目次
- 20 年以上使用したオリジナルの販売管理システムには、さまざまな問題が
- Claris Platinum パートナーとの出会い、そしてFileMakerによる内製化を選択したワケ
- 二人三脚で取り組んだシステム内製化
- FileMaker による内製化でデータ入力の効率化、トラブル対応改善も実現
- FileMaker の活用を広げ、社員が働きやすい環境も目指す
日本で初めて美容皮膚科を開設したドクターイシイ(石井禮次郎博士)が長年の経験をもとに開発したスキンケアプロダクト「MD化粧品シリーズ」。その卸売を長年にわたり手掛けてきたエムディ化粧品販売株式会社は、20 年以上使い続けてきた販売管理システムから Claris FileMaker で開発された新システムに移行した。従来のシステムではトラブルが多発し、業務を停止せざるを得ない状況がしばしばあったというが、今回のシステム刷新により、そうした課題を解消し、取引先の発注システムの更新、営業データの分析、法改正などに対応できる柔軟な販売管理システムを実現した。卸売業者にとって、心臓とも言えるほどの販売管理システムを移行した背景には、どのような思いがあったのだろうか。今回はシステム移行を手掛けたエムディ化粧品販売の取締役会長 山本 和宏氏に話を伺った。
1. 20 年以上使用したオリジナルの販売管理システムには、さまざまな問題が
美容皮膚科医の第一人者である石井禮次郎博士が開発したエムディ化粧品は、安全性と効果が確認された生薬・ハーブなどを原料とした皮膚の生理作用を引き出す自然派化粧品で、多くの女性から長年にわたり支持を得ている。
化粧品専門店やドラッグストアへの卸売を手掛けるエムディ化粧品販売は、販売管理システムを利用して受注から商品出荷までを管理している。注文は FAX と EDI(電子データ交換)システムを通じて受け、受注内容を担当者が手作業で販売管理システムに入力。そのデータをもとに、受注した当日に出荷を行う。また、工場から入荷した商品の仕入れデータも担当者が販売管理システムに入力・管理している。
同社は 1999 年から 20 年以上、Oracle をベースとしたオリジナルの販売管理システムを使用していた。外部のソフトウェア業者に開発を委託し、同社の販売管理業務の要件を細かく反映させたシステムであったが、利用に際してさまざまな問題が生じていたと、同社の取締役会長であり、経理・人事や情報システム管理も担当する山本 和宏氏が語る。
「従来のシステムは当社フォーマットの帳票や営業資料作成といった標準機能を備えていましたが、顧客や社員の細かい要望に応えられないことも多々ありました。例えば、取引先から業界の規格に沿った書式の伝票を求められたり、社員から営業会議に使う分析資料を求められたりすることがあり、それに応えるためにはシステム改修が必要でした。例えば書式の細かい部分を1カ所だけ直すといった軽微な変更であっても、標準機能の範囲を超えてしまうとその都度業者に改修を依頼する必要があり、かなりの時間とコストがかかってしまう状況だったのです」(山本氏)
そこで社員からの要望に応えるために、販売管理システムと Access を CSV で連携し、山本氏自ら資料を作成するように。月例の営業会議用の 10 種類程度の資料や、それ以外にも営業が必要とするデータがあればその都度対応していたという。一方、取引先から求められる伝票の変更については、対応が難しいものは断らざるを得ず、顧客の望みに応じられないことでじくじたる思いを抱いていたそうだ。
さらにこのシステムの大きな問題点として、稼働のためにさまざまに設定された特定の PC で管理していたため、システムトラブルが発生した際にすぐに復旧できなかったことが挙げられる。「例えばハードディスクに故障が発生した場合、他のパソコンに販売管理システムをセットアップする必要があるのですが、これもやはり業者に依頼しなければ復旧できない状態でした。当社は受注した商品をその日のうちに出荷するため、システム停止を許容できるのはせいぜい 1 時間。それを超えると出荷が遅れてしまい、業務に多大な支障が生じてしまいます。実際に、復旧対応に半日近くの時間がかかり出荷が遅れたケースも何度もありました」(山本氏)
このように、システムに拡張性がなく多くの手間やコストが発生してしまうことや、システムトラブルへの対応が困難なことから山本氏はシステムの入れ替えを構想し始める。
「実際にシステムの入れ替えに踏み切ることとなった大きなきっかけは、Windows OS のバージョンアップが必要になったことでした。OS をバージョンアップすると Oracle をインストールし直さなければならず、それに伴い改造しなければならない部分もありました。その時間とコストが大きな負担になることに加え、パソコンが古くて、いつ壊れてもおかしくない状態になっていたことから、いよいよ具体的にシステム入れ替えを検討せざるを得なくなったのです」(山本氏)
2. Claris Platinum パートナーとの出会い、そしてFileMakerによる内製化を選択したワケ
2016 年以降、山本氏は旧システムの開発業者を含めて 5、6 社に問い合わせ、新システムの検討を行った。当初はパッケージの販売管理システム導入も検討したというが、請求書の締日が2種類存在するなどといった同社の業務上の複雑な仕様には対応できず、カスタマイズにも限界があった。ほかのデータベースソリューションを検討するも、旧システムで構築した細かい仕様の引き継ぎをはじめ、システムの拡張性や障害時の対応を踏まえた汎用性を網羅するものがなく、新システムの選定は困難を極めた。
検討開始から2年近くを経た 2018 年春、山本氏は付き合いのある業者を介し、Claris Platinum パートナーの株式会社イエスウィキャン 川口 洋一氏と出会う。川口氏に相談していくうち、山本氏は懸案の販売管理システムをFileMakerで構築できることを知る。
「かなり昔ですが、FileMaker を使って会社で使う簡単なデータベースを自作したことがあり、それ以外にもClaris製品を愛用していたことがありました。馴染みが深く、また使いやすいという印象も持っていたので、FileMakerなら拡張性が高く、帳票の変更にもフレキシブルに対応できると感じたのです」(山本氏)
この拡張性に加え、ハードウェアに依存せずに使える汎用性の高さや、クラウドに対応していて安定した稼働が期待できたことから、 FileMaker によるシステム内製という手段を選択した。
3. 二人三脚で取り組んだシステム内製化
こうして 2019 年 3 月より、エムディ化粧品販売とイエスウィキャンとで FileMaker を用いた二人三脚のシステム開発がスタート。コアとなる部分はイエスウィキャンが構築し、取引先の発注システムの更新、営業データの分析、法改正などに対応できるよう帳票の改造や簡単な機能追加はエムディ化粧品販売が行うという方針のもと、開発が進められた。山本氏は本格的な開発経験はないものの、前述のように FileMaker を用いた簡単なデータベース構築や、独学で Access の操作を学んだこともあり、小さな変更程度であれば問題なく対処できると考え、この方針に至ったという。
一方、イエスウィキャンの川口氏は、開発時の苦労を次のように明かす。 「山本さんからは『コアとなる部分は旧システムと同じように作ってほしい』という要望を受けました。旧システムは、拡張性や復旧のしにくさに課題を抱えていたものの、システム自体はよくできていました。ただ、稼働中のシステムを持ち帰って調べたりもできないので苦労しましたね。マニュアルのドキュメントが残っていたため、それを紐解きながら“同じもの”を目指しました」(川口氏)
業務を理解するために打ち合わせを何度も重ねながら構築を進め、2020 年 6 月ベータ版を納品、そして 2021 年 1 月に最終版納品へと至った。その間、旧システムを動かしていた PC はいつ止まってもおかしくない状況であり、実際にダウンしてしまう事態も発生した。「川口さんは旧システムの復旧も快く引き受けてくれました。イエスウィキャンさんと共同開発ができて、本当によかったと実感しました」と山本氏は振り返る。
4. FileMaker による内製化でデータ入力の効率化、トラブル対応改善も実現
ベータ版の稼働開始から 3 年を経た現在、旧システムで抱えていた課題はどう改善されたのだろうか。山本氏が語る。
「今回の新システムへの移行とともに新しいパソコンを導入したこともあり、システムトラブルが起きたことは一度もありません。仮に起きたとしても旧システムのような時間やコストをかけずに復旧できることがわかっているので、安心感が大きく高まりました。さらに、データがクラウドに保存されているため消失の心配がなく、データ管理の点でも安心できます」(山本氏)
システム改修についても、山本氏が自ら行うことで、時間とコストの両面で大きく改善された。コストは、およそ3分の1程度まで削減できたという。
また、ユーザインターフェースに優れたデザインを得意とする FileMaker の利点を生かした画面設計により、データが格段に入力しやすくなり、社員の業務効率化にも寄与している。時間削減はもちろんのこと、入力ミスというヒューマンエラーの危険性も減らしている。
その一方で、いまだ Access を使用した資料作成や分析の業務が一部残っているという。また、部門によっては Access や Excel によるデータ管理も行われている。こうした点についても FileMaker でカスタム App を作り、システム本体のデータを各部門で直接利用できるようにしていくなど、徐々に改善を進めていきたいと山本氏は意欲を示す。
5. FileMaker の活用を広げ、社員が働きやすい環境も目指す
さらに今後は、Web ブラウザを通して FileMaker ベースのカスタム App を直接実行できる Claris FileMaker WebDirect の活用も視野に入れる。
「当社の営業は直行直帰が基本ですが、現状は外出先から最新の売上データを見る環境はありません。データを確認するためにわざわざ帰社したり、内勤社員に電話で聞いたりしなければなりません。FileMaker WebDirect を使えば、リアルタイムなデータを社外から見られるようになるので帰社の手間はなくなりますし、内勤の対応業務を減らせる効果も期待できます。在宅時も含めて社外で対応できる業務の幅を広げるなど、柔軟な働き方を実現しつつ業績を上げていけるよう、これからもFileMakerの活用をさらに深めていきたいですね」(山本氏)
最後に山本氏は、現状のシステムに満足していない事業者に向けて次のようにメッセージを残した。
「システムの内製化はコストや時間の面でかなり有利になりますが、高い安定性が求められるシステムのコアな部分はプロに開発をお任せすることも重要です。部分的なシステム改良などを自社で行える体制さえ作れば、内製化のハードルを下げつつ顧客や社員の要望に迅速に応えられるようになり、ひいては顧客・従業員満足度の向上・サービス品質の向上にもつながります。今回の内製化の取り組みを通して、FileMaker を活用したシステム内製はビジネスを大きく前進させる一歩として、とても有効な手段であると強く感じています」
*本記事は 2023 年 12 月 21 日に TECH+「企業 IT チャンネル」に掲載された記事を転載しています。