事例

海外でも人気の高いホンダ車専門チューニングショップが販売管理システムの刷新で DX を実現

目次

  1. ホンダ車のチューニングに特化。90 年代から販売管理に FileMaker を活用
  2. 大幅な設計変更と機能追加にもかかわらず、約半年で稼働開始に成功
  3. データ入力や伝票作成が大幅に効率化され、新たに顧客管理や作業管理も実現
  4. FileMaker は 車と同じ!自由にチューンナップできる最高のプラットフォーム

1. ホンダ車のチューニングに特化。90 年代から販売管理に FileMaker を活用

ジェイズレーシング」というブランド名で、ホンダ車を専門にチューニング、パーツの開発、パーツや車両の販売などを行っているのが、大阪府茨木市の株式会社ジェイズ・コーポレーションだ。パーツ交換やチューニングによって車のデザインや性能を自分好みに変更したり、サーキットでの走行性能を高めたいと考える人たちに、同社は高い人気を誇る。

同社は元々国内向けに事業を行っていたが、20 年ほど前から海外からも買い付けに来る業者が増え、海外にも販路を広げることに。現在はアジア、北米、欧州などを中心に多くの販売代理店と提携しており、売上の海外比率も 3 割程度までに増えている。その理由をジェイズ・コーポレーション 代表取締役社長 村上 久明 氏は、「日本車のパーツはやはり日本産が最適、と考えるお客様が多いのでしょう」と語る。

村上 久明 氏(株式会社ジェイズ・コーポレーション 取締役社長)と 峠最強伝説「魔王」S2000

村上氏の入社は、同社の創業(1989 年)間もない頃。当時は社員は数人しかおらず、車のオークション会場にスタッフを派遣するという業務を行っていた。そこから同社は徐々に業務内容や規模を拡大し、現在では多くのホンダ車好きを魅了するブランドへと育っている。

創業当初は販売管理業務を手書き伝票などで処理していたが、90 年代半ば頃、村上氏は知人から「これからはパソコンの時代」と言われ、Mac の導入を勧められる。同時に FileMaker Pro 3 で基本となるシステムを作成してもらい、以降自分たちで使いながら機能を増やしていった。村上氏は、「パソコンもプログラミングも経験がありませんでしたが、そこまで難しくはありませんでした」と当時を振り返る。

手書きだった各種伝票が整理され、過去の伝票を簡単に検索して参照できるといった効果を村上氏は感じていたという。FileMaker Pro 6 までバージョンアップとシステムの機能強化を行っていたが、徐々に自分たちだけでシステムを運用することが手に負えなくなり始めていた。

2. 大幅な設計変更と機能追加にもかかわらず、約半年で稼働開始に成功

2022 年の秋頃、村上氏は 20 年来の顧客であり、Webサイトのデザインなどで協力もしてもらっている知人にシステムの運用の件を相談する。そこで紹介されたのが静岡県浜松市のネビュラ株式會社であった。ネビュラ 代表取締役社長の松本 健吾 氏は、「車好きの古い知人で、ホンダのオープンカーに乗っているのは知っていましたが、約 25 年ぶりに彼から連絡があり驚きました」と、共通の知人が取り持った縁について語った。

実はジェイズ・コーポレーションはその前に一度、システムの修正をしようとある開発会社に改修を依頼したことがある。ところが、思ったような機能実装ができずに断念。そのためシステムは長きにわたって古いバージョン FileMaker Pro 6 のまま使い続けられていた。しかし、今回は付き合いが長く信頼している知人からの紹介であり、実際に松本氏と会って話した感触も良かった。「こちらの要望をすぐに理解してもらえ、ネビュラさんなら思ったようなシステムができそうだと思いました」(村上氏)

今回は、FileMaker Pro 6 から 19 へと大幅なバージョンアップとなった。近年、FileMaker の機能は大きく進化しており、FileMaker Pro 6 では複雑に構成されていた作業フローも、19 なら新しい機能を使って簡素化できる。例えば、FileMaker Pro 6 では完全なリレーショナルデータベースでなかったため、販売点数が多い場合に伝票が複数枚になってしまい、それらの合算はすべて人手で行っていた。また、通常なら見積と入金処理は構造上テーブルを分けるが、元々のプログラムでは同一構造にしていたため、管理が大変でイレギュラーな対応もできなかった。「それでも使っていたので、相当使いにくかったと思います。この課題を解消するため、1 テーブル 1 ファイルを、複数テーブルを 1 つのファイルにまとめる等、大幅な設計変更が必要となりました」(松本氏)。

さらに商品マスタはあったが、顧客マスタがなく毎回入力が必要だった。そこで過去のデータをもとに正規化したうえで、顧客マスタを作成するなど、データの移行にも苦労した。「大幅な設計変更に加え、月締め処理や作業日程管理などの機能も追加しました。新システムでは、マニュアルを作るよりも、操作に迷ったときに参照できるオンラインヘルプの方が使い勝手が良いと考え、ヘルプを画面に表示できるようにしました」(松本氏)。

刷新された基幹業務システム

システムの刷新によりかなり使い勝手が向上し業務効率化を実現したが、さらに実際に使いながらネビュラに要望を伝え、現場の“かゆいところに手が届く”アジャイル開発を繰り返している。大阪と静岡で距離が離れていても迅速なアジャイル開発を実現できているのは、今回のバージョンアップで Claris FileMaker Server をクラウド環境へ移行したからだ。高度なセキュリティを確保したクラウド環境に開発者はカスタム App を素早く展開でき、メンバーは最新のデータにどこからでも安全にアクセスできる。

3. データ入力や伝票作成が大幅に効率化され、新たに顧客管理や作業管理も実現

新たな基幹業務システムにより、同社の業務はかなりの効率化を実現している。同社の自社製品は 約 5,000 品目にのぼる。その他、ホンダの純正品など他社製品を販売するケースもある。この膨大な量の品目について、従来は検索したデータを手作業でコピー & ペーストして受注明細を作成する必要があった。今回のバージョンアップでは全てが自動化され、書類作成業務の大幅な効率化が実現した。

代理店からの受注は、基本的にはオーダーシートとなる Excel ファイルをオンラインストレージを介して受け取っている。このデータを FileMaker に簡単にインポートできるようになった。「海外からの場合には、部品の注文が多くて200 種類以上のパーツが発注されることもあります。それらのデータも、一気に取り込めるので便利になりました」(村上氏)。

海外への出荷には、納品書や請求書とは別に出荷明細(インボイス)を付ける必要がある。従来これは Excel を使って 1 枚ずつ作成していた。これが 現在 FileMaker アプリ上で「納品処理」ボタンを押すだけで複数の伝票が自動作成できるようになり、手間も時間もかからなくなった。さらに村上氏は、「受注一覧には品目ごとのステータスが表示されるので、1 つの画面で各品目の納品状況を把握できます。一度の発注で分納するケースでも、別途管理する必要がなくなりました。さらに顧客の履歴を確認することで担当者の記憶に頼らず確固とした商談が可能になりました」と評価する。

アメリカ・イギリス・マレーシアなど海外の販売店からの部品注文も多い

さらに、後日アジャイル開発で実装した機能として、工場の作業管理がある。勤怠管理データと連動することで、工場での担当者ごとの作業日程の予定を立て、生産管理をも容易にした。

4. FileMaker は 車と同じ!自由にチューンナップできる最高のプラットフォーム

今後は、在庫管理機能と連動した経営分析を実現する予定だ。現在商品マスタに登録しているのは自社製品のみであるため、他社製品のマスタ登録を進めるが、金額が頻繁に変わるケースも想定しつつ、メンテナンス面含め仕様を検討している。また、会計システムとの連携も課題として残っている。現在は伝票を会計システムで 1 件ずつ入力しており、FileMaker との連携が実現すれば経理業務の大幅な効率化が期待できる。これにより、原価率や業績評価など経営分析が実現可能となる。現在 FileMaker の入力や処理ができるメンバーは、村上氏を含め 5 名だが、この人数も今後は増やしていく予定だという。

FileMaker について村上氏は、「市販の既成システムは自由度が少なく、使いにくいケースも少なくありません。車と同じでチューンナップすることで、自分好みにでき、使いやすくなります。FileMaker はこのような要望に応えてくれます」と語った。

「今回、最新の FileMaker ライセンスを採用したことで、ジェイズ・コーポレーションさんは常に最新バージョンの FileMaker を使えるようになりました。最新のテクノロジーを使うことで業務改善は素早く実現します。これからも最新の機能を使って DX を加速するお手伝いをしていきたいです」と松本氏は今後の支援を約束した。

【編集後記】

システムを導入し利用し始めたものの、状況が変化により現場にとって使いにくいシステムになってしまった、ということは案外多い。コスト削減意識から古いシステムで我慢し続ける。それが年々積み重なっていくことで失われる生産性の低下を経営者が予測することは難しい。一方で、いったん経営者がジャストフィットの重要性を理解すると、改善への道のりは早くなる。事業を知り尽くしている経営者だからこそ、改善へのアイデアが次々に湧いてくる。スーパー耐久レースをはじめとする各種レース車のチューニングに心血を注ぐ村上社長の目は、IT システムのチューニングにも向き始めた。ドライバーとしての村上社長、そしてチューニング エンジニアとなったネビュラ松本氏の DX へのさらなる挑戦から、今後も目が離せない。