事例

ローコード開発で基幹業務システムを構築 〜多品種生産を可能にするプラットフォーム〜

目次

  1. 多品種の商品を迅速な経営と業務処理でさばく
  2. 信頼できる開発パートナーと二人三脚でシステム構築
  3. 業務に合わせて自在に改良してきた生産管理システム
  4. 商品ごとの原価や粗利が一目で把握可能になった販売管理システム
  5. 取引先が増えても柔軟にデータ処理できる拡張性

1. 多品種の商品を迅速な経営と業務処理でさばく

1959 年創業以来、甘栗の輸入、商品開発、加工販売を主なビジネスとし、中国茶、ドライフルーツ・ナッツや中華食材・調味料を販売している丸成商事株式会社は、食品商社として 65 年以上の歴史を持つ。商社として食品を輸入販売するだけでなく国内に製造機能も持ち、大手コンビニエンスストアに OEM 提供なども行っている。多品種の商品展開で、登録商品数は約 1,500 アイテム、年間の受注件数は 10 万件以上にものぼる。

同社は日本向けに安心安全な加工食品を提供するため、海外の農地での栽培管理も行っている。栗栽培では日本企業として初めて中国現地での有機栽培管理に取り組み、2002 年には、農林水産省から日本初の有機 JAS 認定を受けるなど、天津甘栗においてパイオニア的存在である。

丸成商事株式会社 商品管理部 部長 菊地龍太郎氏はそれらの事業について、「創業者が台湾出身であったことから、国内外を行き来し、有機栽培という概念が存在しなかった時代から、安心して食べられる食品の取り扱いと環境構築に取り組んできました」と説明する。

菊地 龍太郎 氏(丸成商事株式会社 商品管理部 部長)

環境に安心でより美味しい商品を追求してきたことで、顧客からの信頼も高く、大手コンビニエンスストアをはじめとした OEM ブランド 商品提供も年々増加傾向にある。直近の売上高ベースでは、OEM が約 6 割を占め、甘栗の取扱高は国内最大、干し芋商品はカテゴリーナンバー 1 の売り上げを誇る。

同社の成長を牽引してきたのは、細かいニーズに対応できる柔軟性とスピードにある。菊地氏は、「小規模な同族会社ということもあって、大企業のように稟議を積み上げる必要がなく、やる・やらないを含めた意思決定が非常に速く行えます。製造現場も本社にあるので、午前中に受注したものは原則的に当日に出荷できる体制が整っています」と語る。

これら受注・納品・経営判断を含めて迅速な対応を支えるのが、Claris FileMaker によって構築した基幹業務システムである。

そのシステムの源流は 1990 年代にさかのぼる。同社では創業以来伝票などをすべて手書きで処理していたが、1990 年代に Macintosh を導入。統合ソフトウェア Claris Works を用いて、顧客別に煩雑化していた納品書を統一して発行する仕組みを実現、在庫管理機能を拡張した。その頃は DX に取り組んでいるという意識はなく、FileMaker を使えば業務が楽になるな、という感覚で在庫のデータベース化に取り組んでいたという。

2. 信頼できる開発パートナーと二人三脚でシステム構築

Claris FileMaker を利用することで在庫管理が容易になったことから、同社は他の業務にもその活用を広げていく。しばらくは自分たちの手でアプリケーションを内製していたが、多忙により限界を感じ、外部の開発エンジニアに常駐してもらい、業務システムを拡充していった。しかし、次第に菊地氏は不安を感じるようになっていったと当時を振り返る。「システムの中身がだんだんブラックボックスになっていきました。業務システムを握っているエンジニアの対応も丁寧さがなくなり、これはまずいと思い、別の新たなパートナーを探し始めました」(菊地氏)

そして 2014 年、出会ったのが Claris パートナーの有限会社アイ・ティ・コモンズである。アイ・ティ・コモンズは、長年 FileMaker でのシステム開発で培った高い技術力と、顧客の要望に沿った提案力が高く評価されており、高い顧客リピート率を誇る。菊地氏はアイ・ティ・コモンズについて、「他社が作ったシステムを引き継いで改良できる優れた技術力があり、私たちのレベルに合わせてわかりやすく説明してくれます。もとより、スキルだけでなく人としても信頼できるからこそ、すべての情報を託すことができ、長いお付き合いが続いています」と絶賛する。

当初はアイ・ティ・コモンズ の始澤氏が単独で開発を請け負っていたが、しばらくして同じく Claris パートナーの TonicNote 株式会社 竹内氏に協力を依頼。現在は 2 名体制で、ブラックボックス化させることなく、システムの改良や新機能開発を続けている。また同社では FileMaker を全従業員が利用できるよう、サイトライセンス*で導入している。

*FileMaker サイトライセンスは、法人/団体単位の一括契約により割安な価格で全従業員が利用できるライセンス形態。FileMaker のライセンス比較はこちらから。

3. 業務に合わせて自在に改良してきた生産管理システム

食品製造の現場では、製造した商品に商品名や原材料、賞味期限、原産国、製造元などを記載したラベルを貼る必要がある。当初、製品コードや賞味期限などの必要情報は、ラベル機器に手入力を行い印字していた。「当社は製造現場も 複数個所に分かれているうえ、多品種生産なので印字リストが大量にあります。そのため、必要な情報を都度判別しなければならず、ラベルの作成はベテランでないとできない作業でした」と菊地氏は当時を振り返る。

現在は FileMaker でバーコード付きの製造指示書を出して賞味期限も自動算出し、現場でバーコードをスキャンするだけでラベル出力できるようにしている。これにより誰でもラベルを出力できるようになり、ミスも激減した。

「世間でよく知られている既成のパッケージシステムは、機能は充実していると思うのですが、必要のない機能があったり、逆に欲しい機能がなかったりします。自分たちが本当に必要な機能の構築・改良を簡単に出来るという手軽さと、結果としてシステム開発や維持にかかるコストを抑えることができるということが、FileMaker の良さです。配送業者を変更したとき、送り状の修正にも、すぐに対応できました」(菊地氏)

4. 商品ごとの原価や粗利が一目で把握可能になった販売管理システム

同社が扱う商品数は多く、品目ごとの細かい把握が難しい。それに加え、海外からも原料を輸入するため、為替の影響だけでなく、物流費用の値上がりによる間接経費の計算も必要になる。同じ商品であっても 3 か月前に輸入した商品の原価と、現在の商品の原価は異なり、粗利率も異なってくる。

一方で、発注データは大手流通などからは注文が EDI(電子データ交換)で送られてくるため、その時々の個々の利益率がわかりにくく、商品によっては粗利の把握が困難な受注もありうるという事情があった。

そこで販売管理業務では、原価や粗利が発注単位・商品単位毎にわかる仕組みを FileMaker で構築。注文商品の粗利率が目標を上回っていればセルの色を緑色に、注意喚起に黄色、改善が必要なほど下回っていれば赤色で表示できるようにした。「受注時に事務担当者が利益状況を直感的に気づけるので、その段階で営業担当者にアラートを共有し、以降の納品単価を見直しするための仕組みです」(菊地氏)

粗利集計画面は粗利率が製品単位で、緑・黄・赤の 3 色で色分けされ、直感的に確認することができる。

この機能を開発するにあたっては、始澤氏は次のように説明する。「菊地さんにFileMaker でレイアウト画面を作成してもらって、私は裏側の仕組みを開発しました。一般的なソフトウェア開発では、エンドユーザに画面設計をしていただくという手法はなかなかできません」

これはローコード開発プラットフォームだからこそ、できるアジャイル開発方法だ。

納品書作成画面も粗利率が色分け表示され、一目で確認することが可能となっている

5. 取引先が増えても柔軟にデータ処理できる拡張性

菊地氏は FileMaker の拡張性について高く評価している。前述の通りコンビニエンスストア・スーパーマーケットなど大手からの注文は EDI データで送られてくるが、そのデータ形式は取引先毎に複数フォーマットがあり、先方の指定形式に合わせる必要がある。FileMaker は新しい取引先が増えても、即時かつ柔軟にデータのインポートが容易で、指定の形式にすぐに合わせられる拡張性に優れている。

その他にも、通関書類、有機 JAS 認証を取得している商品の農薬や肥料などの管理、在庫管理などさまざまな業務に FileMaker を活用。外部の会計ソフトウェアとも連携して基幹業務システムとして運用している。「手作業がシステム化され、業務がスムーズに流れるようになりました。また、集計が容易にできるようになり、収益状況が見える化できるようになっています」(菊地氏)

丸成商事で使われている FileMaker で構築された基幹業務システム

このシステムを利用して日常業務を進める丸成商事 購買管理 時田 幸子氏は、「入社したときからこのシステムがあったので以前の仕組みと比較はできませんが、過去のデータの確認や集計が簡単にできるので日々助かっています」と語る。

これからも丸成商事は、FileMaker を活用し改善を続け、時代の変化にも柔軟に対応していくことだろう。

左から TonicNote 竹内氏、丸成商事 菊地氏・ 時田氏、アイ・ティ・コモンズ 始澤氏

【編集後記】

丸成商事は過去の「天津甘栗」の成功に甘んじることなく、研究開発や新商品開発にも積極的に挑戦している。例えば、消費者庁届出の機能性表示食品である、食後の血糖値や血中中性脂肪の上昇を穏やかにするジャスミン茶や、内臓脂肪と BMI を減らす機能がある没食子酸を含む黒プーアル茶などがあげられる。

このような挑戦の成功は、FileMaker によって実現した DX の成果だという。原料価格高騰時における低採算製品をいち早く察知し、速やかな顧客交渉を行うとともに、粗利益率を上昇させ、より新しい商品を提案することで新しいビジネスを生み出している。

同社の構築した Claris FileMaker による基幹業務システムは、商品ごとの粗利が一目でわかったり、製造工場の作業量を各現場が共有できる仕組みなど、自社の業務にピンポイントで対応したユニークな機能が多い。これらの機能を実現するには、既成の ERP パッケージのカスタマイズではコストに見合わない。ローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker と、それを的確に形にできる開発パートナーが、丸成商事の DX を支えていると感じた。