事例

私立中高一貫校サレジオ学院が実現した「学校教員の働き方改革」とは?

目次

  1. 教員の働き方を見直し、年間 1 万枚以上の申請書の処理をデジタル化
  2. 勤怠管理や申請は iPhone で完結
  3. 仕組みづくりで教員の働き方に対する意識が変わった
  4. Claris Connect で FileMaker と 外部サービス連携
  5. 内製化と Claris パートナーとの協業で教育 DX を加速

神奈川県横浜市にあるサレジオ学院中学校・高等学校。「25 歳の男づくり」というスローガンの下、社会に出た後にリーダーとして活躍できる人材の育成を目指す、中高一貫の自由な校風で知られるミッション・スクールだ。同校では、Claris FileMaker を活用して、業務支援システムを内製構築。教職員の勤怠管理や各種申請・承認、書類管理など、多岐にわたる業務の効率化を実現している。

1. 教員の働き方を見直し、年間 1 万枚以上の申請書の処理をデジタル化

校内で利用するさまざまなシステムの開発・保守を行っているのは、同校事務長の石橋 大城 氏だ。石橋氏が 2000 年にサレジオ学院に転職した当時は、ほぼすべての事務作業が紙で行われていた。同校の教職員は 100 名以上おり、申請書だけでも年間で 1 万枚余り。申請書の処理だけで膨大な手間と時間がかかることは、当時の課題になっていた。

「これではとても回せない」と感じた石橋氏は、前職で使用していた FileMaker を導入する。これが同校における DX の始まりだった。それが加速したのは 2019 年。働き方改革関連法が施行され、教職員の残業に関する記録・管理が求められるようになり、それに対応するため石橋氏は勤怠管理システムの内製化に着手した。

勤怠管理システム内製の経緯について、石橋氏は次のように振り返る。

「以前は、紙のタイムカードの打刻で教職員の出退勤を管理していました。また、有給休暇や出張、休日出勤など、勤怠に関わる申請・承認はすべて紙の書類で行っていました。この 2 つをどう連携させるか、コストがかからず効率的な方法を模索し、試行錯誤しました」

Excel や他のノーコードツールで作成したアプリを試すも、データ連携や処理に問題があり、いずれも使用を断念。IC カードによる打刻、バーコードやビーコンの活用も試したが、どれも効率化はかなわなかったという。

最終的に、出退勤の打刻と勤怠申請・承認が行えるシステムを FileMaker で内製することにした。石橋氏は、「導入後はすべての問題が解決できたので、この判断は正解でしたね」と振り返る。

石橋 大城 氏(学校法人サレジオ学院 サレジオ学院中学校・高等学校 事務長)

2. 勤怠管理や申請は iPhone で完結

同校では教員に iPhone を支給している。勤怠管理の課題を解決するために開発されたシステムは、打刻や申請手続きのすべてをその iPhone のカスタム App (FileMaker Go)で完結できるというものだ。

打刻機能には iPhone の位置情報サービスを活用。緯度経度情報から校内エリアであればどこでも打刻できるようにしている。「教職員のプライバシーに配慮し、位置情報はあくまでエリア判定のみに利用し、システムに残さないようにしています。以前は、部活動の指導を終えて疲れた教員が、タイムカードの打刻のためだけに 暗い校舎を 4 階の職員室まで階段を上がったりしていました。今では帰り際に駐車場からでも打刻できるようになり、教員からも感謝されています」と石橋氏。

有給休暇などの申請手続きはいつどこからでも iPhone 上で行えるようになり、教職員から申請があると、管理者(教頭)に LINE WORKS で 通知され、承認まで完結できる仕組みになっている。これは FileMaker と LINE WORKS の API 連携で実現させた。LINE WORKS の通知は Apple Watch で確認可能なため、タイムラグなしで承認できる。以前は承認者が不在の際など、承認までに 4、5 日かかることもあったのが大幅に短縮された。そして事務職員は紙の申請書をデータ化する作業から解放された。1 万枚余の書類を保管する必要もなくなり、執務室のスペースを有効活用できるようになった。

教職員に配布されている iPhone SE(左)と申請があった際の通知が表示されている Apple Watch(右)

3. 仕組みづくりで教員の働き方に対する意識が変わった

近年、教員の長時間労働が課題になっているが、サレジオ学院でも以前は残業や連続勤務に対する意識が希薄だったという。FileMaker による勤怠管理システムの導入後は、設定上限時間を超過しそうになったら注意を促すメッセージを LINE WORKS から自動送信したり、月末に勤務表未提出の教員に対して自動通知で提出を促したりしている。

「FileMaker 導入の最大の成果は、仕組みづくりによって勤務状況が可視化され、教員の働き方に対する意識が変わったことです」と石橋氏。

もし残業時間が超過していることがわかっても、管理者がその事実を直接教員に告げて残業しないように指導すると、状況によっては角が立つこともあるだろう。またすべての教員の動向に同じように目を光らせることも難しい。その点、システムで自動通知できれば、教員側も事実を客観的に受け入れやすい。さらに、学校教育法で義務づけられている全教員の活動を記録する「学校日誌」も、申請内容等が自動で反映されるようになったので、作成の手間が大幅に軽減され管理職にも好評である。

iPhone の生体認証によるロック解除、カスタム App を起動する際のセキュリティ認証、さらには通信とデータベースを暗号化できる FileMaker Go は、校務支援システムだけでなく、教員の給与明細の確認機能なども実装している。セキュリティも万全で記録も手軽に行えるので、今や教員達が日常業務を遂行する上で欠かせないツールの 1 つとなっている。

勤怠管理システム。出張の経費精算や有給申請なども iPhone で即時に対応できる

4. Claris Connect で FileMaker と 外部サービス連携

直近では、ワークフロー自動化サービス Claris Connect を活用してさまざまな外部サービスと FileMaker を連携させた。このカスタム App の改善によって、業務効率とユーザの利便性向上が加速している。例えば、「駅すぱあと」との連携で、教員の住所から学校までの経路を検索し、支給交通費が自動で FileMaker に入るようになった。他にも、保護者向けアンケートを Google スプレッドシートと FileMaker との双方向連携で結果をデータベース化し、集計作業を効率化している。

2024 年からは入試の際、受験者からの辞退の連絡を Google フォームで受け付けるようにする仕組みを導入した。以前は電話やメールで辞退を受け付けていたため、データベースがリアルタイムに更新されなかった。導入後は辞退連絡が即時 FileMaker に反映されるので、すぐに繰り上げ合格通知を出せるようになったという。事務効率が上がるだけでなく、少しでも早く合格の知らせを受けたい受験生にとっても大きなメリットがある。

MacBook で勤怠管理画面を開発する石橋氏

5. 内製化と Claris パートナーとの協業で教育 DX を加速

これまでは石橋氏がすべて内製でシステムを構築・運用してきたが、株式会社サポータスに 5 年ほどクラウド環境での FileMaker Server 運用の支援を受けたことで信頼関係が深まった。今後は株式会社サポータスに技術的な支援も協力してもらい、属人化を避けながら教育 DX を加速していく考えだという。

「受験・入試などでインターネット出願をするツールや会計処理など、既存の専用システムも継続的に利用していきますが、校務には学校ごとのルールなどがあるので、既存のソフトウエアではフォローできないことや非効率な業務も発生します。そこで FileMaker を活用して、その隙間を埋めるのです。生徒にとって理想的な学びの場を提供するには、教員のワークライフバランスも大切です。教師が生徒に向き合う時間を作るためには、さらに FileMaker による教育現場の ICT 活用を進めていく必要があります。自分 1 人で開発を行うには、時間も限られているので、状況に応じてサポータス社の支援を仰ぎたいと思います」と石橋氏。

「Claris Connect と FileMaker との連携、また他システムの API 連携など、当社の経験豊富なエンジニアとスクラム開発していただくことで内製化の作業効率が向上します。サレジオ学院の課題を解決するための相談先としてサポータスが教職員の皆様のお役に立てることができ、たいへん嬉しいです」とサポータスの加茂氏と佐々木氏。

教員の労働環境の過酷さがしばしば話題に上がる昨今、サレジオ学院のように教職員が自らデジタル化の恩恵を受けることは、生徒の学びにおいても非常に有効だ。教職員自身がデジタル社会のメリットを体現し、それを生きた教材として見せアドバイスすることによって、デジタル技術が進化していくこれからの社会のリーダーを目指す生徒たちへの説得力も増すからだ。

サレジオ学院の教育現場における DX への取り組みは、生徒たちが生き生きと学ぶことができる学習環境づくり、そして保護者にも信頼される学校づくりを促進している。

左から:加茂 美寿々 氏(株式会社サポータス)、石橋 大城 氏、佐々木 輝 氏(株式会社サポータス)

【編集後記】

サレジオ学院の教育方針は、イタリア語で「常に寄り添う」ことを意味する「アシステンツァ(assistenza。英語では assistance)」である。これは「教師が生徒に寄り添う教育を行うこと」を指しているが、石橋氏と話している間、この言葉を幾度となく使っていたのが印象的だった。実は石橋氏も同校の卒業生。「アシステンツァ」の精神が根付いているのだろう、カスタム App の開発にあたっては徹底的にユーザに寄り添った視点で機能やデザイン作り込んでいったという。Claris が無料配布するアイコンなども利用しながら、すべての教職員が容易に使えるようにと、細部まで考え抜かれたカスタム App は見事な出来栄えだった。

11 月 13 日〜15 日開催 Claris カンファレンスに、サレジオ学院の石橋氏、サポータスの佐々木氏、加茂氏が登壇し、本事例について詳しくご紹介いただきます。
11 月 15 日(金)14 : 40 〜 15 : 25
「教育現場 DX:教員の負担軽減・働き方の見直しに!事務長自らローコードで開発する業務支援システム」

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