リユース大手 株式会社 浜屋は、従来手書きによる検品・精算業務を行ってい た。そのため事務処理が完了するまでお客様をお待たせしたり、紙からの転記入力ミスが発生しており、改革が急務だった。この課題を解決するため同社が選択したのが、iPad と Claris FileMaker の活用だ。同社は検品・精算業務の大幅な効率化・スピードアップを実現しただけでなく、その後も様々な業務に FileMaker を活用しデジタル化を加速している。同社はこの改革をどう進め、実現したのだろうか。株式会社 浜屋 代表取締役 小林 茂 氏、取締役 人事総務部長 橋本 俊弘 氏と、システム開発を担当した Claris 認定パートナー 株式会社OSK アプリケーションエンジニア 関 圭祐 氏にお話をうかがった。
顧客を待たせ、ミスも発生する手書きの検品・精算
株式会社 浜屋 は、国内で不要になった家電をはじめ、家具、日用品、骨とう品、金属資源などを、全国 19 箇所の拠点で買い取り、国内市場で価値が高い商品は専門のグループ会社で整備して販売し、海外で需要がある商品は海外リユース品として輸出している。商品として利用できないが素材として価値があるものは再生資源としてリサイクル業者に販売するなど、幅広いルートで資源を再利用しており、「循環型社会」の形成に貢献している。リユース事業者の中でも創業 40 年、 300 人以上の従業員が在籍し、売上も 100 億円規模と国内では大手の老舗企業である。小林氏は、「国内で流通できないものを海外約 70 か国に輸出するという幅広いルートを持っているところが 1 番の強みです。その結果、国内でも高額買い取りが可能になります」と語る。
同社では以前、中古品の検品・精算業務を手書き伝票で行っていた。事業が拡大するにつれ品目数も増え、そのリストは A4 両面にびっしりと埋め尽くされるほどに。該当品目を探して記入するには、かなりの習熟が必要なうえ記入に時間もかかっていた。また、検品担当者が記入した一覧表の数字を事務担当者がシステムに入力する際にも時間がかかる上、記入漏れや転記ミスを完全になくすことは困難だった。紙を使っているため濡れたり、汚損する恐れもあった。
「繁忙時は、各支店の駐車スペースに中古品を大量に搭載したトラックが何台も並び、荷物を降ろし始めるまでに1時間くらいお待ちいただくこともありました。さらに精算業務でもお待たせしており、この待ち時間を短縮することが大きな課題でした」(橋本氏)
ミスが発生すると、これまで積み上げてきた当社の信用が一気に失われてしまうので、是が非でも解決しなければならない問題でした」(小林氏)
iPad で使いやすく迅速な検品を可能にする FileMaker
そこで、タブレット端末の iPad を活用したデジタル化の検討を開始。その際のポイントは3点あったという。1つめは、 iPad にすることで紙よりも使いづらいといったことを極力なくし、むしろ使い勝手を良くしたいということ。2つめに、 ネットワークやサーバーの障害、PCの不具合などでお客様に迷惑がかからないように、オフラインでもアプリが利用できるシステムであること。そして3つめが、すでに導入し活用していた基幹業務システム SMILE(販売元:株式会社大塚商会 開発元:株式会社OSK) とシームレスに連携できることだった。
いくつか他社のクラウドサービスなども比較検討した結果、これらの要件を満たしたシステムとして同社が選択したのが Claris FileMaker だった。
「使い勝手を良くするため、ユーザーインターフェースをどれだけ高められるかが重要でした。Web ブラウザでは細かい調整がしづらいのですが、その点 FileMaker は細かく微調整ができます。また、FileMaker Go はiPad 上でオフライン処理できるので、毎回インターネット接続して動作させるクラウドサービスと異なり、高速に処理を進めることができます。さらに FileMaker の開発パートナーとして OSK を選んだことで、同社開発の「SMILE BS2 販売」とのシームレスな連携も実現しました」(橋本氏)
検品・精算時間を5分の1に短縮
システム開発は順調に進み、4か月後には実運用を開始。その最大の要因は、FileMaker が高速開発を可能とするローコード開発プラットフォームであることで、さらに SMILE の DB 構造を理解した上で浜屋の現場の要望を聞き、画面設計を行った OSK のエンジニアの存在も欠かせなかった。OSK で FileMaker のアプリ開発を担当した関氏は、「目指す品目を探しやすいように、大分類、中分類、品名という3段階で探せるように提案。段階のイメージがお客様の頭の中にあったものとかなり近く、スムーズに開発を進めることができました」と振り返る。
「開発で苦労したのは、ネットワーク関連です。オフラインで動くことが要件だったため、当初毎朝マスターの差分をダウンロードしていました。しかし、一斉にダウンロードすると時間がかかってしまいます。そこで、マスターデータのような必須データと、必要な時にあれば良いデータに分割整理しました。前者は毎朝、後者は必要な時に選択してダウンロードとしたことで軽快に使えるようになり、現在 iPad 250 台が問題なく稼働しています」(関 氏)
iPad と FileMaker を活用した検品・精算は、まず検品担当者がその場で iPad で該当品目を探して、数量を入力し、そのデータは SMILE に送られ自動精算。事務担当者は再入力の必要がなくなり、お客様を待たせることなく即時精算できるようになった。紙を見ながらの入力業務がなくなったことで、入力ミスが発生する心配もなくなったという。
「以前に比べて検品・精算時間を5分の1に短縮できました。お客様の待ち時間を大幅に削減できるようになったことが、何よりの成果です。また、紙は物理的に大きさの制限があるうえ修正にも手間がかかり品目数の増加が困難でしたが、3段階の分類表示により品目数を増加しても容易に探せるようになりました。現在は品目数が 1,000 を超えるまでになり、事業拡大にも貢献しています」(小林氏)
継続的な改善と機能追加を実施
浜屋は OSK 支援のもと、リリース後も細かな調整や機能追加などアジャイル開発を繰り返している。
「大きな機能追加としては、キャッシュバック機能があります。浜屋では買取品が予定額よりも高く売れた場合、その利益を顧客に還元しています。買取品は同じ商品でもそれぞれ状態が異なるため、商品は一点モノという扱いです。顧客情報とお預かりした商品をバーコードで紐づけて管理しています。販売は別システムのオークションで行いますが、売れると自動的にデータが FileMaker に戻ってきます。この仕組みにより間違いなくキャッシュバックができ、顧客満足度の向上につながっています。
実際、スクラップとして買ったモノの中に金(ゴールド)があり、175 万円をお客様に返金したところ、お客様も驚かれました。浜屋に持っていけば、高く売れた場合、キャッシュバックされるとお客様はわかっているので、大きな信用につながっています」(小林氏)
「海外に出荷するシステムにも FileMaker を利用するようになりました。船積みコンテナに荷積みをする際、出荷計画に基づいた指示データ通りに積み込む必要があります。しかしコンテナ内は電波が届かないため、オフラインで作業できる FileMaker が活躍しているのです。まず SMILE で荷積みの指示データを作成しFileMaker に転送します。iPad 上で指示書を見ながら、担当者が順番どおりに積み込みます。港での X 線などの検査に対応するため、コンテナ内の状況は1列積み込むたびに写真を撮影し、保管しておく必要がありますが、その写真も FileMaker Go アプリ上で撮影し管理しています。
お客様に伝える情報の管理も FileMaker で行っています。メッセージを伝えてチェックをすると次からは表示されない仕組みになっているので、伝達漏れや二重に伝える心配がなくなり、スムーズな情報提供が可能になっています」(橋本氏)
浜屋について関氏は、「橋本様を始めとするシステム担当の皆さんは、システムに詳しく非常に助かっています。できない場合でも理由を説明するとすぐに理解してもらえます。障害の際もすぐに切り替えて次に起きないために何をしようかという前向きな姿勢なので、こちらも新しい提案がしやすく、感謝しています」と語る。
浜屋ではローコード開発という FileMaker の特長を生かし、社内アプリの開発にも取り組んでいる。予定管理やお弁当の注文・管理アプリなど簡単なものは自社内で開発し、より複雑でミッションクリティカルなシステムは OSK に依頼するというように使い分けており、サーバーも 2 台用意しているという。FileMaker は基幹業務から社内の細かな管理業務まで様々な用途で利用されており、これからも同社の進化をローコードでのアジャイル開発が支えていくことが益々期待される。
【編集後記】
持続可能な成長を目指す世界的な流れの中で、不要品のリユース、リサイクルは、社会的にも極めて重要になっています。その資源再利用事業に長年従事してきた浜屋は、DX にも早くから取り組み、今まさに時代の先端を走っていると言っても過言ではありません。自社にマッチしたツールとパートナーを獲得し、デジタル武装に邁進する同社は、これからも優れたサービスを生み出していくことでしょう。