FileMaker での運用を提案していた。
相談を受けて早速開発に着手した田中氏。なんと約 1 週間というスピード開発で FileMaker を使った仕組みを完成させた。学会当日は、参加者に送付した QR コードをスキャンして参加証・領収書などを印刷するだけ。参加者は QR コードがなくとも、当日簡単に自分の名前から検索ができる仕組みとなっているため、学会運営事務局からすると、大幅な郵送料の削減、当日の受付人員削減につながったという。
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来場受付は QR コードをかざすだけ。QR コードがなくても氏名から検索できる。
非接触を基本としたイベント運営システム
医療系の学会は感染対策に細心の注意を持って運営される。これまで紙で手渡しで配布していたものは次々に非接触型に置き換わっているという。
FileMaker で構築された「非接触型セミナー整理券発券システム」もその一例である。従来の学会では、参加者は、会場入口でランチョンセミナー整理券をスポンサー企業から受け取り、希望するセッションに参加する形式が取られていたが、現在は FileMaker で管理された枚数が発券されるため、人を介さずに整理券の発行が行えるようになっている。
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来場者が受付状況を確認しながら自分でランチョンセミナーに参加登録できる。
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申し込んだランチョンセミナーの整理券が自動で発行される。
また、「会場進行状況表示システム」ではセッションの進行状況のほか、混雑状況も表示が可能となっている。以前は、セッション会場に足を運んで混雑状況を確認していたが、このシステムの導入により、無駄な人員の移動や接触を極力減らすことを実現した。
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会場ごとの混雑状況がイベント会場にリアルタイムに映し出される。
with コロナで生み出した DX
ヒビノメディアテクニカルには医療系の学会イベントなどに関するノウハウが長年蓄積されており、その運営を行うスタッフの育成にも力を注いできた。だからこそ、リモート開催やハイブリッド開催に変わってからも、順調に運営を継続し続けている。そこには、運営事務局からの信頼という礎があり、多くの医療関係者からの支持もあるといえる。実際、学会に参加した医療関係者らが、田中氏が FileMaker プラットフォームで開発したアプリをその場で見て、自分が主催する学会でも同様の運営をしたいとリクエストが入ったこともあるという。
コロナ以前、ヒビノメディアテクニカルの業務は、映像機材のレンタルなどが 6 割を占めており、イベント運営システムはオプションメニューとして存在していたが、現在は FileMaker プラットフォームで構築したシステムのみでもサービス提供するなど、新しいビジネスの展開が始まっている。
開発した田中氏は、「非接触型のチェックインは、学会会場の総合受付だけでなく、セミナー会場単位で誰がどのセッションに入場したのかをリアルタイムで把握し、座長(司会者)に対して 会場に医師・看護師・臨床工学技士・ベンダーなどの参加者比率をリアルタイムに表示できるようになっています。要望に応じて臨機応変にシステムを短期間で変えられるのが Claris FileMaker の魅力です。
自分が開発した受付システムが動き、目の前を数千人の人が自動的に受付を処理していく姿を見ると、このアプリの開発にとてもやりがいを感じます。」と誇らしく語ってくれた。
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FileMaker で開発したシステムのメインメニュー。アイコンやメニューの色分けでわかりやすいメニューになっている。
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システムを開発した田中 洋 さん
【編集後記】
ヒビノメディアテクニカルは 2011 年から全従業員が FileMaker を利用できるサイトライセンス契約でFileMaker を全社的に利用している。勤務管理・機材管理・資材購入システムなど、常日頃から FileMaker に慣れ親しむなかで、社員から「こんなシステムできない?」という相談が舞い込んでおり、田中氏の所属する部署でもそれに応えて短期間にアプリ開発をしていたという。ローコード開発の存在を社員が認識し、変化に耐えうる FileMaker というツールを使っているからこそ、社会の変化を好機と捉えて行動するチームワークがビジネスの成長に紐付いたと言える。
今回のパンデミックによりヒビノメディアテクニカルは、当初イベント中止による売上機会の損失という大きな影響を受けたが、テクノロジーの活用により見事にリカバリーをかけ、コロナ以前と同程度に回復する道筋が見えた。今後はコロナ対策を踏まえて、多くの企業や学会でも、ハイブリッドイベントが主流になっていくことが予想される。従来の主軸ビジネス:映像機材のレンタルが回復すれば、さらに多様なサービス展開が期待できるはずだ。アフターコロナでのヒビノメディアテクニカルの次の進化に期待したい。