大自然の中で、家族や仲間とのかけがえのない体験を提供
軽井沢駅から、車で 10 分で別世界へ。13万㎡の広大な国立公園内のアウトドアリゾートを運営する Rising Field KARUIZAWA (株式会社ライジング・フィールド)。キャンプ、ピクニック、日帰りBBQ、ジップライン、アドベンチャーパーク、川遊びができる小川、ファミリーアドベンチャー、ツリークライミングなどができ、軽井沢の大自然を家族や仲間と満喫できる。
年間約 5 万人の利用者が訪れるという本施設は、リピート率が高いのが特徴。1 度訪れた利用者の心をつかんで放さない要因は、一般的なキャンプ場とは一線を画すコンセプトにある。
さまざまな自然体験活動を通じて子どもたちの生きる力を高める場をつくる――それが当施設のミッション。このミッションのもと、ファミリーでキャンプやピクニックができるロケーションの提供だけでなく、ユニークなアクティビティやイベントなどを実施している。複数の家族でアドベンチャーに挑戦する「ファミリーアドベンチャー」プログラムもその 1 つで、子どもたちの新たな一面を発見できたり、家族の絆を深められたと評判だ。また、2021 年には敷地内の微生物を採取・培養し、普段は目には見えない微生物の多様性を実感するワークショップを実施して話題となった。このような他のキャンプ場では味わえない体験は、子どもはもちろん、その親も楽しみながら成長できると人気を集めているのだ。
この施設を立ち上げた株式会社ライジング・フィールド 代表の 森 和成 氏は、大手コンサルティングファーム、アクセンチュアのディレクター就任後、人・組織に関わる企業を設立して独立。以来、企業向けに組織開発や人材開発のコンサルティングに携わっている。森氏自身が、25 年以上の社会人経験を通じて実感したのが、近年の「新入社員の創造性の低下」だ。これを解決するためには、子ども時代に“生きる力を高める”ための経験が必要だと考え、2014 年にライジング・フィールド軽井沢を立ち上げたという。
2014 年、森氏自らがユンボを運転し、キャンプ場やバーベキュー場を開拓。ジップラインなどアスレチック設備の新設や、結婚式会場などでの利用を目的としたコミュニティスペースの拡充など、インフラ面の整備を行ってきた。「子どもたちの生きる力を高める場をつくる」を目的としたライジングフィールドは、キッズコーナーやオムツ替え授乳室なども備えるほか、お子様 1 人につき 1,000 円ディスカウントなど、家族を大切にする運営方針も特徴的だ。
現在では軽井沢のほか、長野県大町市の青木湖畔に位置するライジング・フィールド白馬も運営している。また企業向けに、ライジング・フィールドのロケーションを生かした「アクティブ・ラーニング」プログラムの提供なども行っている。
事業の横展開を考えたうえでローコード開発プラットフォームを選択
ライジング・フィールド軽井沢では、2015 年に Claris FileMaker を活用し、ユーザが直接 Web サイトから施設の利用予約ができる予約システムを構築。システムのコンセプトについて、森氏は次のように説明する。
「基幹となるデータベースシステムを FileMaker で構築できれば、将来、事業を拡大する際に横展開がスムーズになると考えたのが、システム構築理由の 1 つです。この点は、実際にライジング・フィールド白馬を開設する際に役立ちました。また、予約時に収集できる顧客情報を活用して、CRM* 活動を高度化させることも視野に入れています。例えば、ライジング・フィールドでは、子どもたちの成長ステージを念頭に置いた環境づくりを行っていますが、顧客情報を元に『今回はこの体験ができたので、次はこんな挑戦をしてみてはいかがでしょうか?』というレコメンドを行うことを将来的に実現したいのです」
*CRM:Customer Relationship Management。顧客との関係を良好なものとするための管理手法。
小さく始めて大きく育てられるアプリケーションを選択
予約システム構築にあたり、パッケージソフトではなく Claris FileMaker を採用した理由について、キャンプ場特有の細かな情報設定を行うことができるという点が非常に重要なポイントとなった。
例えばキャンプ用サイトの振り分けを最適化するには、人数やグループ構成の他にも、車のサイズのような細かい情報設定が必要となる。できるだけ自然を残しながら施設運営を行うライジング・フィールドでは、車高が高いと木の枝が邪魔になって入れない場所もあり、予約時に車の大きさを正確に把握することが求められるのだ。また、ゆっくり静かに過ごしたい利用者と団体客が近接しないようにと配慮する点でも、顧客からのリクエストを細かく把握する必要があるという。
汎用のパッケージアプリケーションの場合、キャンプ場特有の細かな顧客情報を項目として設けることが難しく、それらの設定変更が容易な FileMaker が選ばれたという。なにより、森氏自身が FileMaker をバージョン 2 の頃から愛用しており、カスタマイズ性をはじめ、使い勝手のよさを知っていたことも決め手になった。森氏は先述した CRM 活動の高度化も含め、FileMaker を活用して実現したいことを数多く思い描いている。つまり、「将来を見据えると、小さく始めて大きく育てられる FileMaker を導入することが最適な選択」(森氏)だったわけである。
FileMaker を導入して 8 年、実感しているメリット
ライジング・フィールドには、軽井沢で約 150、白馬で約 50 ものキャンプサイトがあり、年間 5 万人ものキャンパーが利用する。それらの予約対応を電話で行うことが困難なのは想像に難くない。勤務するスタッフは野外での作業も多く、タイミングによっては電話に出られないこともある。そう考えると、予約システムの存在は運営コストの削減や機会損失の軽減にも寄与しているのは確実だ。
予約システムを利用するのは 20 代〜 70 代までのカスタマーフロント担当者だが、システム導入当初から直感的に操作できたとのことで「システムの使い勝手がよい」と評価も上々だ。
「当日の稼働率やどのエリアにどのようなお客様がいらっしゃるか、FileMaker を見れば一目瞭然なので、そのような情報も尋ねればすぐに回答が得られます。情報の管理がしやすいです」と森氏は話す。
森氏に今後のビジョンを尋ねると、
「あの時の、あの体験が、今の自分の生きる糧になっている!」
子どもたちが大人になった時、そう振り返ってもらえる未来のおとなたちで社会を埋め尽くす。
それが私たちの夢(ビジョン)です、と力強く答える。
森氏の組織運営方針は、徹底した現場への職務権限の委譲。ライジング・フィールドのミッションは、次のように謳われている。
自然体験活動を通じ
- 子供たちの生きる力を高める
- 家族の絆を深める
- 人・組織の可能性を切り拓く
「現場にはミッションや目的を与えて、細かい指示はしません。創り出すものやイベントは自ら考えます。例えば、コロナ禍で餅つきができなくなったときに現場で工夫して実行されたのが “パーソナル餅つき”です。竹やぶから採ってきた竹節を使った餅つきです。これがまさにブレークスルー**です。ライジング・フィールドを運営するうえで、ハード面での空間作りは大切ですが、それ以上に大切なのはソフト面です。当社のお客様の 7 割がリピーターですから、スタッフが新しい視点を常に持ち続けることが大切で、現場で新しい発見をできる工夫をしています」(森氏)
**ブレークスルー:障壁を従来にない方法によって突破すること。
アジャイルな組織とアジャイルなアプリケーション開発
自然を舞台に四季を感じながらビジネスフィールドを拡張し、地域人材を採用するライジング・フィールド。採用時に重視しているのが、はやりミッションとビジョンを大切にすることだ。
(ライジング・フィールドの採用基準より一部抜粋)
- Mission&Vision」に心から共感し、実践して下さる方
- 言われたことをこなすのではなく、自分で何を成すべきかを考え、決め、どんどん行動する方
これを実践するためには、自分たちを取り巻く状況の変化に柔軟かつ素早く対応できる、いわゆるアジャイルな組織である必要がある。アジャイルな組織が求めるのは、アジャイルが実現できるローコード開発システムだ。
森氏に アジャイルなシステムを成功に導く秘訣について尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「まずは経営者自らがソフトウェアを触ってみて、何ができるかを理解することでしょうか。FileMaker ならローコード開発できるので、それほどハードルは高くないはずです。私自身も過去に業務で利用していた経験がありますし、現在も個人的な情報管理に FileMaker を使っているので、基本的なことは理解しているつもりです。やってみなければわからないことは必ずあります。システム導入に関してもアクティブ・ラーニングが重要ということですね」
【編集後記】
ライジング・フィールドでは、より多くの子どもたちにブレークスルーのきっかけや体験の積み重ねを提供するために、事業のさらなる横展開をしていく考えだという。一方で、自然環境を保持しながら、サイトに合わせた施設やアクディビティを創造する必要もあり、各環境を生かすスタッフのアイデアが実践できるよう柔軟にシステム面で支える必要がある。柔軟な組織運営とアジャイル開発を実現するうえで、Claris FileMaker が未来の子どもたちの成長の一助になっているのであれば、製品を提供する立場からするとこの上ない喜びである。