事例

サンプル作成のスピードなら世界一 多品種小ロット生産の現場で活かされるアジャイル開発

1996 年の設立当初から、一貫して食品や洗剤などさまざまな商品のパッケージサンプルを作成している株式会社ワークキャム。試作品の製作を専門で行なっている企業は非常に珍しく、日本全国から平均月 300 件を超える注文が集まる。

東京・日本橋にある同社は、ビルの屋上に各型の倉庫、上階フロアにフィルム印刷機やシール機、CAD/CAM などを行うオフィス、そして 1 階には実際のサンプル品を作る工場がある。マシニングセンターをはじめ、トリムプレス、真空圧空成形機、熱盤圧空成形機、マイクロ波成型機、製袋機など各種機械を揃え、新しい商品作りにも積極的に取り組んでいる。本社自体が工場認可を受けているのは都内でも珍しく、受注から設計・製造、完成品の発送から商談クローズまで、すべての工程をここだけで完結することができる。

新型コロナウイルスによる未曾有の危機により、多くの企業が強制的に在宅ワークのための対応に追われた。在宅ワークの環境を整えるためのネットワーク機器やサービスの不足も記憶に新しい。しかし同社では、以前よりすべての案件情報を一か所に集約して Claris FileMaker 上で管理、全社員で共有しており、VPN で外部からもアクセスできるようにしていたため、システム的にはまったく改変や中断することなく営業を続けられたという。

常時 100 件以上のプロジェクトを並行運用できる秘訣

会社全体で常時 100 件以上の案件を抱えているが、FileMaker 上で状況を全員が共有しているので問題ない。タスクは色分けされており、加工中なのか、完了して発送待ちなのかなど進捗も一目でわかるようになっている。

「予定の管理などはすべて FileMaker で行っています。営業が仕事を受けたら、FileMaker に品名や行う内容をすぐ打ち込んでしまいます。納期や、どの作業をいつやるか、お客様の希望のスケジュールも全部入力して、ボタンを押すだけで見積が出ます。

オンライン会議ではその内容を見ながらみんなでこうしたいああしたいと話しながら、作業の日にちを入れ替えたり、納品するものが何件あるとか確認しているんです。案件は色分けして誰でもその仕事の進捗状況がわかるので、これがあれば会社に出てくる必要もありません。」と社長の野﨑氏は言う。

また新しい機能として、見積書の中に図面の PDF を挿入しプレビュー表示できるようにした。添付ファイルを開かなくてもプレビューでどのような形状かが一目でわかるようにしたことで、自分たちだけでなくお客様にとってもさらに便利になった。

「同じお客様からの依頼であっても、全く同じ注文は二つとありません。一品一様で毎回変わってくるので、以前作成したものを素早くお客様に共有することで、前回との比較でどこを変更するのかパッと一瞬で出すことができます。」(野﨑社長)

見やすく色分けされた大量の案件

膨大な数の熱可塑性プラスチックシート。案件ごとに使い分ける。

職人技が光るサンプル容器の世界と失敗しないためのデジタル技術伝承

街に並ぶキレイな商品サンプル、店内を彩る POP の数々、高級チョコレートの商品を鮮やかに飾る複雑な容器形状…きっと日々の我々の生活のなかで目にする多くの商品のデザインサンプルは、ここ日本橋のワークキャムで生み出されている。

容器サンプルの製作では、熱可塑性のプラスチックシートで型を作る際、自動車のモックアップ作りに使われるようなウレタン系の樹脂を使用する。一見同じように見える樹脂を面の硬さや粒子の細かさなどで使い分ける。サンプルデザインの形に合わせて削り出した型には、真空ポンプで空気を吸い出して素材を密着させるために最適な位置に微細な穴を開けられ、完成品のサイズに合わせてカットする。近年中身の充填機の精度向上は目覚ましく、液体であれば 1 滴単位で調整できるため、ほんの少しの歪みも許されない。

工場に iPad が設置され、作業をしながらその場で確認、入力が可能

こういった仕様も以前は紙で確認しながら作業していたが、現在はすべて iPad だ。FileMaker で共有されているので、作業中の変更などがあってもリアルタイムで対応が可能だ。そしてサンプル品が完成したら即時に iPad で写真を撮り、その場で FileMaker 保存して全社員に共有される。

現在のファイルには 2002 年から 83, 000 件を超えるプロジェクトの記録がある。年間 4,000、月 300 件を超える計算だ。その記録は日々増え続けており、受発注や設計図、工程管理など案件に関わる情報がすべて含まれているにもかかわらず、見たい情報にいつでもどこからでも瞬時にアクセスが可能だ。

「これがないと本当に営業が止まってしまう。どこから手をつけていいかパニックになっちゃいますよ。FileMakerがないと整理しきれないですね。」(野﨑社長)

プレゼンは、2D ではなく 3D で提案

昨今、コンビニやスーパーに並ぶ商品の移り変わりも激しく、そこの使われる容器デザインも目まぐるしく変化している。新しい商品には新しいデザインが提案されるが、一般にプレゼンというと容器のデザイン画や中身を入れた完成イメージ図を描いて紙ベースで見せるようなイメージがあるが、ワークキャムではプレゼン用に実サンプル品を作ってしまい、実際に中身を入れて現物でプレゼンができてしまう。

「もしイラストであっても、本職のデザイナーに依頼すると何十万円もかかってしまう。それなら同程度の料金で、中身を入れて現物で見せる方がはるかにプレゼンの競争力があがります。昔は 2 次元で描いて型を削っていましたが、今は一気に 3 次元で描けるので 1 日でできてしまいます。」(野﨑社長)

また Adobe Acrobat で 3D PDF が使用できることを活かし、3D 図面も FileMaker のオブジェクトフィールドで一緒に管理している。FileMaker 内では 3 次元で表示することはできないが、1 クリックで Acrobat を呼び出すことができるので、打ち合わせ中に 3 次元でさまざまな角度や切断面などを見せれば、その場でお客様に判断してもらうことができる。

制作するサンプルは多岐に渡る

品質への自信と、スピードへのこだわり

ワークキャムではサンプル品の製造に特化しており、とにかく正確に早くサンプルをお客様に提供することを心がけている。デザインが最終確定したら、本番の金型業者や、ベトナム、タイ、マレーシア、中国などの工場にパッケージ形状や加工データを送る。現地では、指定した素材や機械を使用し、受け取ったソースで削ればいちいち図面を見る必要もない。

「今は機械で削る前にシミュレーションもできるので、まず間違いは起こり得ない。社名のワークキャムの”キャム”は、CAM データ(加工機械に「どの工具を使って、どう材料を加工するのか」を指示する手順データ)の意味で、やっぱりそこを最後は売りにしたいとつけた名前なんです。」

「何もない状態から図面を書いて内容量の体積を合わせて、実際の容器製造する会社の機械の仕様に合った形に仕上げていきます。たぶん一斉スタートで同じ物を作らせたら、世界で一番早いと思いますよ(笑)。

日本橋で仕上げた作品をバイク便で発送でき、主要なオフィスにすぐに届けることができます。お客様も完成したサンプル品を持って商談に動くので、ある意味ちょっと他社より出す順番が早くなるだけで受注に繋がります。サンプル品に中身を入れてみて、これで良いねとなればもう仕事が決まる。やっぱり 1 日でも、1 時間でも早く持って行きたい。早さというのはそれだけ大事なんです。」と野﨑社長は力強く答えてくれた。

小さな工夫の積み重ねが大きな改善を生みだす

最近、新たにお客様別のレポート機能を追加した。毎日、毎月お客様ごとに指定されたフォーマットで作業の進捗レポートを提出するが、それもすべて FileMaker でボタンひとつで送信できるようになった。

導入前は顧客単位で検索してレポート作成する手作業が発生していたが、現在では各案件の進捗状況が一目でわかるほか、一日ごとの作業予定をカレンダー上で見られるため、どの日に作業が可能かなどもすぐに確認できるようになっている。各案件には担当者の頭文字などを含む固有の管理番号を付与し、似ている過去の案件が簡単に検索できるようになっているため、その当時の注意点などの記録や、前回からの変更履歴を追うこともできる。

「検索機能や、iPad で完成品の写真を撮って直接 FileMaker に取り込む機能は、乗せてみたらみんなが使うようになりました。実は見積で図のプレビューが見られる機能も先ほど作ったばかりです(笑)」(飛田氏)

こうして話をしている間にも手を動かして、思いついたアイデアをすぐに実装してしまう。まさにアジャイルなシステム開発で日々の業務改善を自然に積み重ねている様子を垣間見られた。

開発担当の管理部 飛田茂克氏(左)と代表取締役社長 野﨑 幸一朗氏

時代の変化による影響

新型コロナの影響により、お客様との対面での打ち合わせは激減した。同社の強みである、打ち合わせで実物を触ってもらい、その場で判断してもらう機会が減少した。作ったサンプルをお客様に送っても、担当者がリモートワーク中で確認できない。また顧客先の新製品開発・企画の仕事の減少・遅延の影響もある。

私たちの生活を便利で豊かにしてくれたプラスチックパッケージだが、2015 年に国連で SDGs (持続可能な開発目標)が採択されてから、世界中で脱プラスチックについて関心が高まっている。

同社は大手製紙会社の系列企業だが、現在は紙パッケージの仕事の割合はそれほど多くない。しかし今後のプラスチック製パッケージの減少に備え、紙やそれ以外の素材にも取り組んでいる。

実際、FileMaker Pro 17 Advanced 量販店向けパッケージ はワークキャムによって製作され海賊版防止のために複雑な紙加工処理が施して出荷されている。

「紙など素材が変われば、プラスチックとは異なり加工技術のノウハウが必要ですし、スピードだけでは対応できないところもありますので、日々勉強中です。」(野﨑社長)

決して安泰とは言えない時代の中、日々新しく開発される素材、変わるニーズに柔軟に対応しながら、積極的に新しい業種・業界へも挑戦するワークキャム。歴史のある街で品質にこだわり、常にスピードと変化も求める同社を裏で支えるシステムとして、今後もアジャイル開発ができる FileMaker が欠かせないツールであることは間違いない。

【編集後記】

取材時、守秘義務の関係上撮影はできなかったが、本当に多くの有名商品がこの現場で生み出されていることに驚いた。そんななか、他のパッケージ見本の中で異色を放つルアーを見せてもらった。昔は日本橋に魚河岸があったということで、日本橋には今でも寿司屋や日本料理が多く、魚に縁深い土地柄でもある。有名釣具店との仕事であくまで野﨑社長の趣味が高じてとのことだったが、特徴的な魚の造形で、こんな加工もできるのかという技術力の高さの一端が伺えるルアーだった。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、テクノロジー、組織、そしてビジネスプラクティスが一体となって初めて実現できるが、ワークキャムにとっての DXは、その言葉を意識するまでもなく FileMaker プラットフォームを利用し歩み続けている 20 年の進化の歴史そのものなのかもしれない。