目次
- 良質な住宅の普及促進と温室効果ガスの排出量削減
- 働き方を変えるための生産性向上ツールの選定
- 大手顧客管理(CRM)プラットフォームでも難しかった週報管理
- 3 年間の検討の末にたどり着いた、本当に欲しかったツール
- DX 推進部でローコードで内製開発、社内には Web で展開。最初のアプリは 3 か月で構築
- FileMaker 同時接続ライセンスで App を運用
- FileMaker は基幹システムと業務の隙間を埋めてくれる便利なツール
- 開発経験のない人にもおすすめしたい開発ツール
1. 良質な住宅の普及促進と温室効果ガスの排出量削減
建築資材や住宅など、木の利活用を通じて「住まい」にこだわった事業を展開するナイス株式会社 [証券コード:8089]は 1950 年に市売木材 株式会社として創業した。当時、木材の生産者と大工を結びつける術がなかった時代に、関東で初めて木材の市(いち)を神奈川県の鶴見駅構内で始め、競りの場を創り出し、木材市況を伝えたことが始まりだ。1962 年には株式上場を果たし、高度経済成長期を経て住宅着工件数が爆発的に増加した時代背景もあり、住宅資材の供給や住宅そのものの販売にもビジネスを広げた。
近年同社では、2050 年カーボンニュートラルの達成に向けて木材の利用推進や高性能住宅の普及を通し、脱炭素社会の実現を目指した取り組みを行っている。また、岐阜県下呂市の 654.3 ヘクタールの岐阜の森をはじめとした全国 8 か所、総面積 2 千ヘクタール以上の社有林「ナイスの森」を取得し、山林の保全・育成から資材の生産・流通、木造住宅の施工・販売まで、木と住まいに関する一貫したサプライチェーンを構築。SDGs を企業活動の中核に据え、環境問題や地域社会・経済における課題解決にも積極的に取り組んでいる。
2. 働き方を変えるための生産性向上ツールの選定
同社は、かつて導入していた大手顧客管理(CRM)プラットフォーム から 3 年の年月をかけ、内製開発による新システムへの移行と業務効率化に成功した。インフラからソフトウェアなど社内 IT 全体を管轄する管理本部 DX 推進部で部長を務め、チームの指揮、IT ツール選定などの広い業務を担当し、自ら社内システムの内製開発を行う吉田 裕貴 氏に当時の話を伺った。
3. 大手顧客管理(CRM)プラットフォームでも難しかった週報管理
同社には資材事業本部と住宅事業本部の 2 つの事業本部と、吉田氏が所属する管理本部がある。入社以来、資材事業本部で営業職だった吉田氏が DX 推進部の前身である IT 推進部に配属されたのは 10 年前。当時の同社には次のような課題があった。
それは資材事業本部の顧客となる材木店や建材店といった一次流通店に対して、住宅の施工を行う建築業者を二次店として管理する仕組みがなく、各社員が属人的に二次店情報を持っている、というものだ。当時、ナイスグループのシステム会社が構築した日報システムがあり、社員は毎日の業務をそこに入力して上長に報告していた。しかしそのシステムには二次店情報についての項目はなく、個々の業務状況を把握するためにも、どの社員がどの二次店にどのくらいかかわっているのかを全社的に見える化しよう、という話が持ち上がった。
そして、各営業担当が日報とは別にそれぞれの担当する二次店情報を含めた日々の報告を Excel に記録し、営業所がそれらを週報としてまとめ、それを本部が毎週集計する、という取り組みが始まった。しかし営業担当の Excel への入力や営業所での集計、それを取りまとめる本部での作業に手間がかかり、フローが煩雑になっていたことは想像に難くない。そんな折、実は社内にクラウド型顧客管理(CRM)プラットフォームの膨大な数のライセンスがあり、それが有効活用されていなかったということが判明する。そこで同社は、週報の仕組みをクラウド型の顧客管理(CRM)プラットフォーム に移行することにした。
しかしここでも問題が発生する。この顧客管理(CRM)プラットフォームは商談案件ありきのツールで、そこに報告機能を乗せようとしてもどうしても仕様が合わない。ベンダーに依頼して多少のカスタマイズを加えたものの、「無理があった」と吉田氏は振り返る。
また、日報システムを使った業務報告も引き続き行われていたため、現場の社員からは「本部に報告するためだけに日報と同じことを週報にもまた入力するのは無駄」という不満も出てきていた。
4. 3 年間の検討の末にたどり着いた、本当に欲しかったツール
もっと無駄がなく、自社の業務に適したシステムはないものか? 吉田氏は他のプラットフォームを探し始めた。数えきれないほどの展示会に足を運び、いくつものツールを検討したものの、多機能なものは予算がかかり、機能がシンプルなものは結局、カスタマイズに時間と費用がかかる。なかなか良い製品に巡り合えず、迷いに迷っていた頃、吉田氏はある展示会で小さなブースを出していた Claris FileMaker を見つける。スタッフの話を聞いているうちに、これならやりたいことが実現できるのではないか、という期待を持ち始めたという。
「そこから FileMaker のことをめちゃくちゃ調べ始めました」と言う吉田氏。
FileMaker カンファレンス 2019 (現在の Claris Engage Japan)では、さまざまなセッションに参加して FileMaker の可能性を探ったり、Claris Bar(技術相談コーナー)で Claris の セールスエンジニア に直接相談し、手応えを感じた。また Claris 公式テキスト『FileMaker Master Book』シリーズの冊子全てと市販の教材を購入し、自らの手で FileMaker を使ってアプリを開発してみた。そして Claris の YouTube チャンネルで公開されているチュートリアル動画も数多く視聴し、「FileMaker ならいける」という確信を得たという。
移行先のツール検討を始めてから実に 3 年、吉田氏はようやくこれだ!という製品にたどり着くことができたのだ。
5. DX 推進部でローコードで内製開発、社内には Web で展開。最初のアプリは 3 か月で構築
吉田氏はまず、日報が書けるカスタム App を約 3 か月で構築した。現場の理解や使用に慣れるまでの時間を考慮し、最初はこれまでの CRM と FileMaker を併用し、最長 1 年間をかけて移行することにした。また、より自分たちの業務を想起しやすいよう「資材データベース」という呼称を使い、現場への浸透を図った。
FileMaker で構築した日報システムは、二次店の管理も行うことができ、二次店訪問の記録も残せるため、週報への二重入力が不要になった。また、使用していた顧客管理(CRM)プラットフォームは、ワンクリックで報告書を上長にメールで送るような機能をカスタマイズのうえ、実装していたが、FileMaker であれば日報入力後にボタン 1 つでメール送信し、上長が「報告を受ける」機能を容易に追加することができ、会社の文化に合わせた仕組みを内製することができた。
6. FileMaker 同時接続ライセンスで App を運用
ナイスでは社内公開しているカスタム App は全て FileMaker WebDirect で展開しており、ユーザは Web ブラウザからアクセスできる。もともと導入されていた 顧客管理(CRM)プラットフォーム が Webブラウザであり、ユーザ側の移行がしやすかったこと、またクライアントにソフトウェアをインストールする必要がないので、ユーザにアップデートを依頼する必要がなく管理もしやすいことがその理由だ。ユーザの使用する端末の種類に関係なく Web ブラウザからアクセスできるという点も FileMaker 選定の理由の 1 つだったという。
またライセンスの管理については、従来の顧客管理(CRM)プラットフォームには、ユーザライセンスという選択肢のみであったが、Claris FileMaker には、ユーザライセンスの他に、同時接続ライセンス・サイトライセンスという選択肢がある。現在、約 300 名の社員が Web ブラウザ経由で FileMaker を同時接続ライセンスで使用しているが、 1 ユーザごとの 1 か月の費用は 1,000 円弱であり、ライセンス費用面でもコスト削減効果は高い。
今後もカスタム App を拡張していくなかで同時接続数が上限に達したら、ライセンスを追加すればよいだけなので、外注システムとは異なり IT 予算の見通しも立ちやすい。
7. FileMaker は基幹システムと業務の隙間を埋めてくれる便利なツール
受発注、請求、入金といった事業部の業務を担う基幹システムは、グループのシステム会社が構築している。基幹システムのカスタマイズは容易ではない。そんな基幹システムで網羅しきれない細かな業務を拾い、営業所や各社員の業務効率化をサポートするツールとして、FileMaker は最適だと吉田氏は語る。実際に吉田氏は現場の要望に応えて、全営業所が使用するようなシステムから、数名が一部の業務で使用するだけのものまで、実にさまざまなカスタム App を自ら開発している。
例えば、以前は見積書のフォーマットが統一されておらず、営業所ごとに Excel で作られていた。受注担当は案件ごとの最新の見積書を探すのにも苦労していたという。各営業所がそれぞれ工夫はして作成はしていたが、見積書を統一できないものか、という相談が寄せられた。そこで吉田氏が FileMaker で見積書を作成できる仕組みを作り、一部の営業所で使い始めた。その後、法改正があり、施工工事がかかわる場合は見積書に必須で含めなければいけない項目が求められるようになる。全社的に統一したフォーマットが必要になったことから、 FileMaker が全営業所で使われるようになった。
また、鶴見本社 1 階の受付で使われている会議室の空き状況を管理するカスタム App は、2 階の会議室とつながっており、iPad で操作できる。これは吉田氏が現場の要望を受けて、1 時間程度で作ったものだという。受付のスタッフは「使いやすいですよ。最近またアップデートもしていただいて」と笑顔を見せる。
他にも、Excel のマクロではデータ処理が終わるまでに 2 時間かかっていたものが、FileMaker を使うと 3 分で完了するようになった、というものなど、名前のついていないお役立ちツールが社内にいくつも存在する。
8. 開発経験のない人にもおすすめしたい開発ツール
「FileMaker は本当におすすめです」という吉田氏に、特に気に入っている点を聞いてみると、次のような答えが返ってきた。
「FileMaker は、レイアウト、データベース、スクリプトなど、どこからでも作り始められるところが良いです。もともと技術者でない私のようなタイプの人は、要件定義から入るのではなく、現場でどんなふうに仕事をしているのかを実際に見て、UI から作っていき、これを実行するにはこの機能が必要、と逆方向に作っていく方がやりやすいです。後で必要なフィールドを追加していったり、レイアウトを増やしたりと、テーブルの設計が後でも大丈夫。そこが、FileMaker が最強な理由だと思います」
とことん他のツールと比較し、検討を重ねてきた吉田氏から見たもう 1 つの FileMaker の良さは、“他のものを足さなくても標準機能で全部できる” ところだという。例えば他のローコードツールだと、シンプルな機能があり、簡単に使い始めることはできるが、機能拡張しようと思うとアドオンを追加購入しなければならない場合がある。
「FileMaker は全部ありますから、追加アドオンの予算が必要になったりしません。ローコードツールだけでも 10 個くらい検討しましたが、FileMaker が一番です」(吉田氏)
DX 推進部には、大小さまざまな困りごとが集まってくる。そうした社員一人ひとりの声を聞き、現場の要望をどのように叶えられるかを判断する。自ら手を動かす開発者でもある吉田氏は、現場がやりたいことを FileMaker でできるならやってしまう、という。現場に寄り添い、現場の困りごとを一つひとつ解決するツールとして、これからも FileMaker を活用してくれることだろう。
「現場が喜んでくれるのが一番です」 という吉田氏の言葉が印象的だった。