コロナ禍でのオンラインサービス実現に Claris FileMaker が大きく貢献
PTNA :ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)は、1966 年に創立されたピアノ指導者の団体で、全国に約 18,000 人の会員と 640 か所の拠点を持ち、ピアノ教育に関するあらゆる事業を展開している。ピアノ指導者に求められるスキルの研鑽をサポートする事業をはじめ、コンクールや発表会の開催、指導者と生徒をマッチングさせる教室紹介などを手がけている。
同協会が Claris FileMaker を導入したのは、いまから 30 年ほど前の 1992 年のことである。導入以来、情報管理システムや基幹系システムとして活用してきた結果、ほぼすべての従業員が FileMaker を利用して業務を遂行するまでに活用が広がっている。その様子は 2018 年に Claris のお客様事例としても公開されており、また Claris Engage Japan 2020 のセッション動画としても公開されている。
2020 年以降、同協会も新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、ワークスタイルやサービスの変更を余儀なくされたが、基幹系システムとして FileMaker を導入していたおかげで、その対応もスムーズに行えたという。
まず大きかったのが、テレワークへの対応だ。同協会では、コロナ禍以前からテレワーク勤務を実施しており、事業所外から VPN を介して、FileMaker Server にアクセスする環境を整えていた。とはいえ、緊急事態宣言で求められた規模で、在宅勤務を行うのは初めてのこと。それでも、勤怠管理システムなどを FileMaker で内製していたため、必要な項目をすぐにカスタマイズでき、テレワーク体制への即日対応を実現したという。
新たなオンラインサービスでコロナ禍を乗り切る
新型コロナウイルス感染症拡大によって 2020 年 4 月緊急事態宣言が初めて発令され、他業種同様にピティナも大きな影響を受けた。就学前幼児から専門家を目指す学習者やアマチュアの愛好家まで、毎年のべ 45,000組が参加し、世界最大級の規模を誇るピアノコンクール「ピティナ・ピアノコンペティション」や「ピアノステップ」と呼ばれるピアノ発表会などが軒並み中止に追い込まれた。緊急事態宣言とパンデミックにより将来を予見できないなか、ピティナは大きく事業方針を転換して代替オンライン事業を展開することをいち早く決定。コンクールや発表会のオンライン開催を速やかに実行に移した。
オンラインサービスは徐々に拡大し、新たなサービスも生まれた。これも FileMaker で顧客情報やコンテンツ情報、スケジュール情報などを一元管理していたこと、そして従業員が FileMaker を使いこなせるスキルを有していたことが大いに役立ったという。
「新事業を立ち上げるとなると必ずついて回るのが、管理システムをどうするかということ。その点、私たちの場合は『 FileMaker があるから何でもできる』という、ある意味、楽観的な気持ちでいられます。新しくオンラインイベントを実施しようという時も、担当者レベルで FileMaker で専用レイアウトを作成し、既存のデータを活用できるため、新規プロジェクトもスピーディに立ち上げることが可能です。
システムや IT インフラの都合に縛られない環境が、柔軟な発想を生む礎になっているのは間違いありませんね」
このように語るのは、同協会で CTO を務める野口 啓之 氏だ。
コンクールや発表会以外に、同協会のピアノ指導者向けに開催したオンラインセミナーも、そのような環境があるからこそ実現できた取り組みの 1 つ。対面でのレッスンが行えず、苦境に立たされた会員に向けて、オンラインレッスンを実施する方法をレクチャーするセミナーも開催したという。
かつての紙による校正と変わらない作業感を iPad で実現
ピティナでは iPad もビジネスで活用しており、iPad 上の Claris FileMaker Go からコンクールなどの参加者台帳の校正作業を行っている。これも事務スタッフ主導で進められた取り組みで、iPad 専用のレイアウトをFileMaker Pro で作成し、かつての紙による校正と変わらない使用感を維持してペーパーレス化を実現した。
iPad ( 9.7 インチモデル) と iPad Air 、Apple Pencil を採用しており、「大きすぎず、ディスプレイも見やすい、このサイズ感がベストだと考えています」と野口氏が語るように、校正時の視認性とモバイル性を考慮しているという。
デジタルマーケティングに対する課題解消のため Claris Connect を導入
Claris Connect は、ワークフローオートメーションという分野のサービスである。これによって複数のサービスにまたがるタスクを、特定条件に応じて自動で連続的に処理できるようになる。ピティナでは、Claris Connect が登場する前からオートメーションツールを導入していたが、従来のサービスでは FileMaker との連携ができずにいるということで難渋していた。近年は Google Workspace の利用範囲が増え、スプレッドシートに溜まったデータを FileMaker と連携したいというニーズは高まるばかりだった。このような状況のなか Claris Connect が登場した。
ピティナでは教室紹介サービスへの申し込みシステムに早速 Claris Connect を導入した。 以前は、この申し込みシステムに無料の Google フォームを利用し、外部のプラグインを使って FileMaker にデータを取り込んでいた。しかしプラグインは高度な知識を要するため、システムがブラックボックス化してしまうことや、Google フォームではコンバージョン率の計測ができないという課題があった。
Claris Connect 導入後は、Google Analytics でのコンバージョン率計測に対応している formrun という有料のフォームサービスに切り替え、プラグインを使わずに formrun から Google スプレッドシートを経由して FileMaker へと自動でデータが送られるようになった。Claris Connect によるサービス間連携で、開発リソースを割くことなく課題を解決することができている。
「各施策の効果が可視化されたことで、マーケティングの PDCA サイクルを回せるようになり、デジタルマーケティングを進めることができたのは大きな成果」だと野口氏は胸を張る。この連携の仕組みは、野口氏自身が寄稿したこちらのブログでさらに詳しく解説されている。
Claris プラットフォームで DX への取り組みを加速
同協会では現場の担当者がアプリの機能をカスタマイズするなど、まさに「デジタルの民主化」と呼ぶにふさわしい環境を構築しているが、野口氏は「いくら現場の開発スキルが上がっても開発環境はノーコード・ローコードにとどめておく」というルールを定めている。開発スキルが上がればプロコード環境に移行することを考えてしまいがちだが、プロコードに対応するには、従業員の技術レベル向上のための教育コストや時間を要する。従業員が入れ替わるリスクも考慮すると、ノーコード・ローコードにとどめておくほうがよいとの判断だ。それゆえ、今後もノーコード・ローコードで開発可能な FileMaker を活用していく考えだという。
最後に、野口氏はプラットフォームに対する長年の信頼を、こう語った。
「 20 年以上、FileMaker を利用してきて、手の打ちようがないほどにレガシー化してしまうことはありませんでした。旧バージョンとの互換性が担保されているため、安心して使い続けられるのは本当にありがたいですね。また、GUI ベースで、直感的に画面デザインができ、開発未経験者でも馴染みやすいのも特筆すべき点です。
それでいながら、本格的なプログラミングに近い記述もできる。間口は広く、懐の深さもあるのも魅力的ですね。さらに GUI が洗練されたデザインなのも意外と重要なポイントです。そこが気に入らないと、業務に対するモチベーションも変わってきますので。
当協会では、今後も既成概念にとらわれず、新たな顧客価値の創造につながるような事業を展開していくつもりです。それを実現するうえで、FileMaker が果たす役割は大きいと考えています。コロナ禍でのオンライン事業がそうであったように、『 FileMaker があるから何でもできる』という意識を各従業員により強くもってもらうことで、さらに自由な発想のアイデアが生まれることを期待したいですね」
【編集後記】
ピティナでの従業員への Claris FileMaker の活用に関する教育は、野口氏自身や Claris パートナーが、従業員からの相談に応じる窓口を設置することで行ってきたという。ツールの利用を促し組織に定着させるためには、利用を押しつけるのではなく、ユーザに当事者意識を持ってもらうことが、やはり重要なようだ。ぜひ今回の事例を参考に、Claris FileMaker の活用、デジタルマーケティングの促進、さらにはデジタルの民主化を成し遂げていただきたい。