目次
- 業務改革で新たなシステム導入を検討
- 求めるシステムを適正コストで実現できる Claris FileMaker を選択
- 緻密な管理が可能になり、作業効率が 3 倍に向上
- 更なる改善を計画中。操作性を高めパッケージ化へ
1. 業務改革で新たなシステム導入を検討
東京都江戸川区で、アパレル・雑貨・イベント商材を中心とした縫製・検品・プリントなどを中心にさまざまな 2 次加工を行うほか、物流サービスも提供する株式会社パートナー。パート社員を含む従業員数は約 115 名にのぼる。
一般的にアパレル業界では、縫製、プリント、検品、プレスなどそれぞれ専門領域のみを扱う小規模な企業が多い。そのため、1 つの製品が仕上がるまでに複数の企業に発注する必要がある。企業間を仕掛品が動く度に物流費が発生し、手間と時間もかかる。
他方、パートナーは縫製・検品・検針・仕上・プレス・洗い・インクジェット・シルクプリント・転写を一気通貫で行っている。物流機能も有するため、自社だけでほとんどの工程に対応でき、製品完成までの時間短縮やコストダウンを可能にしている。パートナー 専務取締役 木村 剛氏は「繊維業界に 30 数年いますが、この規模感でこれだけ複合的なことを行っている会社は、他にはほぼないでしょう」と語る。
同社も以前は縫製と検品が中心の業態だった。当時は 3 フロアそれぞれで同じ業務を行っており、フロアごとに営業担当者が付いて競い合っていた。フロア内で業務が完結し、ある程度全体像が把握できていたためシステム化されておらず、業務管理は表計算ソフトで行っていた。木村氏は「業務管理の書類は担当者によって入力したりしなかったりという状態でした。そのため、工程の進捗やオーダーの詰まり具合などもはっきりせず、時にはモノの紛失や出荷の遅れが生じていました」と説明する。
非効率な仕事の進め方を改善すべく、フロアごとに専業の部門に分ける方向で業務改革が始まった。順次設備投資を行い、物流、洗い加工、デジタルプリント、データ処理・製版、検針・仕上げアイロン、検品・セットアップ・梱包、縫製、シルクプリント、協力工場管理の 9 部門にまで業務を拡大した。業務が拡大すると属人的な手段では情報の把握が難しくなるため、データによる管理が必須となる。部門を跨いだ情報の受け渡しも必要だ。そこで、システムの導入を検討し始めた。
2. 求めるシステムを適正コストで実現できる Claris FileMaker を選択
新たにシステムを導入するにあたって、木村氏はさまざまな角度から最適なプラットフォームを探した。しかし、顧客管理、生産管理、従業員管理、財務管理をすべて網羅したシステムが見つからない。「各業務で使えるソフトなら、既成品でも良かったかもしれませんが、バラバラのシステムを導入したら二重、三重入力が発生します。システム会社に頼み、スクラッチ開発することも考えましたが、AI の活用を含めた構想を話したところ数千万円かかり、それでもできるかどうかわからない、と言われました」(木村氏)。
実は木村氏は前職で Claris FileMaker を使ったシステムを構築した経験があった。そこから、「FileMaker ならできるかもしれないと考えました」と語る。結局数社の提案と見積もり額を比較検討したうえで、Claris FileMaker 19 を選択。木村氏が原案と要件定義を担当し、旧知の開発者に構築を頼む方向で決定した。
開発は、幹の部分から着手し、枝葉は後から追加する方法で行った。最初のバージョンを半年ほどで開発し、2020 年に運用を開始。その後は修正や機能追加を継続的に行い、3 か月から半年に 1 回は新機能をリリースしている。「修正の場合は、関連する部門のみに説明しますが、新機能を追加した場合は、全社的に説明会を開いています。そこで多くの意見をもらって修正し、さらに機能を追加するといった改訂を繰り返しています」(木村氏)。
面白いのは、メニュー画面に「開発中」や「テスト中」というフェーズの機能も表示されていることだ。今後の予定まで見えるので、この機能は早く作ってほしい、別の機能を先に作ってほしいなど、社員からの要望も多く寄せられる。「開発中は触らないように徹底させていますが、基本的にシステムは全員にすべてオープンにしています。テストランも見えるので、出来あがる前に意見をもらえ、効率が良い」と木村氏は語る。
3. 緻密な管理が可能になり、作業効率が 3 倍に向上
システムのメニューは部門ごとに分かれている。また、プロジェクトによって工程が異なるため、必要な工程を組み合わせて業務を組み立てられるようになっている。前工程からプロジェクトが流れてくると、スタートボタンを押して当該部門の業務がスタート。終了して次に渡すときに終了ボタンを押す。「QR コードなどで入力することも考えましたが、それではスケジュールが頭に入りません。敢えてアナログなスタート/終了ボタンを押すことで、スケジュールを意識しやすくしています」(木村氏)。
導入に際しては苦労もあった。正確に業務を把握するにはすべての項目に入力することが必要だ。しかし、従来厳密な業務管理を行っていなかったので、反発もあった。必ず入力してもらうため、システムへの入力が完了しないと仕事ができないようにし、導入後 3 か月ほどは木村氏が毎日入力状況をチェック。徐々に入力する文化が定着していった。現在では社員もすっかり慣れ、「これがないと仕事にならない」と言われるまでになっている。
システムの導入後、コロナ禍により一時的に業績が落ち込んだが、その後回復。コロナ後厳しい市況が続くアパレル業界にあって、売上高が導入前の 1.8 倍に伸びている。「管理が緻密になり、オーダーの受注や作業進捗が把握できるようになりました。その結果、モノの紛失や出荷遅れといった事故もなくなりました。また、急ぎの依頼がある場合、“現在の仕掛品は納品までに余裕があるので、こっちを優先しよう”といったことが容易に判断できるようになっています」と木村氏。ミスがなくなり、顧客の求める品質の製品を納期通りに納められるようなったことで顧客の信頼も向上。新たな顧客を紹介してもらえるまでになった。さらに、生産管理の進化で、売上や仕入金額を「見える化」し、財務や資金繰りを一元管理することができた。
サーバーは社外の開発者が作業しやすいように Claris FileMaker Cloud を利用。端末は約 30 台の PC を利用している。パート従業員は個人のスマートフォンから会社のホームページにアクセスし、そこから Claris FileMaker にアクセスして出退勤の入力を行っている。
4. 更なる改善を計画中。操作性を高めパッケージ化へ
現在計画しているのが、現場への iPad の導入だ。現状、作業進捗や検品報告書の入力といった現場確認が必要な業務においては、紙にメモをとり PC の設置場所へ行って入力をするという手間が発生している。これを Claris FileMaker Go と iPad を導入することで、現場で直接システムに入力できるようになる。現在開発中で、まもなく導入予定だ。
さらに今後は、現場の情報を周囲のステークホルダーに公開していく予定だ。協力工場にシステムを導入することで、効率化やスピードアップを図るとともに、顧客に対しても進捗状況を公開し、より信頼感を高めていきたいと考えている。
将来的には、従業員のシフト管理に AI を活用したいと考えている。作業者は個人ごとにできる業務が異なるため、一人ひとりのクオリティーレベルを判断してシフトを組むのはかなり手間がかかる。そこで、個人のクオリティーレベルを AI で判定し、自動でシフトを組めるようにしたい考えだ。その実現に向け、新たに AI 機能が強化された Claris FileMaker に期待している。
一方で約 4 年間にわたって改善を繰り返してきたシステムは、いささか操作画面が複雑になってきたと木村氏は次のように語る。「使い勝手をよくするため一から整理し直し、再構築しようとしています。そのうえでパッケージ化し、外販していきたい。こういうシステムが欲しいという工場は多いので、これで利益を出すというよりは業務の見える化や効率化を進めることで、業界全体が元気になれればと考えています」
【編集後記】
パートナーの開発は、従業員に対してもオープンで、開発中でも広く意見を聞きながら行われている。社内で開発に携わっているのは木村氏ひとりなので、「自分ひとりでは限界がある」と謙虚だ。現場の意見を聞くだけでなく、使われていない機能については「なぜ使わないのか」を現場に聞き、改良を続けている。このような開発姿勢が、社内だけでなく多くの人に優れたシステムだと感心される理由なのだろう。