事例

伝統を守るために"変えないものをITで守る"

生徒の自主性を重んじる東海中学校・東海高等学校 の魅力

明治 21 年(1888 年)に浄土宗学愛知支校として西蓮寺内に創立され、創立 133 年を迎えた 東海中学校・高等学校。東京大学をはじめ、京都大学、慶應義塾大学、早稲田大学など、国公立・私立ともに全国トップクラスの難関大学に毎年多くの生徒が進学し、中でも医学部への進学率は、全国でも高い実績を誇る。進学校として勉強一辺倒の校風かと思いきや、在学する生徒からの評価は異なり、自由な校風のもと、生徒一人一人がそれぞれ自分の好きなことに没頭しているという。自分のやりたいことに十分な時間を使えるのは、中高一貫の強み。部活動やサタデープログラム、文化祭などに全力を注いでいる生徒も多い。
サタデープログラムとは、愛知県・名古屋市の後援の下、生徒が主体となって運営する土曜市民公開講座だ。河野太郎 行政改革担当大臣、政治評論家の田原総一朗氏をはじめ、弁護士の丸山和也氏、マンガ家の荒木飛呂彦氏、女優の竹下景子氏など、著名人を招いた講義が行われている。生徒は、中学生であっても高校生であってもすべて自分たちで企画し、講演料の交渉までも主導して講座を開催している。生徒が中心となって企画・運営し、その活動を通して主体的な学びを確立することで生きる力を育んでいくというのが、東海中学校・高等学校の特色ある教育活動の一つとなっているという。

進路指導部のない進学校

東海高等学校には、進路指導部は存在しない。
同校では、二度と帰って来ない一度限りの「今」を大切にし、共に生かし生かされ合う「共生」の心を持った人間に成長するための教育を行っている。生徒と教師が、人と人として真剣に向き合うコミュニケーションは、浄土宗の生命尊重の仏教精神に基づく教育に依るものだ。担任が進路を含むあらゆる面で責任を持つという方針は、この精神に基づいている。
とはいえ、中学校で 約 1,080 名、 高校で約 1,270 名の生徒数、教職員約 200 名規模の組織において、すべてを「人」の手で行うことは不可能である。教職員の業務をすべて人だけで行おうとすると教職員の負担が増え、生徒に向き合うための本当に重要な時間を奪うことになりかねない。
そこで、同校が昨年から導入したのが、ウェルダンシステム株式会社が提供するトータル校務システム「スクールマスターZeus」(以下、スクールマスター)だ。スクールマスターは FileMaker のプラットフォームをベースに開発されており、 どの学校でも共通で使用する機能を有したコアシステムの部分と、各校の特性を活かし柔軟にカスタマイズできる部分とが共存している。東海高等学校でも効率良く運用でき、なおかつ同校の特色を活かせるようなカスタマイズが行われている。

スクールマスター の導入を主導した 調査統計係長で物理教師でもある 鈴木 智晴 教諭は、システムの選定にあたり重視した 3 つのポイントを教えてくれた。

鈴木 智晴 教諭

VB プラグラムからの脱却

1 つ目は、VB プラグラムからの脱却である。これまで中学・高校ではそれぞれ別の教職員が作成したVBベースの仕組みでデータを管理しており、システムが連携していなかった。さらに表計算ソフトに個人情報が保存されていたため、データ漏えいリスクもあった。
鈴木教諭が着任したときに、前任者が作成したシステムを利用してみて感じたのは、属人化したシステムを引き継ぐことへの危機感だった。中高一貫校であるにも関わらず、中学で必要なシステムは中学校側でつくり、高校は高校側で管理。システムエラーが発生したときにプログラムの中身をどのように修正するのか理解することにも時間がかかりすぎる。他校を視察し、教育関連の展示会も見に行くなど、東海中学校・高等学校としてベストな選択肢は何かを探り続けて出会ったのが、スクールマスターであった。スクールマスターは、中高一貫校において生徒情報を一貫して一元管理している実績も多く、FileMaker をベースに構築されているためセキュリティ上での懸念も払拭された。

東海中高で採用されたスクールマスター 教務メインメニュー

教育に関する考え方を重視

2 つ目は、伝統的に守るべきルールを守るという同校の教育方針を貫けること。鈴木教諭が他校の視察で感じたのは、パッケージ化された製品を導入すると、必ずシステムの方に校務の運用をあわせる必要が出てくるということだ。東海高等学校での独自の成績の付け方や考え方を実現しようとすると、パッケージシステムの大幅な改修が必要になってくる。一方、FileMaker をベースとした スクールマスターなら、東海高等学校における教育への考え方を変えることなくシステム化ができるという。

例えば、他社のパッケージシステムでは、実力テスト・定期テストを別々に管理するのが一般的で、日々の実力テストを含めて一気通貫で成績を出すのは難しい。また、一般的に理系コースと文系コースは分けて成績がつけられ、学年一括での評価は行えないことが多い。
同校では、クラス分けして、成績が低い生徒には手厚く学習補完するなどの対応をしている。しかし、定期考査だけの評価ではどうしても偏りが出てしまうため、日々の実力テストを含めて学年全体の成績評価を行っている。追試該当者が出たときに、追試でどのように学習の弱点を補完していくのかを教師も工夫しながら進めていく。これらの記録を蓄積して対応できるのがスクールマスターだったという。

生徒のために時間をつかう

鈴木教諭が 3 つ目に挙げたのは、業務過多になっている先生をサポートする体制だ。同校では現在、教務部・生活指導部・学習指導部に分かれて、各 3 名の教職員が業務を担っているが、これらの業務の一部は縦割りになっていることもある。また、一部の仕事は属人化して難しそうというイメージが若い教員にできてしまって、他人の領域に介入したくないという考え方もあるという。これらは、実は IT で簡単に解決できることもあるため、スクールマスターの導入によって仕事のシェアを目指しているという。
過去には担当者がインフルエンザにかかり、成績処理が 1 日延期されたことがあった。これを教訓に、スクールマスターを核として、どんな時でも組織として業務が継続できる状態にしていきたいと考えている。また、複数の部門や担当者が行なっている同じような業務を取りまとめて、IT で自動化したり効率化することで、教員の負荷を減らせるよう、現在もスクールマスターの活用を進めている。

鈴木教諭の最終的な目標は、教師の事務仕事を減らすことだ。教職員の中には、事務的な業務を増やすことはするが、減らすことに抵抗を感じる人も少なからずいるという。しかし、教師も職員も、生徒のためにどう時間を使えるかを考えている同校において、それは本来あるべき姿ではない。IT の活用で、教師が生徒のためにより多くの時間を割けるようにしたい、というのが鈴木教諭の考えだ。

鈴木教諭はさらに、過去に表計算ソフトでデータファイルが散在していた問題をスクールマスターの導入で解決したように、次は教育現場での IT 活用にも目を向けている。教室への Wi-Fi 導入を見据えて ICT を活用した教育にも力を注いでいきたいと今後の抱負を語ってくれた。

【編集後記】

近年、事務作業が多い教育現場では、校務の IT 化が進んでいるが、一方でパッケージシステムを導入してシステムに合わせて学校運営のオペレーションを変えている学校も多い。画一的なシステムを安易に導入した結果、生徒の評価方法もシステムベンダーの色に染まってしまう可能性はないだろうか? デジタル技術によってあらゆる産業が変革の波に襲われている今、同じような人材を選ぶだけでは企業は社会の変化に対応できなくなりつつある。そのようななかで創造性や独自性を持つ人材の発掘や、社会の課題を解決する力を持つ人材の採用が重視されてきている。
東海高等学校の「生徒自身でできることは生徒が行う。じっくり話し合って決定し、生徒一人ひとりが責任を持って自主運営に取り組む」という校風は、今まさに企業が求める人材を育てていると言える。同校の取り組みを加速するための校務システムの進化に今後も期待したい。