事例

パッケージ製造・販売会社の抜本的な業務改善。秘訣は"人材育成"と"一致団結"にあり

目次

  1. 「元・販売管理ソフト」の基幹システムが抱えていた課題
  2. 自社の業務に合った基幹システムを再構築
  3. 「開発は専門家、修正は社内」の役割分担が功を奏す
  4. 精緻な見積もりの作成で、会社全体の粗利も改善
  5. “改善を続けるため”に、人材育成に力を入れる

1961 年創業の株式会社ヤマガタグラビヤは、 OPP 袋と呼ばれる透明パッケージを製造・販売している。具体的にはチャック袋や三方袋、ヘッダー袋などの種類があり、その用途はホテルのアメニティ用品入れや、アクセサリーなどの内袋、試供品を入れる販促袋など多岐にわたる。中に入れる商品に合わせたパッケージを制作するため、受注生産が基本だ。現在はパッケージ制作のみならず、取り扱いに資格が必要な医療用品である滅菌ガーゼの封入などにも携わっている。パッケージの制作から製品の封入まで、一貫して行う体制を同社は整えている。

商品に合わせてさまざまな形状のパッケージを製造している

1. 「元・販売管理ソフト」の基幹システムが抱えていた課題

同社は従来、販売管理のパッケージソフトを一部カスタマイズし、基幹システムとして使っていた。しかしそれはあくまでも「販売管理ソフト」であり、見積もりから販売管理、生産までをトータルで管理できるシステムではなかった。加えて、たとえ些細な改善であってもシステムの修正はベンダーに依頼しなければならず、その都度コストと時間がかかっていた。

同社の課題は他にもあった。基幹システムに見積機能がなかったため、営業担当者は別途表計算ソフトで見積もりを作成する必要があった。原価計算を標準化したいという会社の思いとは裏腹に、属人化した表計算ソフトでの見積もりでは、その標準化すらも難しかったのだ。ヤマガタグラビヤ 代表取締役社長 山形 勇仁氏は、「営業は仕事を取りたいので見積もり作成時に“特値”を付けがちです。しかし、それでは誰かが損をするので継続性がなく、今の時代に合いません。会社としては、金額だけでなく交渉力で仕事を取ってほしい。そのためには原価を固定することが必要だと考えていました」と当時を振り返る。これらの課題を抱えながら従来のシステムを使い続けていたが、システムの更新時期にあたって、リプレースの検討を始めた。

山形 勇仁氏(ヤマガタグラビヤ 代表取締役社長)

2. 自社の業務に合った基幹システムを再構築

基幹システムの更新に先立ち、品質保証部ではクレーム対応に備えたトレーサビリティの仕組みを構築していた。その際システム基盤として採用したのが、Claris FileMaker である。その理由をヤマガタグラビヤ 品質保証部 岡崎 則子氏は次のように語る。「それまでクレーム対応は手作業で行っており、システム化が必要だと感じていました。しかし、前職で使っていたデータベースソフトは融通が利かず、組み替えが難しいという不満がありました。そこで、私が Mac ユーザーだったこともあり、試しに FileMaker を使ってみたんです。直感的に利用ができ、修正も簡単にできる点に魅力を感じました。これなら使えそうだとトレーサビリティの管理システムを作成し、使い始めました。会社の PC は Windows だったのですが、FileMaker は Windows でも動くところもポイントでした」

岡崎 則子氏(ヤマガタグラビヤ 品質保証部)

その後迎えた基幹システムの更新時期。そして、その更新には相当な費用がかかることが判明した。岡崎氏は当初、基幹システムを補うサブシステムとして FileMaker を活用しようと考えていたが、試しに FileMaker で一から基幹システムを開発した場合の見積もりをとったところ、更新する基幹システムとほぼ同額でできることがわかった。それならば、操作性も高く、自社に合ったシステムが構築可能な FileMaker で基幹システムを開発したほうがメリットが大きいと考え、山形社長に相談した。

社長自身もプログラミング言語 COBOL での開発経験があり、システムに明るいこともあって、岡崎氏の提案を受け入れた。「FileMaker を活用するのは初めてでしたが、自分たちの業務に合わせたシステムを構築できるところを評価しました。また、従来のパッケージソフトでは自分たちで細かい修正ができなかった一方で、 FileMaker なら必要に応じ自分たちで修正が可能な点も評価のポイントでした」(山形社長)。

3. 「開発は専門家、修正は社内」の役割分担が功を奏す

基幹システムの初期開発についてはシステム開発会社に頼み、導入後の修正は社内で行うという基本方針で開発に臨んだ。信頼できる会社を探し、最終的にパートナーに選んだのが、大阪市にある Claris FileMaker による開発に特化した Claris パートナー、株式会社バルーンヘルプである。「Claris のイベントやハンズオンセミナーで面識があり、我々の要望に応えてくれる柔軟性があると感じました」(岡崎氏)。

社内の開発担当は、ヤマガタグラビヤ 総務部(当時は営業支援部) 橋谷 一生氏が務めた。文系出身だが、効率化に対する意欲が旺盛で、表計算ソフトでさまざまな工夫を繰り返している姿に、開発に向いていると岡崎氏が推薦。担当に決まった。

最初の山場は既存システムからのデータ移行だった。橋谷氏は、「移行方法をシミュレーションし、多くの失敗を繰り返すうちに、ファイルの全体構造がわかるようになりました。開発中にバックアップデータをもらって触っていると、“このスクリプトは他でも使い回せる”などといった効率の良い方法も徐々に見えるようになってきたのです。実際に触ることが、上達の一番の近道だと感じています」と語る。

橋谷 一生氏(ヤマガタグラビヤ 総務部)

当初、別の業務と兼務する形で開発を進めていた橋谷氏。その後専任となり、ますます開発にのめり込んだ。「彼は元々面倒くさいことが嫌いなので、効率化につながるシステム開発にどんどんはまっていきました。彼のように効率化が得意な人が主担当となることで、システムの開発・運用が大きく前に進むのだと思います」と山形社長。

新しい基幹システムは 2022 年 10 月から稼働開始。本社を含めた自社の 4 拠点に製造パートナーを加えた 5 拠点で利用しているため、サーバーはクラウド環境で運用している。また、端末は約 50 台の PC を使用。なお、新たな基幹システムの名称は、社内公募により「Core-la (コアラ)」とした。主に扱う製品が袋であることから有袋類のコアラを連想、そして基幹システムという意味の「コア(core)」を重ねた。この覚えやすい名称は瞬く間に社内に浸透し、システム活用が広がる一助となった。

「Core-la」のメニュー画面。製造フローに沿ったわかりやすい UI が好評

4. 精緻な見積もりの作成で、会社全体の粗利も改善

新たな基幹システム Core-la では、営業担当者が見積もりを作成するところから入力が始まる。以前は営業担当者が紙のマニュアルを見ながら、表計算ソフトに仕様と金額を入力して見積もりを作成していた。しかし、“パッケージが空気で膨れないように空気穴を空ける”といった仕様に関する細かい記入漏れなどが発生し、製造原価が見積もりと合わなくなるケースもあったという。Core-la では、入力項目を細かく順に埋めていけば見積もりが完成する仕組みとなっているため、仕様漏れの防止になるだけでなく、営業担当者が不在でもアシスタントが見積もりを作成できるようになり、迅速な対応が可能になった。

一方で、営業担当者が Core-la を受け入れるには時間がかかった。見積もり作成時には毎回細かく入力が求められ、原価も固定され、契約を取るための切り札である “特値”も安易に出しにくい状況となったためだ。「会社としての考え方を理解してもらうため、丁寧な説明を繰り返しました。すると、若い人たちを中心に Core-la の良さをわかってもらえるようになり、徐々に受け入れられていきました」(山形社長)。

Core-la の見積画面。細かい仕様にも対応しており、ミス防止につながっている

Core-la の活用により、原価を固定したいという当初の目的が達成できた。加えて、見積もり段階で詳細な仕様が入力されるようになったことで、正確なデータが製造現場に流れるようになり、スムーズな製造フローも実現した。従来は指示が不明確なケースがしばしばあり、製造担当者から営業担当者への問い合わせが多かったが、現在は減っている。さらに「原価意識が高くなり、会社全体の粗利が改善しています」と山形社長は効果を語る。

5. “改善を続けるため”に、人材育成に力を入れる

Core-la は現在も橋谷氏が主導となり、更なる効率化を目指して改善を続けている。橋谷氏は現在、Core-la 以外にも、勤怠管理の電子化に向けて 1 人でシステムを構築するなど成長が著しい。バルーンヘルプの担当者である井上 佳美氏は、「橋谷さんの成長の度合いは劇的で、とても驚いています」と舌を巻く。

井上 佳美氏(バルーンヘルプ システム開発部)

社内でシステムの修正を続けると、往々にして属人化しやすいという問題が起こるが、同社はさらなる開発者の育成を進めその解消に挑んでいる。その一環でバルーンヘルプの協力の下、インハウスの講習会を継続的に実施。橋谷氏に加え、さらに 3 人の新しいスタッフが Claris FileMaker の使い方を学んでいる。「井上さんに宿題を出してもらって、それを仕上げる形で学んでいます。少人数で、業務の課題を意識しながら挑んでいるので成長も早いです」(岡崎氏)。

同社の取り組み方についてバルーンヘルプの井上氏は、「最初に当社が開発したシステムを、社内で修正されようとする会社もありますが、対応しきれなくてまた当社に戻ってくるケースも少なくありません。ここまで上手く回っている会社は珍しいです」と驚く。

山形社長は、「システムに終わりはありません。改善を続ける必要があり、そのためにインハウスで修正できる体制を整えました」と語る。同社は更なる飛躍のために、タブレットの導入に着手している。営業担当者が客先で利用したり、製造現場での記録用として利用予定で、現在導入のテスト中だ。さらに橋谷氏は委託工場とデータを共有するため、Python や JavaScript など新たなプログラミング言語の習得にも挑戦している。そして山形社長自身も、蓄積データを分析し経営に生かしたいと意気込む。「システム開発は、社内で一致団結しないと上手くいきません。業務に精通した人をプロジェクトに入れ、まずは幹となるシステムをコンパクトに作って広げていくことが、成功の近道と感じています。その基盤として汎用性が高く、会社の課題に合わせてシステムを構築できる FileMaker はとても頼もしい存在です」(山形社長)。

【編集後記】

安易な値引きではなく、戦略と交渉によって利益を伸ばしていきたいという山形社長。その戦略を立てるには、確固たるデータが必要になる。しかし時代に合わせてトレンドも技術も目まぐるしく変化するうえ、業界特有の複雑さと細かさがある業務フローに対応しながら正確なデータを蓄積するには、既製のパッケージソフトでは限界がある。フローに変化があればすぐに手を入れられ、現場をよく知る社員自らが必要に応じて修正を加えられる Claris FileMaker は、山形社長の理念を実現するシステム作りに最適のプラットフォームであると言えるだろう。

もちろん、FileMaker を使いこなすために社員の適性を見極め、抜擢し、Claris パートナーと二人三脚で彼らを育成したり、社員全員がシステムにかかわろうとする同社のマインドが DX 加速の一助となったことは明らかだ。Claris FileMaker と Claris パートナーとヤマガタグラビヤ、この 3 者でどのようなイノベーションを起こしていくのか、今後も注視していきたい。